『杖の勇者ジージー』第5話 砂漠に拾われた子、砂漠に帰る
— サンドイーグル隊帰還編 —
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砂漠の夜は、息をひそめていた。
サンドワームの咆哮が遠のき、
冷えた砂の上に静寂だけが残る。
ジージーは、エイリアスに抱えられていた。
外套の内側は温かく、
砂漠の冷気をすべて遮ってくれる。
「……どこ、いくの……?」
かすれた声でそう尋ねると、
エイリアスは少しだけ笑った。
「“サンドイーグル隊”さ。あたしの連中んとこ。」
「こ、こわい……?」
「バーカ。敵に回せば最悪だが、味方なら家族より頼りになる。」
その軽口があまりに自然で、
ジージーは外套に顔を埋めた。
まだ怖いけど、
この人の声だけは怖くない。
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砂丘の影に、人影がふたつ現れた。
巨体の男、セルグレン。
布を巻いた青年、リース。
どちらも砂漠民の気配をまとった戦士だ。
「姉御! 何かあった音が……って、子ども!?」
「サンドワームの餌になりかけてた。拾った。“客分”だよ。」
その一言で空気が変わった。
“客分”――この砂漠では
家族以上の保護対象 という意味。
セルグレンの硬い顔がふっと柔らかくなる。
「……水……のめ……」
差し出された水袋を吸うと、
乾いた喉が熱く震えた。
(……いきたい……)
(まだ……しにたくない……)
心の底から、そう思った。
「よし、その目だ。」
エイリアスが優しく言った。
「生きたい奴は、あたしが守る。」
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◇ ◇ ◇
黒砂の谷 ― サンドイーグル拠点
夜明け前。
砂丘の向こうに、黒い谷が口を開けていた。
砂岩の壁に囲まれた隠れ砦。
火の明かりが点々と灯り、
見張りが何人も立っている。
「姉御、おかえりなさ――えっ、その子……?」
「客分だよ。」
「か、客分……!? 姉御の!?」
ざわつきが一気に広がった。
ジージーは怯えて、外套をぎゅっと掴む。
「怖がるな。」
エイリアスはその手を包んだ。
「ここは敵じゃねぇ。」
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◇ ◇ ◇
砂漠の初めての食事
拠点の焚き火の前に座ると、
温かい茶色の粥が皿に盛られた。
「砂漠豆の“デューナ粥”だよ。」とリース。
一口。
(……おいしい……)
塩気と苦みが混ざり、
でも確かに“生き返る味”だった。
「よく食う。いい子だ。」
エイリアスの声がやさしい。
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◇ ◇ ◇
✂️ 髪結いの儀 ― 風を結ぶ
「お前、髪ちょっと触るぞ。」
そう言って、エイリアスはジージーの後ろへ回った。
砂でざらついた少女の髪を、
指先でそっと梳かす。
「いい癖毛してる。風に立つ髪だ。」
「……え?」
「戦士はな、“風に立つ”髪を持つと強ぇ。」
エイリアスの指先が、
ジージーの“襟足”を軽く結ぶ。
それは――
後にジージーを象徴する髪型の“最初の結び目”だった。
「ここ、伸ばしな。」
「ながく……?」
「長けりゃ長いほど、風がお前を覚える。」
エイリアスの腰まで伸びる赤茶のロングテイルが揺れた。
ジージーは目を丸くした。
「……かっこ、いい……」
「だろ。」
エイリアスは笑う。
「お前も、こうなる。」
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◇ ◇ ◇
ジージー、初めての笑顔
胸の奥が、じんと熱くなった。
怖くて、痛くて、泣きたかった。
なのに――
今は違う。
あたたかい。
気づけば、ジージーは微かに笑っていた。
「お。笑えんじゃねぇか。」
「……ここ、あったかい……」
「当たり前だ。」
エイリアスは頭を軽く小突く。
「ここは“家族”だよ。」
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砂漠の夜が明けていく。
砂に埋もれたはずの命は、
風に拾われて、また歩き出した。
これが、
杖の勇者ジギーの最初の“一拍目” だった。
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【次話予告】
•砂漠修行編:呼吸と歩法と“風の読み方”
•ジージーの髪が少しずつ“砂漠の戦士”へ
•エイリアス隊の初任務同行




