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世界を廻すモノ  作者: 青空白雲
日常の破損
13/28

先行き不透明な二人

 死ぬかもしれないと言ったアルテミスに一縷はふむ、と一つ頷いて、独り言のように言った。

「生者必死……」

「何それ?」

 呆れより、驚きよりも、まず尋ねた。

 少しは一縷に免疫がついてきたのかもしれない。

「生きてる奴は必ず死ぬって意味」

「そんな言葉あったっけ?」

「今考えみた」

「あ、そう」

 未だに一縷の性格が掴めないな、と何故か悔しく思う。

「ま、そういう訳だから俺はどうでもいいよ。意味ない事には関わり合いになりたくない。どうせ一筋縄じゃいかないんだろ?」

 手をひらひらさせて言う。

 お見通しだった訳ね、と心の中で思う。あれだけ色々言って感づかない方がおかしいだろうけど。

「死んでもいいの?」

 確認するように尋ねる。

「いい。どうせ死ぬんだし。『生きる』なんてただの延命行為なんだから」

 一縷は事もなげに平然と言う。

 延命行為、という言葉に『ああ、やっぱり生き物は死ぬんだな』とアルテミスは再確認させられた気持ちになる。

 もう一縷はアルテミスに手伝うことはないだろう。

 しかし、一応最後まで形式的に説明を続けようと思う。

 心変わりするかもしれないし。

 そして、一縷の心を最も動かす言葉を口にする。

「それに、心を失ったり、自分の性格が改変されるかもしれない」

 言った瞬間、一縷が椅子を押し倒し、勢いよく立ち上がった。うわっと、アルテミスは一縷に聞こえない声で悲鳴を上げる。

「詳しく教えてくれ!!!」

「ええ……ッ? どこにそこまで食い付いたの!?」


◆◆◆◆◆◆◆


「私達二人が魔法を使っていると過程して」

 アルテミスはテーブルにあった鉛筆を拾って、手の上でクルクル廻す。

「過程して?」

 一縷は、アルテミスの瞳を真剣な顔で覗き込んで聞く。

 獲物を狙う獣のような瞳が、一言たりとも聞き逃さん、と語っているのが少し怖い。

「魔法っていうのはぶっちゃけた話、身体をバラバラに分解して物質に転移する訳」

 一縷の視線から逃れるようにクロスワードパズルの一行目の問題を目で追う。

『コレを捨てて去っていく人も居る』と書いてある。

「崩壊の能力は物質に転移して、粉々に砕き割ってるってことか」

「まあそういうことね。魔力単位で分解してる」

 綺麗な字で『タバコ』と書いた。

 一縷はアルテミスの答えを見て、

「でも何で左腕がなくなったりしないんだ? 身体をバラバラに分解するんだろう?」

「あんた、身体を形作ってる魔力の数って幾つか知ってる? 五十兆個よ。生き物の中で世界最多。身体をバラバラに分解するって言っても人間の目にはそんなの見えないわ」

 一縷はアルテミスの掌に収まっている鉛筆を優しく取る。

 アルテミスは少し、慌てたように、なっ!? とか言っているが、気にせず一縷は先程アルテミスが書いた答えを裏側の消しゴムで消す。

「あれか、砂漠の表面の砂だけ使って魔法を発動するみたいなものか。見た目は対して変わらない。というより、わからない」

「何で消す訳?」

 一縷のたとえ話を無視して言う。

「間違ってる」

 一縷は『タバコ』とまだ黒く残っている字の上に『セリフ』と答えを書いた。

「うっ……!」

 と、顔を真っ赤に染めるアルテミス。

「あーあ、濡れっぱなしでいるから熱出てんじゃねえか。顔赤いぞ」

 一縷はそう言って、数秒間悩んだ後、

「ほら、雑巾」

 テーブルの上にある雑巾を手にとって渡した。

「雑巾で拭けって言う訳!?」

「俺は毎回これで拭いてるけど?」

「汚いっ! ……ていうか、一縷って口調コロコロ変わるよね。シリアスモードとコメディモードを使いわけてんの?」

 一縷は、ふむ、と考えて、

「いや、気づかなかったな。二重人格かもしれない」

 とシリアスモードで首を振る。

「……あ、そう」

「風呂はあのドラム缶だけど……水しか出ねえから更に風邪ひくだろうしな」

「春だしね」

 ふわー、と一縷は軽くあくびをする。

「よし。カルマ=モレクスに会いに行く前に銭湯に行く? 俺は金ねえけど」

「あんたのやる気のツボが全くわからないんだけど」

 一縷は、ドアを開けて土を踏む。

「俺の最も失いたくないモノは自分の考えだ」

 命には興味を示さなかったクセに心には執着するのか。本格的に変な奴だ、とアルテミスは思う。

 けれど。

 こんな奴が執着するこそ、失ったらいけないモノのように思えた。

 一縷には一縷にしか見えない大切なモノが真っ直ぐに見えているのだろう。

 他人にはそれが命よりも価値のあるモノだと分かるのかは知らないが。

「まあ、とりあえず銭湯は賛成ね」

 左手でジーンズから財布を取り出して、硬貨を一縷に向かって投げた。

 綺麗な放物線を描く硬貨を一縷は片手で受け止める。

「ま、依頼料ってことで」

 アルテミスは、笑顔を見せて言った。

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