エイリアスの命令 ― 砂漠の端まで連れて行け
黄砂旅団の裏切り。
カロル砦と黄砂の挟み撃ちの中で、
砂漠連合は「退きながら殴る」しかなくなりました。
サンドイーグル隊は、その真ん中で“楔”になる――
ここから、エイリアス隊長の覚悟と、
「お前はその子を連れて行け」という最後の命令が下されます。
この回で、ジージーとセルグレンの“二人旅”への道筋が、
はっきりと形になります。
◆ 楔がきしむ音
砂漠の真ん中で、「音」が変わった。
さっきまでの戦場は、
叫び声と鉄のぶつかる音と、砂を蹴るざわめきでいっぱいだった。
今は違う。
それに「きしみ」が混じっている。
(――押されてる)
ジージーは、
砂丘の手前で必死に踏ん張るサンドイーグル隊の背中を見つめた。
エイリアスを先頭に、
セルグレン、リース、モハン。
その横に、いつもの顔ぶれ。
しかし、
その輪は目に見えて薄くなっていた。
さっきまで隣にいた仲間がいない。
盾を掲げていた男が倒れた。
その隙間に、黄砂の兵が入り込もうとする。
「押し返せぇ!!」
セルグレンの怒鳴り声。
槍の柄で前に出ようとする兵士の腹を突き、
膝を払って砂に叩きつける。
すぐさま別の兵が、その隙間を狙ってくる。
それをリースの矢が牽制する。
「ジージー! 右!」
「はい!」
ジージーは、
隊列の「ほころび」が生まれそうな場所に目を凝らしていた。
砂の上でよろめいた仲間。
足を引きずる兵士。
矢傷を押さえながら後ろを振り向いてしまう者。
その背中を、
杖で押して前へ送る。
「下がらないで!
ここまで来たら、もう半歩だけ前!」
倒れそうな肩を支え、
転びそうな足首をすくい、
味方同士がぶつかりそうなところに杖を突っ込んで「間」を作る。
戦っているというより、
「崩れないように支えている」感覚だった。
(止める、止める、止める……)
敵の刃を止める。
仲間の足を止めない。
それしかできない。
それでも――
できることがあるだけ、まだマシなのだと、
ジージーは必死に自分に言い聞かせた。
⸻
◆ 黄砂の笑い声と、砦の矢
「おいおいおい!
もっと走れよ、“連合”さんよ!」
背後から、
黄砂の兵士の笑い声が飛んでくる。
「逃げる奴の背中が、
一番いい的だって知らねぇのか!」
矢が飛ぶ。
砂が跳ねる。
それでも、サンドイーグル隊は前を向いたまま退いていた。
「後ろを見たくなったら、
俺の顔見てろ!」
セルグレンが怒鳴る。
「目の前に“もっと嫌なツラ”があるなら、
いちいち振り返らずに済むだろ!」
リースが苦笑い混じりに応じる。
「うわあ、それ慰めになってるんですかね隊長補佐?」
「なってるんだよ!」
そんなやりとりが、
わずかに士気を保つ。
しかし、
砦の城壁の上から降る矢の雨は、容赦がなかった。
一本、二本――
サンドイーグルの兵が矢に貫かれ、
前のめりに倒れていく。
サルーシャが、そのたびに駆け寄り、
生きている者を引きずり上げ、死んでいる者の目を閉じる。
「ごめん、今は……」
彼女は、
ひとりひとりにそう呟きながら、
次の負傷者へと走った。
ジージーは、
それを見るたびに胸ががりがりと削られるような思いがした。
(全部、助けるなんてできない)
わかっている。
わかっているのに――
手が伸びてしまう。
そのたび、杖の先で足を止められた兵士がひとり、
ひとつの命が“ぎりぎりのところ”で踏みとどまる。
(今、あたしが守れてるのは、
本当に一歩分だけだ)
一歩。
それでも、その一歩が
誰かの「生きる」を分けるかもしれない。
⸻
◆ 隊長の傷
「――っ!」
短い息の詰まる音が、
耳に飛び込んできた。
エイリアスのすぐ近くにいたリースが、
思わず叫ぶ。
「隊長!!」
ジージーも見た。
