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Staff Hero ― 支える勇者 ―  作者: 和泉發仙


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15/242

砂漠の旗が集う夜

【前書き】


青い獅子の旗。

国家平和理事会。

“北の御方”。


ジージーたちの小さな隊の背中に、

砂漠のずっと向こうにいる「見えない敵」の重さが乗りはじめました。


今回の話は、「殴る」前に「繋がる」話。

いくつものレジスタンスたちが、

砂漠の外れの廃オアシスに集まり――

やがて悲劇へと転がっていく“連合”の、最初の夜です。






◆ 廃オアシスへの道


 その日、太陽はやけに白く眩しかった。


 砂丘をいくつも越えた先――

 かつてオアシスだった場所が、今は干上がり、

 しおれたヤシと折れた木の柱だけが残っている。


「ここが……」


 ジージーは、

 ラクダの背から身を乗り出して辺りを見回した。


「昔は、“歌う水場”って呼ばれてた。

 風が吹くと、井戸の穴から変な音がしたらしい」


 リースが、軽く肩をすくめて言う。


「今は水が全部枯れちまって、

 歌わなくなったけどね」


「歌わなくなってから、人のほうが騒がしくなった」


 セルグレンが、

 サドルからどっかりと腰を上げた。


「会議には都合がいい。

 見張りを立てれば、軍の隊もすぐわかる」


 エイリアスが、

 中央のラクダから降りながら周囲を一周見渡した。


 風で乾いた井戸の縁。

 崩れかけた石壁。

 砂に半分埋もれた木造の小屋。


 だが、そのうち一軒だけ――

 扉のところに、さりげなく刻まれた印があった。


 砂漠の民が使う、非合法の「印」。


「……来てるな」


 エイリアスは、

 小さく呟いた。


「ジージー、サルーシャ、ライル。

 お前たちは外で待機だ。

 ラクダと荷物を見ておけ」


「はいはい。留守番チームね」


 サルーシャが苦笑する。


「乱闘になったら呼んでね?」


「乱闘は起こさねぇつもりだが……

 起きたら全力で逃げろ」


 リースがひらひら手を振り、

 エイリアス、セルグレン、モハンと共に

 印の刻まれた小屋へ向かった。


 ジージーは、

 少し名残惜しそうにその背中を見送る。


(連合、か)


 昨夜の話を思い出す。


 シャール=ダンのいくつもの小隊。

 遊牧民の自警団。

 山側の盗賊上がりの一派。

 それから、“砂漠に住み損ねた都市民”たち。


 それぞれが、

 それぞれの理由で武器を取った。


(その連中が、今ここに集まっている)


