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催眠術師の端っこ教室  作者: ぴあす
第ニ章

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11/11

顔合わせ

「師匠は!?なんであなただけここにいるの!?」


 フレアはクレシェコに掴み掛かり乱暴にゆすって質問をした。クレシェコの体はぴくりとも動かない。そして、黙ったままだ。


「ご主人様のことは至極残念に思います。私もできればにお供したかった」


 数秒の沈黙が二人の中に生まれた。クレシェコが師匠の死を悲しまない訳が無い。聞くまでもないことだった。

 しかしフレアはそれを無視して自分の感情をクレシェコにぶつけたのだ。


「ご、ごめんなさい。取り乱してしまいました」


 フレアは口調を敬語に整え謝罪をする。


「お気になさらず。食事はここにおいておきますね。ご入浴際はドアの先に浴室があります。ご自由にお使いください」


 そう言うとクレシェコは部屋を出ていった。部屋にはまた静寂が戻ってくる。


 食事は豪華なものだったが、フレアは食欲が湧かない。さっさと風呂に入り寝てしまおうと浴室に向かう。


 大理石でできた大きな浴槽に絶えず魔力でお湯が注がれていた。ラグジュアリーな雰囲気の浴室にほんの少しだけフレアの心は浮ついてしまった。


 フレアは服を脱ぎ湯船に浸かる。装飾された天井を眺めため息を吐いた。余すほどに広い空間にフレアはより孤独を大きく感じる。


(師匠は今何してるんだろ)


 忘れたいはずの師匠がフレアの頭から離れない。できれば頭をかち割って師匠との思い出を削り取りたいと思った。

 しかしすぐにそんなことできるわけがないとフレアは気づく。


 歪みながらも美しかったあの思い出は何が何でも守り抜きたい。

 そして死ぬ間際の走馬灯で見るような思い出にしたいとフレアは思った。


 体の汚れを洗い流し濡れた体を乾かす。

 フレアは寝巻きに着替えてベッドに飛び込んだ。


(今は全部どうでもいい。とりあえず寝よう)


 フレアは飛び込んだ姿勢のまま眠りにつく。


 ◇◇◇


 外から鳥の囀っている。フレアは深い眠りから覚めた。

 ベットの寝心地が良くフレアはとてもぐっすりと眠れた。


 外から誰かが部屋をノックした。フレアは眠りまなこを擦りながらペタペタと音を立ててドアに向かう。


「おはようございます。昨夜はよく寝れましたか?朝礼がございますのでご案内に参りました」


 ドアの前でクレシェコが立っていた。フレアはクレシェコに言われるがまま着いていき寝巻きで朝礼に出席した。まだこの時フレアは寝ぼけていたのだ。朝礼は教会のような形の場所で行われる。


「では、朝礼を始める。まず皆に良い知らせだ」


 ダスハはピシッとしたスーツで皆の前に立つ。


「昨日、私たち異端総会に新たな仲間が増えた。フレアくん、こっちに来たまえ」


 まだ寝ぼけているフレアはダスハの元へフラフラと歩く。


「彼女はフレア・ドール。キギスカ魔法学園を焼いた「火の魔女」だ」


 集会にいたものたちのざわめきが聞こえる。


「今日からよろしく頼むぞ、フレアくん」


 拍手の音でようやくフレアは寝ぼけから覚めた。そして自分の格好を見て恥ずかしくてしょうがなかった。周りの皆はきちっとした服装をしているのにフレアだけボサボサな髪と寝巻きなのだ。


 フレアは一礼だけしてそそくさと壇上から降りた。フレアは熱い顔を手で仰ぐ。


「よう、俺はグラノスだ。よろしくな。この俺がお前に声をかけたのは一つ聞きたいことがあってな。お前、何人殺した?」


 無造作な髪型に、尖った犬歯の男がフレアの隣に座り声をかけてきた。はじめましてでする質問じゃないとフレアは嫌悪感を感じたがグラノスの問いに答えた。


「曖昧ですが、監獄で言われた数だと大体五十ぐらいだったと思います」


「は!やっぱり見た目通り大した数じゃ‥‥五十?」


 大笑いしたグラノスの顔が真顔になった。そして少しずつひたいに汗をかいているように見えた。


(ありえねぇ!こんなちっせえガキに俺が殺しで負けるだと!?)


「グラノスさんは何人なんですか?」


 フレアの何の気無しの問いにグラノスの顔はさらに歪む。


(バカにしやがってクソガキが!殺しの数に加えてやろうか!?)


「グラノス、同胞同士の喧嘩はご法度だぞ」


 鎧に身をまとった長身の騎士がグラノスに言った。騎士の声は人のものとは少し違っている。

 フレアには彼の声が漣のように聞こえた。


「バケツ野郎は黙っとけ。バケモンの指図は受けねえよ!」


「私はブレソルだ。バケツ野郎じゃない」


 グラノスは舌打ちをして席を立ち、椅子を蹴飛ばしそのままどこかへ行ってしまった。その様子を見て鎧の騎士ブレソルはため息を吐いた。


「彼の無礼を許してほしい、君に負けて悔しかったんだろう。改めて自己紹介させてくれ、私はブレソル。これからよろしく頼む」


「私はフレア・ドールです。こちらこそよろしくお願いします」


 フレアの少し硬い挨拶にブレソルは小さく笑う。


「はは、固いな。私達はもう仲間だぞ?私に敬意を払う必要はない。ここの仲間たちのことは家族と思うんだ」


 そう言うとブレソルはフレアに触れる寸前まで近づき、アーメットのフェイスシールドを上げる。中に人の顔はなく、ただ静かに揺れる闇夜の海辺が広がっていた。

 その景色は、フレアの心をざわめかせた。


「ふふふ、驚いたかい?家族に隠し事は良くない。私の”顔”美しいだろ?」


 呆気に取られたフレアは口を開けっ放しで呆然とししている。ブレソルは”顔”をまた鎧に閉じ込めるとフレアに言った。


「朝礼が終わったら私について来い。これからの話しを私から説明させてもらうとしよう」


 ブレソルの言葉のすぐ後にダスハが壇上から降りていく。朝礼は気づけば終わっていた。会の仲間たちがぞろぞろと出口に歩き出す。

 ブレソルがフレアの手を握る。鎧の冷たさがフレアの体を震わせた。ついてこい、そう言うと皆と同じ方向に歩き出す。


「さっきは急によくわからないことをして悪かった。新人はいい反応をするからついやってしまうんだ」


「なんだかいいものが見れた気がするので、謝らないでください」


 ブレソルはフレアの反応に少し驚いたように笑う。

 会の者たちが窓口の前で集まっていた。


「ここでの生活はあそこから始まる」


 ブレソルは窓口を見て言った。

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