砦の城壁から放たれた一本の矢が、
エイリアスの左脇腹をかすめるように突き刺さるのを。
エイリアスは、
ぐらりと身体を揺らした。
しかし倒れない。
手にした槍を支えに、一歩前へ出る。
「心配するな!」
短く怒鳴りつける。
「掠っただけだ!」
「絶対嘘だ!」
リースが泣きそうな声を出す。
「血、だばだば出てますって!」
「だばだばは大げさだ」
エイリアスは、
わずかに笑った。
ジージーの位置からも、
血が鎧の隙間からじわじわ広がっているのが見える。
(掠った、じゃない)
それでも――
彼は前に出て、槍を振るい続けた。
その背中を見ていると、
ジージーはどうしようもなく
自分の喉の奥が熱くなるのを感じた。
(あの人は、“止まれない人”だ)
隊を守るために前に立つ。
連合の真ん中を引き受ける。
山の民と拳を逃がす楔になる。
それが間違いなく、
彼の「選んだ生き方」なのだとわかってしまう。
(でも――)
だからといって、
その背中がここで消えていい理由にはならない。
⸻
◆ 戦場の真ん中で交わされる、短すぎる会話
「セルグレン!」
エイリアスが、
隙を見て叫んだ。
「代わってくれ!」
「はぁ!?
隊長、ついに頭打ちました!?」
「そういう意味じゃねぇ!」
エイリアスは半歩下がり、
セルグレンと位置を入れ替える。
前列の真ん中にセルグレン。
そのすぐ後ろ、半歩の位置にエイリアス。
「……悪いが、
ここで全員連れて帰ることは諦める」
その一言に、
セルグレンの顔から血の気が引いた。
「隊長、それは――」
「いいから聞け」
エイリアスは、
息を整えながら言葉を続けた。
「山の民と拳の隊は、
このまま砂丘を越えれば散り散りでも生き残れる。
レム翁も、ナジルも、イレナも、
自分の連中は自分でなんとかするだろう」
槍の穂先が、
黄砂の兵士の胸当てを弾く。
セルグレンがその隙に足を払って倒す。
「問題は――
“ここから先の話”だ」
エイリアスは、
ちらりと後ろを見やった。
そこには、
杖を握りしめて、必死に隊列の隙間を埋めているジージーの姿があった。
「セル」
「……」
「あの子を、砂の端まで連れて行け」
戦場の真ん中とは思えないほど静かな声だった。
セルグレンは、
思わず振り向きそうになり、
すぐに前を向き直る。
「なぁ隊長。
冗談にしたって、
笑えねぇぞそれは」
「冗談じゃねぇ」
エイリアスは、
脇腹の矢を片手で折った。
「今ここで、
サンドイーグルが楔になって踏ん張らなきゃ、
連合はこの砂漠で終わる」
「そんなの、わかってる」
「だったら話は早い」
エイリアスは、
短く息を吐いた。
「楔になるのは俺たちだ。
その代わり――
“先”へ行く奴が要る」
「……ジージーを?」
「そうだ」
エイリアスの視線が、
もう一度だけ後ろを向く。
「あの子は、“止めるために戦いたい”と言った。
レム翁と同じことを、
まだ子どものくせに口にした」
「子どもだからだろ」
「だからこそ、
この先を見せる価値がある」
エイリアスは、
セルグレンの肩を軽く叩いた。
「セル。
お前は、逃げることを恥じてない。
生き残るための“汚れ仕事”も、ためらわねぇ」
「褒めてます?」
「褒めてる。
こういう仕事を任せられるのは、お前だけだ」
セルグレンは、
歯を食いしばった。
「隊長――
あんた、まさか」
「言っただろ。
全部連れて帰るのは諦めるって」
エイリアスは、
笑った。
その笑い方は、
これまでと何も変わらない。
それが逆に、
セルグレンにはたまらなく腹立たしかった。
「……あんたのそういうところ、嫌いですよ」
「知ってる」
エイリアスは、
その嫌味すら嬉しそうに受け取った。
「だから、嫌いなままでいい。
その代わり――約束しろ」
