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催眠術師の端っこ教室  作者: ぴあす
第一章

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優等生

 ある噂を聞いた。

 魔物室の隣にある鍵のかかってる教室に深夜2時、所謂丑三つ時に行くと鍵が開いていて、中には催眠術を教えてくれる魔女がいると。


 フレア・ドール、王国立キギスカ魔法学園の一年生。

 親の勧めで難関校である本校に入学したが、大量の課題や堅苦しい校則から学園生活に嫌気がさしていた。


 授業に関しても彼女にとってはレベルの低い魔術を今日も何度も練習させられる。退屈以外の何でもなかった。


 そんな彼女の耳に、どうにも刺激的な噂が舞い込んできた。

 噂の真偽を確かめるべく、いや、純粋に刺激を求めてフレアは真夜中に寮を抜け出した。


 透明化<イビジール>と音消しの魔法<サレント>を使い魔物室のある東棟までたどり着いた。

 棟の入口は鍵で固く閉ざされていた。


 しかしフレアの前に錠などあってないようなもの、本来禁止されている呪文である錠破りの呪文<クラックス>を使い東棟に侵入。

 ドアを慎重に閉め小走りで魔物室に向かう。


 存外なんてことなく辿り着けそうと油断もつかの間ガシャガシャと何かが動く音がする。

 学園内の警備をしている動く鎧だ。


 学園の生徒だろうとなんだろうと全力で殺しにかかってくると有名な調教魔物、見つかれば立場どころか命すら危うい。


 大体の生徒はこの鎧たちを見て諦めるだろうがフレアは違った。


 分析魔法を使い、鎧の弱点を見破る。

 打撃の物理属性が弱点とわかると岩の魔術<岩石弾>を準備した。


 曲がり角に潜み、鎧が角を曲がった瞬間3発の魔術「岩石弾」を打ち込んだ。

 分析の通り岩をぶつけるという純粋な物理攻撃は鎧にとても効果的だ。


 鎧は歪みばらばらになった。

 動く鎧は核を潰さなければ何度でも復活するが鎧の一つ一つが歪んでしまったせいで元の形に戻れなくなっていた。


 フレアは他の鎧たちが駆けつけてくる前に足早に魔物室に向かう。


 向かう途中フレアは考えた。

 鎧を破壊したことはいずれ確実にバレる。


 やめとけばよかったという感情が少しでもあるかと思ったら意外にも後悔はない。

 もはや「やってやった」という高揚感の方が強かった。


 今までの人生の中で全力で走ったのは今回が初めてだ。

 自分の全力がいかに貧弱かを思い知らされる。


 息を切らしながらどうにか魔物室までたどり着いた。


 時刻は深夜1時57分。

 想定より少し遅くついてしまったが許容範囲だった。


 息を整えまず噂の検証に取り掛かった。

 2時前に扉が開くかどうかを確認するのだ。


 魔物室は妙に乾燥しているように感じた。

 ひどく喉が渇く。

 心臓が激しく鼓動する。


 もし本当に中に魔女がいるのか?

 そもそも扉は開くのか?


 期待と不安を抑え、フレアはドアノブに手をかけた。

 ドアノブはピクリとも動かなかった。


 噂の半分が本当だとわかりフレアの期待はより膨れ上がった。


 時刻を確認しようとローブのポケットから懐中時計を弄ろうとした。

 しかしフレアの体はピクリとも動かなかった。


 フレアは体が動かないことに今更気づいた。

 そして動かなかったのはドアノブではなくフレアの腕だったのだ。


「こんな時間に小娘が何をしているんだ?」


 低い女性の声がフレアの背後から聞こえる。

 フレアの背筋が凍りついた。


 まずフレアは今透明化と音消しの魔術を併用している。

 精度もかなりなもので中級魔術師程度では存在を認識することは不可能だ。


 つまり相手は自分より確実に格上。

 逃げることは不可能、そもそも動きを止める効果のある魔法なんて聞いたことがないし、無詠唱で魔術を放つのは相当の熟達者のみ。


 詰みだ。

 フレアは完全に諦めた。


 しかし退学なんてなるわけにはいかない。

 今から発する言葉が自分の人生を左右する。


 フレアは今言える最適の返答が何かを全力で考えた。

 そしてある事を考えた。


 まずこの魔術師は誰だ。

 こんな時間に棟に残っている教師はいないはず。


 まさか彼女は噂の魔女なのか?

 そんな考えが頭に浮かんだ。


 ならば、フレアのすることは正直になぜ来たのかを話すべきなのではないか?


 フレアは覚悟を決め口を開いた。


「そ、そのこの教室に深夜2時に来ると鍵が空いてて中に催眠術教えてくれる魔女がいるっていう噂を聞きまして。教わってみたいなと思ってきちゃいました….」


 その言葉を聞いた背後の女性は軽く吹き出していた。


 これは判断を間違えたと後悔していると、女性は半笑いで質問を問いかけた。


「君は、この学校が好きかい?」


 突拍子のない質問にフレアは混乱した。


「これはテストか何かですか?」


「質問に質問を返すとは…減点だな」


 フレアの質問に数瞬の間をおいてさっきよりもより低い声で女性は言った。


 待ってください、と慌ててフレアは訂正する。


 で?どうなんだ、と女性はフレアを急かす。


 フレアは一呼吸おき、話し始める。


「好きか嫌いか、で言えば私は嫌いです。堅苦しい校則に、個々に合わない学習内容。魔術の先端を行く学校がこの状態なのは正直残念でした。設備がいいのは唯一の救いですね」


 誠心誠意心のうちを正直に話した。


 しかしフレアは気づいた。

 この人が魔女とは全く関係のない学校関係者だった場合自分はかなりまずいことを言ったのではないか?ということだ。


 フレアの言葉を聞きまた少し間をおき、小さく笑いながらブーツの音を立てながら歩み寄ってきた。


 少しずつ近づいてくる足音がフレアを通り過ぎた。


 フレアの体にかけられていた拘束魔法が解除されフレアは床にへたり込んだ。


 顔を上げるとそこには細身でスラッと背の高いロングヘアの女性が立っていた。

 魔女のイメージとはかけ離れていた。


「いつまで這いつくばってる気だ?学びに来たんだろ、早く入れ」


 女性はドアを開けると、振り返りフレアにぶっきらぼうに言った。

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