表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【BL】裏アカ男子はバレたくない!  作者: おもちDX


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/6

2.ジーナの秘密

 家に帰りつくと、自分の部屋へ直行する。無機質に整えられたシーツの上に、ぽすっと仰向けに寝転がった。


「……はあ」


 のろのろとスマホを取り出し、ツイスタグラムを開いた。「わっ」と声が漏れる。

 またフォロワーがかなり増えていて、今朝の投稿に来ているコメントもいつもの倍以上だ。こうして投稿した写真に対する反響が大きいと、緊張と喜びでドキドキする。


 ジーナは僕の承認欲求を満たすために作られたアカウントで、当初の想定を遥かに超えて成長してしまったアカウントでもある。

 女装なのは、幼い頃両親の着せ替え人形になっていた記憶があるからだ。昔の写真を見る限り、かつては僕も女の子みたいに顔が可愛かったらしい。


 フォロワーが増えていくのを見るのが楽しかったから、鍵アカにするなんて考えたこともなかった。しかしフォロワーが数千人いても、普段コメントをしてくるのはほぼ決まった人たちだけだ。

 鍵アカにしたところで今と状況が変わるかというとそれほど変わるとも思えず、ついに設定画面からアカウントのプライバシー設定を変更した。


「森苑桂、これで満足したか?」


 フォロワーの欄をスクロールしてみるも、本名で登録している人なんてほぼいないアカウントに彼らしき名前は見当たらなかった。むしろよくジーナが僕だと気づいたものだ。


 そういえば今朝は、暑くなってきたからと初めて半袖ミニスカートに挑戦した写真を載せたんだ。アカウントを作ってもう二年になるけど、勇気が出なかったのもあって露出は最小限だった。

 ずっとリクエストは来ていて、勇気を出して撮った写真が今朝投稿したものだった。


「あ、ケイゾーさんだ。『ホクロがエロい』……へ~~~、そんなとこよく見てんな」


 いつもコメントをくれる人のうちの一人が、“KEIZO”だ。たまに湧く迷惑系コメントを「無視しましょう」と呼びかけてくれたりするいい人で、彼のおかげで僕のアカウントは平穏を保てていると言っても過言ではない。


 今日の写真に貰ったコメントを見ていると、身体にあるホクロに言及したものが多かった。僕は昔から肌が白く、その代わりなのかホクロは多めなのだ。顔にもあるし、腕や脚にも無数にある。


 みんな意外と拡大して見てくれるものだから、背景などは細心の注意を払ってぼかし加工をしている。だけど肌は無加工で乗せるのが僕のこだわりなので、そのままで載せたんだけど。

 ……やっぱり良くなかったかもしれない。


 アカウントを作ったとき、身バレは一番怖いと思っていた。だって我ながら女装とか痛い。

 まさか写真一枚で森苑にバレるなんて。いや、もしかすると今朝の写真とは違う理由で気づいたのかもだけど……明日聞いてみるか。


 とりあえず、今日明日でバラされることはなさそうだからちょっと冷静になってきた。むくりと起き上がって、クローゼットではなく机の引き出しの奥底にしまってある箱を取り出す。


 ネットクリーニングを利用している服は、丸襟でリボンのついた制服風のブラウスが大半だ。スカートも然り。

 今朝投稿した写真とは違うブラウスを着て、赤い紐状のリボンを結ぶ。私服の無難なカーディガンを羽織り、スカートも履いた。


 鏡の前に立つと、女子高生風の制服を着た冴えない男が映っている。似合わないのは分かっているし、実は別に女装は趣味でもなんでもない。

 しかし男にしては線の細い身体と白い肌は、顔さえ隠せばそれなりに写るのだから不思議だ。


 ブラウスのボタンを二個開けて、リボンも合わせて緩める。鎖骨をチラ見せするのはジーナの定番だ。露出は一か所に絞り、今日は腕も腹も見せない。

 きっちりと着こんだ制服の中で、首元だけ乱れているのが抜け感というか。僕のこだわりだった。


 スマホを三脚にセットして、タイマーで写真を撮る。窓から差し込む光の角度も考え、何枚か撮影した。


「……あ。鎖骨に傷できてるじゃん」


 取れた写真をスマホで確認していると、鎖骨に赤い筋ができていることに気づいた。爪の先が掠ったような、細く赤い線。痕が残る感じでもないからいいか。


 むしろ白と赤のコントラストがいいかもしれない。赤いリボンとも調和が取れている。

 傷が目立って邪魔にならない写真を選び、アプリを使って背景をぼかし、露出やコントラスト、色合いを調整する。


 こうして一枚の写真を作品として仕上げていく作業が、何気に好きだ。女装することよりもただ写真を撮って投稿することよりも、光の加減や撮影する角度を考えアプリで細かい調整をすることが楽しいと感じる。


 こだわればこだわるほどツイスタグラムで映えるし、見た人の反応もいい。繰り返すほど楽しくなって、僕はこの遊びをやめられなくなっていた。

 普段は誰も僕を見ていないけど、ここなら大勢に見てもらえる。




 翌日の昼、びくびくしながら外の非常階段へ行くと本当に森苑がいた。下の方でも人の気配があって、非常階段は意外に人気のスポットらしい。


 昨日の森苑が怖かったので、鞄を抱えた僕はおそるおそる近づいた。

 強がってみたり怖がってみたり、我ながら情緒不安定だ。でも、デカい金髪ヤンキーに弱みを握られてビビるなという方が無理だろう。


「……も、森苑」

「ッジーナ、ごめん!」


 おいその名前で呼ぶな! と思わず突っ込みを入れようとした僕は、目の前の金色が床に擦りつけられたのを見て硬直した。


 え……なにが起きてる? なんで森苑は土下座してんの? ……僕が土下座するんじゃなくて???