「約束?」
「ジージーを国境まで連れて行け。
砂漠を抜けたら、山羊隊や拳隊の残党と合流しろ。
それから……」
エイリアスは、
腰のポーチから何かを取り出した。
小さな革袋。
中に硬い感触がある。
「これを、“使うべきじゃない場所”で使うな」
「……なんすか、それ」
「サンドイーグルの印だ。
砂漠の商人と交易路で顔を利かせるための、
ちょっとした“合言葉”みたいなもんだ」
「そんなもの、
今渡してどうするんです」
「俺はもう、これを“明日”に持っていけねぇかもしれねぇ」
セルグレンの息が止まる。
「だからお前が持て。
もし本当にどうしようもないときが来たら、
“誰かに繋ぐため”に使え」
革袋が、
ごつごつした手から手へと渡された。
重さはたいしたことない。
だが、その意味はあまりに重かった。
⸻
◆ 遺言にされたくない約束
「隊長」
セルグレンは、
槍を構えたまま低く唸る。
「今の話、
全部、戦が終わってから酒飲みながら聞くやつじゃダメですか」
「終わってからじゃ、
お前、絶対聞いてくれねぇだろ」
「それはそうです」
「だから今なんだよ」
エイリアスは肩で息をしながらも、
視線だけは砦と黄砂を睨み据えていた。
「セル。
命令だ」
その声には、
隊長としての冷たさがあった。
「逃げろ。
“その子”と一緒に」
「……隊長」
「お前がここで一緒に楔になったら、
あの子はどこにも行けねぇ」
その言葉が、
セルグレンの胸に突き刺さる。
「そんなの――
卑怯じゃないですか」
「卑怯だ。
隊長ってのは、卑怯で図々しくてしつこくなきゃやってられねぇ」
エイリアスは、
自分の脇腹に刺さった矢の残りをぐっと奥に押し込んだ。
「砂漠の端まで――
次の夜まで――
“止めるために戦う”って言葉を持っていける奴が、
今ここで死ぬのは、俺は耐えられねぇ」
セルグレンは、
唇を噛んだ。
血の味が広がる。
「……冗談抜きで、
あんたのそういうとこ、嫌いです」
「だから嫌いなまま行け」
エイリアスは、
不思議と穏やかな声で言った。
「嫌いな奴の遺言ほど、
守りたくなるだろ?」
「遺言にする気満々じゃないですか」
「かもしれねぇ」
そのやりとりを、
ジージーは少し後ろから見ていた。
言葉の一つ一つまでは聞こえない。
でも、空気だけは伝わる。
(――何か、決まった)
その予感が、
急に足元をぐらつかせる。
⸻
◆ 「お前は、この子を連れて行け」
「ジージー!」
エイリアスの声が飛ぶ。
「前へ来い!」
「えっ」
ジージーは驚きながらも、
すぐに隊列をかいくぐって前へ出た。
すぐ目の前に、
エイリアスとセルグレンの背中。
「はい!」
「いいか」
エイリアスは、
ジージーの目を真っ直ぐに見た。
「今から俺は、
お前に“隊長らしい命令”をする」
「……はい?」
「逃げろ」
ジージーは、
思わず耳を疑った。
「え?」
「逃げろ」
エイリアスは、
もう一度はっきりと言った。
「セルグレンと一緒に、
この戦場から離れろ。
砂漠の端まで行け」
「――嫌です」
反射的に返事が出た。
「嫌です。
あたし、隊の一員ですよ。
ここで一緒に戦うって――」
「ここで一緒に死ぬつもりか?」
エイリアスの声が、
少しだけ厳しくなる。
「それは“覚悟”じゃねぇ。
“投げやり”って言うんだ」
「そんなつもりじゃ!」
「なら、俺の命令を聞け」
ジージーは、
言葉を失った。
エイリアスの目は、
いつもの穏やかさを失っている。
そこにあるのは、
“隊長”としてのただの意志だ。
「ジージー」
「……」
「お前、自分で言っただろ。
“止めるために戦いたい”って」
ジージーの喉が詰まる。
「ああいう言葉はな、
口にした奴の責任だ」
エイリアスは、
わずかに微笑んだ。
