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世界を廻すモノ  作者: 青空白雲
日常の破損
12/28

名前が事実を語るとは限らない

「Aランチをお願いします」

「じゃあ、私もAランチで」

 視線を店内全てに向けながら言うノア。

 明らかにワクワクそわそわしている。

 ファミレスに行った記憶すら失っているのだろう。まあ、青空を忘れているくらいなので対した驚きもない。

「ねえ……」

 ノアが何か決心したように言う。

 視線はメニューに固定されてある。

「んー?」

 と、わざと気づかないフリをしながら本棚から目的の絵本を取ってくる。

「えーと……いや、これ食べてもいい?」

 明らかに話題変更したのが伝わってくるが、やはりそれには気づかないフリをする一夜。

 なんだそれ、とノアが指を指しているメニューを見る。

 とってもお高いデザートだった。

 誰が頼むんだよレベルの。

「ツッコミ待ち?」

 言いながらテーブルに絵本を置く。

「『ノアの世界』?」

 ノアが絵本のタイトルを読む。

「そ。ノアの名前の由来」

「好きなの?」

 ノアは何気なくページをめくって言う。

「好きっていうか、有名な絵本なんだけどな」

 一夜は言いながら内容を反芻する。

 ノアという神様が、善人のみを救い出し、楽園で過ごすお話だ。

 因みに取り残された悪人達は『善』という歯止めがなくなった為、破滅した。

 まあ、愉快なお話ではある。

「作者、神無零夜?」

 ノアが一夜を見ながら、言う。そういえば名字が同じじゃない? と言いたげな顔だ。

「まあな。俺の父親だよ。義理だけど」

「義理?」

 小首を傾げながらノア。

「あー、本当の父親じゃねえっとこと」

「本当の父親は?」

 ズバズバ、質問するなあ、と少し清々しく思いながら、微笑む。

 こういう感じは嫌いじゃない。

「さあ? 捨てられてたらしいからな俺」

「私と一緒だね」

 共通点を見つけたからか、とても嬉しそうに笑う。

 父親や、母親なんて関係なく、共通点だけを見たのかもしれない。

 それが浄も不浄も飛び越えた存在に見えた。

 それこそ、ノアの世界に出てくる神様よりも神様に近く見える。


◆◆◆◆◆◆◆


 ウエイトレスが来るまで一夜の過去のお話をする事にした。

 別に話題は何でも良かったのだが、ノアが聞きたいと言うからだ。

 一夜は、面白おかしくノアに喋った。

 神無零夜は、絵本作家ではなく、旅人だと言う事、神無零夜の友人である伊沢波家に厄介になっていると言う事、生活する為にバイトをしていると言う事、その分部屋にはおおよそ学生らしくない部屋になっている言う事などだ。

 喋ろうとして止めたのは自分がどれだけ部屋の電気を切り忘れているか、だ。

「お待たせ致しました」

 とウエイトレスがAランチを運んできたので一旦、話を中断する。

 と、ウエイトレスが思いっ切りすっ転んだ。

 ぶわっ、とAランチが宙を舞う。サラダが華麗に舞うがゆっくり見える。

 一夜は二つの食器を受け止めて、テーブルに置き、ウエイトレスを抱き抱える。華麗に舞ったサラダが床に落ちた。

 ゴツン、と室内に何重もの音が反響した。

「ふう……」

 髪が鼻腔をくすぐる。整髪料の甘い匂いがする。

 それに抱き抱えた身体は女性特有の柔らさがあり、全体重を載せるように一夜に身体を寄せているにも関わらず重さをそんなに感じない。

「え?」

 ……見ず知らずの俺に身体を寄せている?

 そして、静寂に気づく。

 不穏に思った一夜はウエイトレスの肩から、店内の様子を見た。

 店内に居る人々は授業中に居眠りするように眠っていた。

 いや、倒れていた。

「何だ、コレ?」

 異常すぎる事態に心が大きく動揺する。

 何だ……コレ?

 すうすう、という呼吸音が一夜の耳元に届いた。

 ウエイトレスの存在を思い出し、椅子に座らせた。

 病気か何か? 睡眠ガス? 何だコレ?

「どうしたのかな? みんな……」

 ノアの戸惑いを含んだ声が静かな店内に響く。

 その質問には答えられず、一夜は店内から外を見る。

 店外に居る人々は、やはり店内と同じで、皆一様に眠るように倒れていた。そこはベッドじゃないですよ。そう伝えてあげたい。

 と。

自動人形(オートマタ)ですがー!」

 声が響き渡った。

 人の声とは少し違う、機械の声だ。

『がー!』の所でノイズが走ったのだが、言葉として普通に聞き取れる。

 壊れたラジオを想起させた。

 それから、まだ無事な人が居る! と気づき、一瞬の後、『オートマタ』という単語を発していたことに気づく。

(……オートマ——)

 疑問が沸いた直後、機械の声でありながら、愉しげな様子が伝わる声で、

「神無一夜さーん!」

(え……?)

 思考回路が切断された。

 一夜にこんな知り合いは、勿論、居ない。

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