「なになになに? やめて!」

「俺は、ジーナを、傷ものにしてしまった……! この責任は取る。掃除洗濯炊事はできるから煮るなり焼くなり好きにしてくれ!」

「は……はああっ?」


 意味が分からない。目を見開いてポカンとしてしまった僕は怖さも忘れ、森苑の肩を掴んで起こした。

 土下座されるのって、心臓に悪いんだね……知りたくなかった。


 聞けば話は単純で、今朝僕が投稿した写真を見て自分のつけた傷に気づき、衝撃を受けたらしい。森苑、お前も拡大して見るタイプだったのか。

 そこからなぜ責任を取るという方向に思考が行くのかは謎すぎるが。責任を取って嫁に貰ってやるとかいう昔の考えか? いや、家事はお前がするんかい。


「こんなの傷のうちに入んないって。痕になるようなもんでもないし」

「でも、当てつけみたいに投稿したんじゃ……」

「わ、悪かったよ。そんなつもりは全くなかった」


 くしゃりと泣きそうな顔で見上げてくるから、なぜか僕が謝っている。森苑に対する怖さゲージは急降下し、もはやゼロに近い。

 ずっと立って見下ろしているのも嫌だから腰を下ろすと、両肩に手が置かれ森苑の美形顔が迫ってきた。


「許してくれる……?」

「ジーナって呼ばないならな」

「じゃあ、純那……?」


 名前知ってたのかとか呼び捨てかよとか色々思ったけれど、面倒くさくなって頷いておく。「俺のことも桂って呼んでほしい」と言われたのでそれにも頷き、僕は昼飯を食べだした。

 こんなことをしてたら昼休みが終わってしまう。


 森苑、もとい桂はやけに距離感の近いやつだ。でも、先輩と言われても僕に先輩感がないためこっちの方がいいかもしれない。

 なぜか頬を赤らめている桂を無視してもぐもぐおにぎりを食べていると、シャツのことを訊かれた。


「持ってきたけど、なんでだ? ……あ」

「え、点数低っ」

「べ、別にいいだろ!」


 片手で鞄からシャツを引っぱり出すと、午前の授業で帰ってきたテストが一緒に出てしまった。赤点ぎりぎりのやつを見てつい、という感じで桂に突っ込まれたものだから居たたまれなくなる。

 めちゃくちゃ偏見だけど桂こそ赤点を取りそうなのに、聞いてみれば常に学年三位以内らしい。赤点なんて取ったことがないと言われて常連の僕は泣いた。


「ううっ、意外すぎるだろ……」

「俺、特待生だから。ここ学費高いし、授業料免除してもらわないと通えないんだよ」

「え、そうなのか」


 出てきたのはさらに意外な理由で、何も言えなくなってしまう。ぶっちゃけ学費のことなんて気にしたこともなかったからだ。家、貧乏なのかな?

 その割に髪はブリーチ完璧じゃん……と思ったら、知り合いの美容院で新人が練習代わりにやってくれるらしい。出た、やんちゃエピソード。


 話しているうちに桂はシャツをごそごそ何かやっていて、僕は空なんかを見ながら昼飯のデザートにおはぎを食べた。

 初夏の風が涼しく通り抜け、なんだかいい気分だ。あずきが付きそうだったから前髪を耳に掛ける。


 あれ、僕、こいつと何のんびりしてるんだ……? それに学校で人とこんなに話したの、かなり久しぶりかもしれない。


「なあ、なんで僕って気づいたんだ?」

「……腕のホクロ。最近半袖だろ?」

「桂、よく見てるな~~~」

「…………」


 予想通り半袖でジーナだと気づかれたらしい。やっぱり腕や脚を見せるのは駄目だな。昨日の写真も消しておくか?

 そんなことを考えているうちに予鈴が鳴って、いつもよりあっという間に昼休みも終わったなと思う。一人だと昼寝する時間があるくらい暇だから、不思議な感覚だった。


「できた」

「えっっ、お前ボタン付けれるの!? すげ~! ありがと!」

「いや俺のせいだし……」


 ほい、と渡されたシャツには、外れたことなんてなかったかのように整然とボタンがついていた。週一で来る家政婦に任せようと思っていたから気にしていなかったけど、桂はそうじゃなかったらしい。


「裁縫もできるなんて、どこでも嫁にいけそうだな~」

「っ……!」


 ひひ、と笑って桂の方を見ると、目を丸くして見返される。なんだ……?

 ていうかそろそろ教室に戻らないと。


「なあ、もう僕のことバラさない? 鍵アカにしただけで満足した?」

「……また、ここで会ってほしい」

「……え?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