「ここで死んだら、
ただの“いいこと言った子ども”で終わる。
そんなの、聞かされたこっちが困る」
「……それは」
「だから生きろ。
俺の代わりに“先”を見てこい」
ジージーは、
震える手で杖を握りしめた。
「……嫌です」
もう一度、
小さくそう呟く。
「嫌です。
みんなを置いていくの、嫌です」
「置いていくんじゃねぇ」
エイリアスは、
ジージーの肩に手を置いた。
手が、驚くほど熱い。
「持っていくんだ。
ここで死ぬ奴らの“やりたかったこと”を」
その言葉が、
胸の奥にずしりとのしかかる。
「俺たちがここでやってることが、
ただの無駄な血と砂じゃないって、
いつか誰かに言ってくれ」
「……そんな、
大それたこと、あたしに――」
「あるよ」
エイリアスは断言した。
「お前の杖は“支える杖”だ。
倒すんじゃなく、止めるための。
そういうやつは、
“何を止めたいのか”を見届ける役目がある」
セルグレンが、
ジージーの腕を掴んだ。
「行くぞ、ジージー」
「まだ……」
「行く!」
セルグレンの声は、
怒鳴り声というより、悲鳴に近かった。
「ここで隊長の命令を無視したら、
俺があとで一生“ネチネチ”言われる!」
「死んだ人に言われないでしょ!」
「死んだ人間ほど、
頭の中でよく喋るんだよ!!」
そんなむちゃくちゃな理屈でも――
ジージーは、
そこでようやく足を動かせた。
怖い。
悔しい。
腹が立つ。
(でも――
ここで動かなかったら、
隊長の言葉が全部嘘になる)
エイリアスの手が離れた。
その温もりだけが、
肩に残る。
⸻
◆ 砂丘の向こうへ
「サルーシャ!」
セルグレンが叫ぶ。
「こっちだ!
動ける連中をまとめろ!」
「わかってる!!」
サルーシャは、
負傷者の中から「どうにか走れる者」を選び始めた。
ライルも、
肩に包帯を巻いたまま歯を食いしばって立ち上がる。
「俺も行きます!」
「走れるか!」
「転んだら引きずってください!」
「上等だ!」
セルグレンは短く笑い、
ジージーに目で合図した。
「ジージー、
お前は“後ろを見る役”だ」
「……後ろ」
「振り返るなって意味じゃねぇ。
“追ってくる奴ら”を止めろ。
倒さなくていい。
足を止めさせるだけでいい」
ジージーは、
深く頷いた。
「やってみる」
「やれ」
サンドイーグルの一部――
エイリアスの命令を受け取った「小さな塊」が、
砂丘の斜面へと走り出す。
砂が崩れる。
足が取られる。
それでも、上へ上へと這い上がる。
「追えぇ!!」
背後で、黄砂の怒号が上がる。
矢が飛ぶ。
砂丘の斜面に刺さり、砂を散らす。
「ジージー!」
「わかってる!」
振り返らずに、
耳だけで敵の足音の位置を探る。
(右……五歩。
左、少し遅れて二人)
砂丘の途中で半身をひねり、
杖を低く払う。
前のめりに駆け上がってきた黄砂の兵士の足が絡まり、
鈍い悲鳴とともに転げ落ちる。
「っ、この――!」
別の兵が槍を突き上げてくる。
ジージーは、
杖でその槍を横に弾き、
わざと自分のほうに近づけるように誘導した。
(重心、こっち。
なら――)
砂を蹴り上げる。
兵士の目に砂が入る。
バランスを崩したところに、
セルグレンの槍が肩口をかすめた。
「ジージー!」
「行け!」
短い合図だけ交わし、
ふたりは再び斜面を駆け上がる。
背後では、
エイリアスたちの怒号がまだ続いていた。
振り向きたい。
最後に、もう一度だけ隊長の背中を見たい。
その衝動を、
ジージーは歯を食いしばって押し殺した。
(今振り向いたら、戻ってしまう)
エイリアスの言葉が、
セルグレンの罵声が、
サルーシャの手の温もりが、
全部一緒に背中を押してくる。
⸻
◆ それでも、振り向いてしまう一瞬
砂丘の頂に、