 胸の奥に、不安と期待が入り混じる。


「ジージーちゃん」


 サルーシャが、

 ラクダの荷紐を締め直しながら声をかけた。


「緊張してる?」


「ちょっとね。

 あたしには、まだよくわかんないけど……

 大事な夜なんだろうなって」


「そうだね。

 大事な夜は、うるさくて暑苦しくて、

 あとでだいたい後悔するんだよ」


「え、それ最悪じゃない?」


「でも、そういう夜に限って、

 人生の曲がり角だったりするから」


 サルーシャは笑って、

 乾いた井戸を覗き込んだ。


「……どこまで落ちても、

 水が湧く場所ならいいんだけどね」



◆ 砂漠の連中


 小屋の中は、

 思っていたより広かった。


 屋根は軋み、

 壁はところどころ砂で埋まりかけているが――

 中央の空間だけは、きれいに掃き清められている。


 そこに、すでに三つの「旗」があった。


 一つは、

 シャール=ダン本土の古い紋章。

 砂の上に立つ一本の槍。


 一つは、

 山岳部の遊牧民が掲げる、

 山羊の頭骨を象った布。


 もう一つは――

 よくわからない、雑多な布の寄せ集め。

 しかし真ん中に、

 大きく「拳」の印が描かれている。


「お、来たか」


 最初に声を上げたのは、

 山羊の旗の側に座っていた痩せた男だ。


 茶色の肌に、

 干からびた木のような長い手足。

 目だけはぎらりと光っている。


「エイリアス。

 蠍と遊んでたって聞いたが、

 ちゃんと生きてきたな」


「そっちこそ、山のほうで雪に喰われずに済んだらしいな」


 エイリアスが、

 軽く首を縦に振った。


「ナジル。久しぶりだ」


「久しぶりにしては、

 連れてきてる連中の顔ぶれがずいぶん変わったじゃないか。

 ――でかいのと、包丁持ちと、弓のお調子者は見覚えあるが」


「満足に生き残ってるほうだろ」


 リースがちゃっかり手を振る。


 ナジルと呼ばれた男は、

 それを一瞥して肩をすくめた。


「こっちは半分も残っちゃいねぇよ。

 山羊は、よく喰われる」


「そいつは山羊がいい肉だって証拠だ」


 モハンがぼそっと言う。


「焼けば旨い」


「お前とはあとで話をしよう。

 悪い意味でな」


 ナジルが目を細めた。


 もう一方――

 シャール=ダンの古い旗の側には、

 年配の男が座っていた。


 短く刈った灰色の髪。

 深く刻まれた皺。

 まっすぐに座る背筋。


「エイリアス殿」


 低く、よく通る声。


「貴殿の動きはいつも早い。

 蠍を仕留めたと聞いて、

 ぜひ話を伺おうと思っておりました」


「……レム翁」


 エイリアスが、

 少しだけ姿勢を正した。


「まだ前線に出ているとは思わなかった」


「老いぼれを前線に出さねばならぬほど、

 人手が足りぬのでな」


 レムと呼ばれた老人は、

 目尻に小さな笑い皺を寄せた。


「さて、もう一つは……」


 エイリアスの視線が、

 最後の旗――拳の印へ向かう。


 そこには、

 粗末な革鎧を着た男女が数名、

 無造作に腰を下ろしていた。


 その中から、

 ひときわ大柄な女が立ち上がる。


「砂の槍と山羊の骨と……

 あと、蠍と遊ぶ好き者どもか」


 癖のある赤毛を短く刈り上げ、

 片耳には銀の輪。

 唇に一本、古い傷。


「私らは“拳”。

 街で追い出された連中の集まりよ」


 彼女はにやりと笑った。


「名前はイレナ。

 “拳の隊”を仕切ってる。

 よろしく、蠍殺しのエイリアス」


「蠍殺しは俺じゃなくて部下だ」


「そりゃいい部下を持ったじゃない」


 イレナは、

 セルグレンを上から下まで眺め、

 次にリースを見て、最後にモハンで視線を止めた。


「……あんた、いい腕してそうね。

 肉、焼ける?」


「焼けるし切れる。

 女の機嫌は取れない」


「上出来よ」


 イレナは楽しそうに笑った。


「腹を満たさずに戦場の話をする連中とは、

 組みたくないからね」


 その一言に、

 ナジルもレムも、

 ほんの少しだけ口元を緩めた。


(……こうやって、

 砂漠のあちこちから“連中”が集まってくるんだ)


