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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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『杖の勇者ジージー』第6話 風を読む子、砂に走る — 砂漠の走法/呼吸法/杖との出会い —

■ 1 砂漠の朝練、二日目。


 黒砂の谷に朝が来ると、

 昨日と同じように砂が青白く光る。


 でも昨日と違うのは――

 ジージーの胸の中に、もう“恐怖”がなかったことだ。


 エイリアスの外套を肩にかけ、

 まだ少し大きいそれを抱え込むようにして、

 ジージーは外へ出た。


「おっ、来たな、ちび。」


 エイリアスが片手を上げる。

 陽に透けた赤茶のモヒカンが鮮やかに跳ねていた。


「……おは、よ……」


「声ちいせぇな。“生きたい”なら、もっと出せ。」


「……おはようございます!」


「よし、それでいい!」


 エイリアスの笑い声が、

 砂漠の朝風に溶けていく。



■ 2 “風を読む”という言葉


「今日は走るぞ。」


「は、走る……?」


「そうだ。砂漠は“走り方”を間違えると死ぬ。

 だけど“風の道”を見つけたら、何倍でも走れる。」


 エイリアスは砂丘の上を指さした。


「まず、あそこまで走ってみろ。」


「えっ!? あ、あれ……すっごく高い……」


「いいから行け。死にはしねぇ。」


 エイリアスの言葉は乱暴のようで、

 実は一番“信頼”に満ちている。


(……がんばらなきゃ……)


 ジージーは小さな拳を握った。



■ 3 砂の上を“普通に走る”ことの絶望


 ざくっ。

 ざくっ。


 砂が足首まで沈み、

 前に出した足が重く引っ張られる。


(う、うごかない……!)


 走っているつもりなのに、

 進まない。


 倒れそうになりながら、

 半分も行かないうちに膝をついた。


「――ジージーーッ!!」


 谷の下からエイリアスの声が響く。


「お前、“砂を踏んで”走ってるだろ!!」


「ふ……ふむ……?」


「砂を踏むな! 風を踏め!!」


(……え?)


 言っている意味が分からない。

 でもエイリアスは続けた。


「砂の“影”を見ろ!」


「影……?」


「砂の上に、風が抜けた“跡”があるだろうが!!

 そこを走れ!」


 ジージーは目をこらした。


 すると――

 砂の表面に“細い筋”が流れているのが見えた。


(……これ……風の通り道……?)


 そこに足を乗せてみる。


 沈まない。

 沈まない!


(……すごい……!)



■ 4 ジージー、初めて“風を踏む”


 すうっ――


 足が滑るように前へ出る。


 風の跡を追うように進むと、

 砂の抵抗が消えていく。


(……ほんとうに……走れる……!)


 胸が熱くなった。


(わ、わたし……できてる……!)


 膝を上げ、

 呼吸を整える。


「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」


 昨日教わった“吐いてから吸う呼吸”。


 それを合わせると、

 砂の上でも驚くほど足が軽くなった。


 気づけば、

 砂丘のてっぺんに到達していた。



■ 5 その瞬間、エイリアスが笑った。


 下から見ていたエイリアスが、

 目を細めてニッと笑った。


「――できたじゃねぇか、ちび!!」


 胸があつくなる。


 ジージーは、思わず手を振った。


「エイリアスーー!!

 わたし、できたぁぁぁ!!」


「おう! その調子だ!!

 “風を踏める奴”は、そういねぇぞ!!」


 谷のあちこちからも歓声が上がる。


「すげぇ……昨日の子だよな?」


「風の子だ……!」


「姉御に拾われたガキは伸びが違うな!」


 ジージーは嬉しくて、胸の奥がぽっと温かくなる。



■ 6 杖との出会い(伏線)


 砂丘を降りようとした時だった。


 砂の中から、

 細長い木の先がちょこんと出ていた。


「……ん……?」


 ジージーはしゃがんで掘り返した。


 出てきたのは――

 折れた木杖の下半分。


 とても古い。

 なのに、手に取るとしっくり馴染んだ。


(……なんだろ、これ……)