ようやく辿り着いた。
足が震える。
喉が焼ける。
それでもジージーは、
振り返るまいと空を見上げた。
青い。
どこまでも、ひどいほど青い。
「ジージー」
セルグレンが、
低く呼びかける。
「……一瞬だけだ。
“一瞬だけ”、見ろ」
ジージーは、
びくりと肩を震わせた。
「見たら、
二度と振り向くな」
その言葉に、
ジージーはゆっくりと首を回した。
砂丘の向こう――
さっきまで自分たちがいた場所。
そこに、
サンドイーグル隊の残りがいた。
楔の形をした半円の隊列。
その先端に、槍を構えた一人の男。
エイリアス・サンドイーグル。
血に染まった鎧。
折れた矢。
それでも真っ直ぐに立っている背中。
黄砂の兵たちが、
波のように押し寄せる。
砦の上から矢が降る。
エイリアスは、
その全てを前から受け止めていた。
その背中が、
ほんの一瞬だけこちらを向いた気がした。
目が合った――ような気がした。
彼は何かを言った。
声は、風にさらわれて届かない。
それでも、
ジージーにはわかった。
(――行け)
たった一言。
それだけ。
その次の瞬間、
砂漠の熱気と砂煙がすべてを覆い隠した。
ジージーは、
視界が真っ白になるのを感じながら、
ぎゅっと目を閉じた。
⸻
◆ 砂の端まで
「もう振り向くな」
セルグレンの声が、
耳元で低く響いた。
「ここから先は、“生きる側”の道だ」
「……はい」
ジージーは、
涙でぐしょぐしょになった顔のまま頷いた。
サルーシャが、
そっと手拭いを差し出す。
「顔、拭きなさい。
砂がくっついて大変なことになるよ」
「……ありがと」
ライルが、
痛む肩を押さえながら苦笑した。
「隊長に怒鳴られますよ。
“泣いてる暇があったら足を動かせ”って」
「怒鳴られたいなら、生き残るしかないね」
サルーシャが、
少しだけ意地悪なことを言う。
「でもまあ、
あの人の声は、
しばらく耳の中で勝手に鳴り続けるでしょうけど」
「……ですね」
ジージーは、
涙を手拭いで拭った。
砂漠の向こう。
まだ遠くに、かすかに山の影が見える。
(砂の端まで)
エイリアスの命令。
セルグレンの覚悟。
サルーシャやライルの息遣い。
全部ひっくるめて、
杖の先に力を込めた。
「行きましょう」
ジージーは、
自分の足で一歩を踏み出した。
「止めるために、
生きるために」
その言葉は、
誰かに聞かせるためではなく、
自分の足に言い聞かせるためのものだった。
砂漠の風が、
背中から吹いた。
その風の中に、
エイリアスの笑い声が混じっているような気がして――
ジージーは、
それ以上振り返らずに歩き続けた。
やがて、
サンドイーグルという名の隊は
砂の中に埋もれ、
伝説と噂だけを残すことになる。
だがそのとき、
その名を正確に覚えている者が、
砂の端を目指して歩いていることを、
黄砂も、砦も、理事会も、
まだ誰ひとり知らなかった。
⸻
【後書き】
エイリアス隊長の「命令」が、
ついに下されました。
「あの子を、砂の端まで連れて行け」
という言葉は、
セルグレンにとっては最悪の“遺言”であり、
ジージーにとっては最初の“重すぎる使命”になりました。
この第17話で、
•サンドイーグル隊=砂漠連合の楔として散る
•黄砂旅団と理事会の“えげつなさ”
•エイリアスの「卑怯で図々しくてしつこい」隊長像
•ジージーの「止めるために戦う」覚悟が、
「生きるほうを選ぶ」という形で試される
という大きな転換点が描けたかと思います。
次回、第18話は
「国境を越えて ― 砂漠の端で見る空」(仮)として、
•追撃からの逃走
•山羊隊・拳の残党との合流の端緒
•砂漠を抜ける前夜の、セルグレンとジージーの静かな会話
あたりを中心に描いていきましょう。




