第23層・第3話 ――撤退信号
――仲間は、呼べるだけ呼べ
AFの機体が再照準に入る。
甲高い電子音が、空間を切り裂いた。
『再評価完了』
『対象:人型有機体』
『危険度上昇』
銃口が、再びジージーへ向けられる。
――その瞬間。
ミナが、
ぴたりと足を止めた。
「……もう、いい」
セルグレン
「ミナ?」
ミナの声は低かった。
いつもの柔らかさが、完全に消えている。
「遠慮、終わり。
ここ……呼ぶ場所」
リゲロ
「おい、まさか――」
ミナは、ゆっくりと両手を広げた。
影が、
足元から“逆流”するように湧き上がる。
「来て。
戦える人、全員」
⸻
◆ ミナ、全召喚
空間が、歪んだ。
一体ではない。
二体でもない。
複数の“座標”が同時に開く。
・骸骨剣士
・剣士尸鬼
・僧侶尸鬼
・冥僧ダーククレリック
・影を纏うワイト
・盾持ちスカルガード
さらに――
地面から、
未完成の影骸が次々と這い出てくる。
セルグレン
「……は?」
リゲロ
「いや、ちょ、ちょっと待て……
数、おかしくねぇか?」
ミナ
「足りない。
まだ足りない」
影の中で、
“呼ばれた側”が理解する。
――ここは、生き残るための戦場。
命令は一つ。
守れ。止めろ。殺されるな。
⸻
◆ AF側の異常反応
『警告』
『未確認ユニット増殖』
『数的優位、逆転の兆候』
AFの指揮系統に、
明確なノイズが走る。
『……人間が、
“部隊”を生成している?』
『これは……魔力兵装か?』
『解析不能』
AFの動きが、
ほんの一瞬だけ、鈍る。
その隙を――
ジージーは見逃さなかった。
⸻
◆ ジージー、前に出る
(今だ……!)
棍が伸びる。
空中で“距離”を奪う動き。
装甲の継ぎ目。
関節部。
「――そこ!」
身体をひねり、
棍を引っ掛ける。
投げではない。
“崩し”だ。
AFの機体が、
わずかに姿勢を崩す。
そこへ――
骸骨剣士が飛び込む。
剣士尸鬼が追撃。
冥僧が結界を張り、
闇が“弾幕”を遮る。
ミナ
「……今。
全部、押さえる」
⸻
◆ ほかの勇者たちの反応
リテラが、目を見開いていた。
リテラ
「……なに、あれ」
ガンドラ
「召喚……?
いや、違う……
部隊運用だ……」
リテラ
「勇者がやることじゃない……
でも……」
拳を握る。
「戦場では、
正しい……!」
ガンドラは笑った。
「はは……!
面白ぇじゃねぇか!」
大槌を肩に担ぎ直す。
「なら俺たちも、
手ぇ抜く理由はねぇな!!」
リテラ
「援護行く!
あの子、前出すぎ!!」
⸻
◆ 戦場が変わる
これまで――
AFは「未知の存在」を排除する側だった。
だが今。
人間側が“戦場を組み替えている”。
召喚された者たちは、
死を恐れない。
だが――
“意味なく死なない”。
ミナが制御している。
影が、線になる。
線が、網になる。
AFの動きが、
確実に削がれていく。
⸻
◆ ジージーの内心
(……ひとりじゃ、無理だった)
息が荒い。
(でも……)
仲間がいる。
呼んでくれる存在がいる。
そして――
理解し、合わせてくれる人たちがいる。
(戦える……)
ジージーは、
拳を握った。
(ロボットでも、
神様でも――)
(“止め方”は、ある)
⸻
◆ 次へのフック
AFの指揮官機が、
一歩、後退する。
『……交戦データ更新』
『この領域は――
“想定外”と認定』
背後で、
さらに別の反応が立ち上がった。
セルグレン
「……まだ来るぞ」
リゲロ
「チッ……
向こうも本気だ」
ミナは、静かに言った。
「いい。
なら……もっと呼ぶ」
戦場は、
完全に“異世界の論理”を超え始めていた。
――AF側ログ(現場混乱)
艦内に、警告音が重なる。
『戦闘データ更新不能』
『対象の行動が――
既存の戦術モデルに一致しません』
管制士A
「は? ちょっと待て……」
モニターに映る映像。
人型有機体の周囲に、
“兵力が増えている”。
しかも――
補給線も、投下も、転送も確認できない。
管制士B
「……増援?