 握った瞬間、

 前世の“モップの柄”を握っていた感覚が

 胸の奥からぶわっと蘇る。


「……あ……」


 心臓がドクンと跳ねた。


 まるで、“おかえり”と言われた気がした。


「ジージー! 戻れ!」


「あっ……! い、今行く!」


 ジージーは慌てて杖を抱えながら走った。

 その動きはぎこちないのに――


 杖を持つと、なぜか“体幹”がぶれなかった。


 それを見て、

 エイリアスが眉を上げた。


「……おいおい。

 ちび、なんでそんな自然に杖持てるんだ?」


「えっ……? わかんない……」


「“わかんねぇ”って顔じゃねぇな。

 身体が覚えてる動きだ。」


 ジージーは胸を押さえる。


(……そう……なの?)


 前世の“戦い”が、

 静かに息を吹き返した瞬間だった。



■ 7 エイリアスの目は鋭かった


「ちび。」


「は、はい……?」


「その杖……大事にしろ。

 砂漠で拾う物には“えにし”がある。

 お前に必要だったから、砂が返してくれたんだ。」


(えにし……?)


 それはジージーが生涯忘れない言葉になる。



■ 8 初めての役割 ― 水運び


 訓練が終わる頃、

 リーダー格の青年がやってきた。


「姉御、今日は“水場みずば”に行きます。

 子ども組も連れていきますか?」


「ああ。ジージーも行かせる。」


「えっ……わ、わたしも?」


「当然だ。働け。働ける奴が家族なんだよ。」


 エイリアスはそう言って、

 ジージーの頭をわしわしと撫でた。


(……わたし……働ける……?)


 不安よりも――

 “やりたい”の気持ちのほうが少しだけ大きかった。



■ 9 砂漠の“水場”は命の場所


 黒砂の谷の奥。

 岩の裂け目から、細い水の筋が流れていた。


 ラーナや他の子どもたちが、

 革袋に水を汲む。


「ジージー、これ持って!」


「う、うん……!」


 水袋は重い。

 でも、杖を持つとバランスが良くなる。


(……ふしぎ……)


 それを見て、

 ラーナが目を丸くした。


「なんか……それ持ってると強そうだね!」


「そ、そう……?」


「うん! なんか守ってくれそう!」


 その言葉に、

 胸の奥がきゅっと熱くなった。


(……だれかを……守る……?

 わたしが……?)


 その“願い”は、

 まだ小さくて頼りない。

 でも確かにそこにあった。



■ 10 “走法”が変わった証拠


 水場から戻ると、

 エイリアスが腕を組んでジージーを見つめていた。


「ジージー。」


「は、はい……!」


「お前……“足音が変わった”ぞ。」


「えっ……?」


「昨日は砂が“ざくざく”言ってた。

 でも今は――」


 エイリアスは砂をつまんで見せた。


「“しゃりっ”って軽い音だ。

 風の音に近い。」


 ジージーの胸に、

 じわりと温かいものが広がる。


「……わたし……できてるの……?」


「できてる。

 ――お前は“風の子”だよ。」


 エイリアスの赤茶の髪が揺れる。


「その杖も、お前に合ってる。

 明日からは“杖の訓練”も始める。」


「えっ……!」


「覚悟しろよ?

 砂漠の杖ってのは、甘いもんじゃねぇ。」


 そう言って笑うエイリアスは、

 昨日よりもずっと近い存在に思えた。



■ 11 小さな決意


 夕暮れ。

 拠点に戻る途中、

 ジージーは杖を抱きしめながら歩いた。


 砂漠の風が心地よい。


(……わたし……

 もっと走りたい……

 もっと上手になりたい……)


 そして――


(……エイリアスを助けたい……)


 それはまだ幼い願い。

 でも、“未来の勇者”が初めて抱いた決意だった。


――小さな風は、杖を得て強くなり始める。


 この日、

 ジージーは“風を読み”、

 “砂に走り”、

 そして“杖”に出会った。


 まだ細く頼りない命だけど――

 砂漠は確かに、この子を選んでいた。



【次話予告】


◆ 第7話「砂漠の杖は、叩くためじゃない」

— 非致死・ほどほどの哲学を、エイリアスから学ぶ —


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