表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空気予備校  作者: 不の夷
3/3

並んで座る席

 母親が高校の代わりになるところを探してくれた。心のぬくもりを大切にするとか言う予備校だった。いつでも入学できるのだそうだ。

 行ってみると職員室の中の応接室に案内された。

壁に掛け軸みたいなのがあって、ぬくもり教育と書いてあった。

 校長先生とかいう人が来て後ろに女の人がいた。

「担任の先生ですよ」

 と校長が笑顔で言った。

 女の先生は真面目な顔で私に向かって頭を下げた。優しそうな人だった。校長はすぐにいなくなって女の先生と二人になった。

 女の先生は、なにか紙を見ながら学校の説明を始めた。わたしのほうを見なかった。すごく一生懸命な感じだから、わたしはその顔をながめていた。

 そうしていたら目と目があった。女の先生は下を向いてしまった。でもそれじゃあいけないという顔になって、こちらを見たけどまた下を向いてしまった。

 あ、この人、人の視線がこわいんだと気がついた。

 

 次の日に授業が終わって帰ろうとすると女の先生に、

「一緒に帰りませんか」

 と声をかけられた。

 歩いてファストフードの店の前に来たら、

「ここ、入りましょう」

 先生は言った。

 中に入ったら困った顔になって、

「席、どうしたらいいと思いますか」

 と尋ねる。

 わたしもどこにしたらいいか分からなかった。でも考えて窓際で外の見える二人で横に並んで座る席にした。先生は向かい合って話すのは苦手だろうと思ったからだ。

「私、新入社員で研修中なの。担任とかまだのはずなんだけど、この学校は女性は私だけでしょう……」

 女の先生は言う。わたしの母親が娘には年の近い女性の先生を担任になんて指定したからだ。

「私、ちゃんとした先生じゃないけど、がんばるから。よろしくお願いします」

 あ、この人、弱味を見せちゃう人なんだと思った。気をつけないと、いじめられちゃう感じの人で少し心配になった。

 

 それから色々話した。わたしは先生の心配なところを考えながら聞いていた。

 先生はけっこう面白かった。校長のことを思いきって言っちゃうぞという顔をしてセイウチに似ていませんかと言った。

 たしはうんと笑った。思いきって言っちゃうぞという顔のほうが楽しかった。

 わたしは学校に通った。

 学校の職員室は外からよく見えた。わたしは休み時間にはいつも職員室の先生を見に行った。

 学校の帰りにはこの前の店に寄った。窓際の外の見える並んで座る席にした。先生は初対面の人とか苦手だと思う。それなのに先生が誘ってくれたのは女同士だし、わたしだからだと思った。

 わたしは普通の子たちとは違う、だからだと思った。それから先生があんなに話せたのは、わたしの選んだ席がよかったからだと思う。

 

 ある日いつものように職員室を見ていたら先生が校長に呼ばれた。そのまま応接室に行く。

 わたしは応接室ものぞくことにした。窓の隙間から中が見える。

 男の子が座っていた。担任だ。先生はまだ研修中のはず。それなのに担任をもたせるなんて、しかも男の子だ。いじめと同じだと思った。見たら、どこにでもいるような男の子だった。

 そんな子のために先生はそれから忙しくなったみたいで職員室にいないことが多くなった。

 わたしはつまらなかった。


 帰りにはいつものように店に行った。そしたら息がつまるほど驚いた。

 先生と男の子が座っていた。しかも窓際の外の見える並んで座る席だ。

 先生は笑っている。気持ち悪くなるぐらい信じられなかった。

 あの席は、わたしが選んだ特別な場所だと思ったのに。

 しばらくそこに立っていた。先生は、その男の子でも、わたしでも同じだったのだろうか。

 立ったままでいても先生は、わたしに気がつかなかった。このままいたらもっと気持ち悪くなると思った。わたしは後ろを向くと歩き出した。

 わたしが普通の子と同じと思われていたのだろうか。

 涙が出そうになった。

 でも泣いているなんて馬鹿だから母親に電話しようと思った。担任の先生が、わたしを無視して別の子を特別扱いすると言ってやろう。

 話を聞いたら母親はすぐに学校に電話するだろう。母親が、わたしの代わりに言ってくれるはずだ。


 歩きながら、わたしはもっと先も考えた。校長は女の先生を応接室に呼ぶだろう。

 女の先生はどんどん謝ると思う。謝ることが優しさだなんて勘違いしてそうだし泣いたりするかもしれない。

 校長はまあ新入社員はこういうことを経験して、ちゃんとした先生になっていくんだなんて決まりきったことしか思わないだろう。

 わたしはそういうことをしてほしいんじゃない。先生なら、わたしのことが分かってくれると思っただけ。

 わたしの考えることは人の迷惑になるみたいだ。いつもそんなだ。

 こんなわたしが学校に行かなくなればみんなが助かるんだろう。だから、わたしはまたそうしようと思う。

   

   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