いや、違う……“湧いてる”?」
士官
「冗談だろ。
サーバーに侵入でもされたのか?」
別の画面が点滅する。
『ユニット行動予測:失敗』
『回避行動:失敗』
『拘束……拘束?』
管制士A
「拘束……?
え、ちょっと待って」
映像が拡大される。
AF一機が、
人型有機体に密着されている。
装甲の隙間に、
“棒状の武器”が引っかかり、
関節が――逆方向に制限されていた。
管制士B
「……なに、これ」
士官
「撃て」
管制士A
「撃てません!
味方機が……距離ゼロです!」
沈黙。
次の瞬間、
別のAFが影に絡め取られ、
姿勢を崩して転倒する。
管制士C
「……司令」
士官
「なんだ」
管制士C
「これ……
戦争じゃありません」
「……」
管制士C
「“格闘”です。
それも……
我々の想定にない形式の」
画面の中で、
人型の一体が、
装甲の“内側”に入り込む。
士官は、思わず呟いた。
「……は?」
「なにこれ……」
一拍遅れて、
艦内に警告が走る。
『戦場評価更新』
『当該領域――
極めて危険』
士官
「……0056小隊」
息を飲み、命じる。
「生還を最優先に切り替えろ。
これは――」
一瞬、言葉を探し。
「……相手が悪い」
――撤退信号
艦内に、短い沈黙が落ちた。
管制士A
「……司令」
士官は、モニターから目を離さない。
画面の中では――
人型有機体が、あり得ない距離で機体に張り付き、
影のような“部隊”が、動きを封じ続けている。
一機が、膝関節を固定され、
もう一機が、背部スラスターを抑え込まれていた。
士官
「……十分だ」
管制士B
「撤退、ですか?」
士官
「戦果はゼロ。
損耗率は上昇。
そして――」
一瞬、言葉を切る。
「理解不能だ」
管制士C
「……了解」
操作卓に、赤い表示が灯る。
『撤退プロトコル起動』
『信号弾、装填』
⸻
◆ AF側・撤退信号
地上のAF指揮官機が、
一歩後退する。
次の瞬間――
パンッ
乾いた破裂音。
空中に、
赤白の光が弾けた。
それは、攻撃ではない。
爆発でもない。
合図だった。
リゲロ
「……なんだ?」
セルグレン
「照明弾……?
いや、違う……」
ミナ
「……逃げる」
ジージー
「え?」
ミナ
「“続けない”って、決めた」
⸻
◆ AF側通信(地上)
『撤退信号確認』
『全機、離脱行動へ移行』
『追撃は禁止』
『当該領域を
“未踏危険区画”として登録』
AFたちは、一斉に動きを変えた。
攻撃を止め、
距離を取り、
背部スラスターを最大出力へ。
ジージー
「……引くの?」
セルグレン
「敵が……逃げてる……?」
リテラ
「勝った……?
いや……」
ガンドラ
「違ぇな」
地鳴りのような声で言う。
「“やめた”だけだ」
⸻
◆ 最後の視線
指揮官機が、
一瞬だけ振り返る。
センサー越しに、
ジージーたちを見る。
『……記録更新』
『対象:人型戦闘集団』
『分類:非推奨接触』
『理由:
戦術理論が成立しない』
そして――
光の軌跡を残し、離脱した。
⸻
◆ 残された側
静寂。
破壊された床。
歪んだ空間。
まだ消えきらない影。
ジージーは、息を整えながら呟いた。
「……勝った、のかな」
リゲロ
「さあな」
セルグレン
「だが――」
盾を下ろし、言う。
「生きてる」
ミナは、空を見上げていた。
「……次は、
もっと準備して来る」
ジージー
「……うん」
遠くに見える、青い球体。
(地球……)
彼女は、胸の奥で確信していた。




