指圧ポーションで魔機人形もみほぐし医療観光 その2
あの夜が明けて、俺の従魔になった不思議なゴーレムさん。ガンドとセリアと共にクリン王国への歩き出した。
「ねぇ、お前は名前あるの?」
「そんなものはない。」
「じゃ、なんて呼べばいい?」
「確かにな…。我は人族と話したことも従魔担ったこともないからな…」
「じゃあさ、名前、つけてあげればいいじゃん!」
セリアが俺たちの会話に割って入った。
「それもそうだな。人間よ、我に名前をつけよ。」
ってえ!!?そんな無茶振り…
「……ロボちゃん…」
「ん?」
「……ロボちゃん…」
「へ?」
「だから、ロボちゃん!」
「人間。我を馬鹿にしているのか?」
セリアとガンドが全力で首を振っている。
「かわいいと思ったんだけどな…。じゃ、ゴーレムからとってレム!お前はレムだ!」
「なぁにぃぃぃ!!!!!!!!?」
「いいだろ?文句なしだ。よろしくなレム!」
明らかに落ち込んでいるが俺には関係ない。
「ユビト、ここらで休もう。そろそろ森を抜ける。森を抜けたら、クリン王国が見えてくるぞ。」
「分かりました。」
「では、マッサージを。」
「はいはい。」
マッサージが終わるまでは俺のご飯はお預けだな。それなら、とことんやってやってやる。俺の飯のために『究極の二分で爆睡!超強烈ツボ押し!』を施す。
「グァ…ぬ?うわ…」
「静かにしてくれない?集中したいんだけど?」
「それは無理な話だな。声が出るもんだ。」
「じゃ、俺たちぐらいまで小さくなってくれない?」
「なぜだ?」
「その方がやりやすいから。もっと、気持ちよくしてやるよ。」
我ながら変なことを言っているな。その言葉以上の意味はないからね?
レムはみるみる小さくなった。ゴーレムの体と人のツボの位置が違うから手探りだったが、ここからはもう俺の土壌だ。
三十秒後。レム就寝。人くらいの大きさになれば、天才指圧師のユビトにかかればこんなものよ!
さあ、飯だ!一仕事終えたあとの飯はうまいぞ。ふと、ガンドとセリアの目が合った。
「その、俺たちにも…」
ウソだろ…。また、俺の飯…
「わかりました。」
二人は二分でノックアウト。セリアは相変わらず、いけない感じの声を出していた。ようやく、飯にありつけた。ただの保存食なのにとても美味しいかった。
昼が過ぎ、三人が目覚めた。
森を抜けた瞬間、視界がひらけた。
「……うわ」
思わず声が漏れる。
石造りの街壁が、朝の光を受けて白く輝いていた。
高すぎず、低すぎず。威圧感よりも「守るためにある」という印象が強い。
「あれが、クリン王国だ」
ガンドが少し誇らしげに言った。
「派手さはないがな、住むには悪くない国だ。無茶な戦争もしない」
セリアも頷く。
「少なくとも、ホグ帝国みたいに血なまぐさくはないわ」
……それは朗報だ。
だが。
「問題は、アレだな」
ガンドの視線の先。
当然、レムである。
人サイズになっているとはいえ、
黒曜石みたいな体、仮面のような顔、背中の石板。
どう見ても一般市民向けではない。
「隠す、って手もあるけど……」
「無理ね。門で止められるわ」
セリアがため息をつく。
そのとき、レムが静かに言った。
「ユビト」
「ん?」
「我は、門の外で待とう。人の国に、我の居場所はなかろう」
……あ。
その言い方が、やけに静かで、
妙に“慣れている”感じがして、胸に引っかかった。
「ダメだ」
俺は即答した。
「従魔だろ?一緒に入る」
「しかし――」
「俺が困る」
レムは一瞬、言葉を失った。
「クリン王国の人達が俺のマッサージの良さに気がついて、この国から俺が出られなくなってもいいのか?」
「確かにユビトのマッサージは依存性あるもんね。」
「そ、その理由であるか…」
「十分だろ?」
セリアが小さく笑った。
「いいじゃない。クリン王国、懐は深いわよ」
ガンドも肩をすくめる。
「俺が説明する。最悪、冒険者ギルドに直行だ」
レムは、しばらく黙っていたが――
「……承知した」
そう言って、背中の石板をわずかに畳んだ。
「威圧を、抑える」
できるんだ、それ。
門前。
案の定、門番は固まった。
「……止まれ」
槍が構えられる。
「このゴレームはここにいる冒険者ユビトの従魔です。Cランク冒険者の俺とセリアが保証します。」
「従魔……?」
門番の目が、レムを舐めるように動く。
レムは、微動だにしない。
沈黙。
長い、長い数秒。
やがて――
「……であるか…」
門番はそう言った。
「ただし、街中で問題を起こせば即拘束して、極刑だ。いいな?」
きょ、極刑!?首が…
「わかりました。」
「おい、門番とやら。そちらの条件を呑んだのだ。こちらの主張も聞いてもらう。
「なんだ?」
「この国人間が我々に手を出すことを禁ずるぞ。したら…」
「そ、それはわかっている…」
レムの威圧が解除された。すごい威圧だ。俺は門番に少し同情された。かわいそうに。
門が、ゆっくりと開く。
クリン王国の中は、想像以上に普通だった。
市場ではパンの匂いが漂い、
子どもが走り、
商人が怒鳴り、笑っている。
……いい。
こういうの、いい。
だが。
「……止まって」
セリアが小声で言った。
視線の先。
通りの人々が、
俺じゃなく、レムを見ている。
恐怖じゃない。
好奇心と、ざわめき。
「ねぇ、あれなに……?」
「魔物……?」
「いや、従魔って言ってたぞ……」
レムが、俺の方を見た。
「……視線が、刺さる」
「慣れろ」
「慣れられるか」
「とりあえず、ギルドに行く。お前の護衛の完了を報告せねば。まあ、レム様が従魔になられてからは俺たちの仕事はなかったがな…」
ガンドが自嘲し、セリアも苦笑する。
「それでも、ありがとうございました。」
「ユビトはどうする?」
「俺は今日の宿を取ります。」
「そうか、ここでお別れだな。」
「ええ、」
「また、何かあったら俺たちを頼ってくれ。」
「よろしくね!」
「はい!」
ガンドとセリアとはここで別れた。
「我はその宿とやらに行っていいのか?」
「さぁーな?行ってみないとわかんないや。」
「そうか。」
「まあ、宿にはいれなくてもマッサージはちゃんとしてやるから。」
「それならばいい。」
わかりやすいやつだな。初の異世界の国。いや、初めてではないか。でも、ほぼ初めてだ。楽しむぞ!