 ジージーは、

 外の風の音を聞きながら、

 小屋の中で交わされている声を想像した。



◆ 連合の話


「……で」


 イレナが、

 拳の旗の前に片足を投げ出しながら言った。


「呼び出したのはそっちでしょ、蠍殺し。

 何をそんなに急いでるわけ?」


「蠍はおまけだ」


 エイリアスは、

 砂の上に簡単な地図を描き始めた。


「ここと、ここ。

 それから、このオアシス――

 最近、やたら早いペースで潰されてる」


 彼が指で示したのは、

 砂漠の中央部に点在する小さな集落の位置だった。


「軍が動いている?」


 レムが問う。


「だが、おかしいのは――」


 エイリアスは、

 地図の端、国境線の向こうを指差した。


「エルビアンヌの旗だ。

 そこから“別の火種”が投げ込まれている」


「エルビアンヌ……」


 レムが、かすかに眉を寄せた。


「奴らは砂漠を嫌う国だと思っていたが」


「表の話はな」


 ナジルが鼻を鳴らす。


「裏ではどうだか知らねぇ。

 “金”が動けば、

 乾いてる場所ほどよく燃える」


「実際、軍の装備に混じって、

 見慣れねぇ金具が増えてきた」


 イレナが口を挟む。


「この前、街道で荷車を襲ったらね。

 “理事会への献納”って印が押してあった。

 中身は武具と薬、やたら上等」


「理事会……」


 レムが、

 苦い顔をした。


「あの耳障りのいい名前を、

 また聞くことになるとはな」


「知ってるのか?」


 エイリアスが問う。


「北のほうの噂話だ。

 帝国だか何だかの陰に、

 “国でもない、教団でもない連中”が

 蠢いていると」


 レムは、

 焚き火の火を見つめた。


「人が多くなりすぎた街や国に、

 “正しい道”とやらを押し付けて歩く。

 その代わり、金と武器を流す。

 そういう連中だと聞いている」


「“正しい道”ね」


 イレナが肩をすくめた。


「こっちから見れば、

 ただの“でかい口をきく連中”なんだけど」


「問題は――」


 エイリアスが、

 指で砂をぎゅっと押し込んだ。


「砂漠の国シャール=ダンは小さい。

 エルビアンヌも、その気になれば小さい。

 だが“あっち”はでかい」


 彼の視線の向こうに、

 名前の出てこない“北の帝国”がある。


「それを相手にする前に、

 こっちがバラバラのままだと、

 ただ潰されるだけだ」


「だから連合、ね」


 ナジルが、骨ばった指で顎を撫でた。


「山の民、砂の民、街から追い出された連中。

 うまくいけば面白いが、

 失敗すれば、互いに喉を噛み合うだけだ」


「それを防ぐために、

 ここに腹を割って話せる奴だけ呼んだつもりだ」


 エイリアスは、

 ひとりひとりの顔を見た。


「ナジル。

 お前の山の連中は、“正規の軍”を相手にするのは得意だろう」


「山を登らない軍ならね。

 ここは砂漠だ」


「レム翁。

 シャール=ダンの古い兵法を知っている。

 オアシスと街道の“結び目”の壊し方も」


「古いだけで、

 新しい兵器には通じぬかもしれんぞ」


「イレナ。

 街で追い出されたお前の連中は、

 “中”の事情に詳しい。

 理事会とやらに繋がっている商人、

 役人の名前も持っているだろう」


「まあ、少しはね」


 イレナは、

 足を組み直した。


「だから何?

 あんたの言い分はわかった。

 でもさ――」


 彼女は、

 拳で自分の胸をとんと叩いた。


「うちらは、“王”にも“帝国”にも興味ない。

 興味があるのは、

 “明日の飯”と“仲間の命”だけだ」


「それは俺たちも同じだ」


 エイリアスはあっさりと言う。


「だからこそ、

 “余計な死に方”を減らすために、

 今、ここで組んでおきたい」


 レムが静かに頷いた。


「……エイリアス殿の言うことは一理ある。

 だが、連合というものは、

 旗を並べただけでは成り立たぬ」


「そうだな」


 ナジルが、

 砂の上に一本の線を引いた。


「誰がどこを守り、

 誰がどこを捨てるか。

 そこを決める場所でもある」


 小屋の中の空気が、

 少しだけ重くなる。


 遠く、

 風が軋む音が聞こえた。



◆ 外で待つ側


「……静かだね」


 ジージーは、

 廃オアシスの井戸の縁に腰を下ろしながら呟いた。


「中ではきっと、

 大変なことをいっぱい言ってるんだろうけど」


「そういうときほど、

 外は静かになるもんだよ」


 サルーシャが水袋を振りながら言う。


「大人たちが難しい顔で話してるあいだ、

 子どもたちは庭で遊ばされてたでしょ?」


「……あったな、そういうの」


 ジージーは苦笑する。


「でも、庭のほうがよっぽど騒がしかったけど」


「内側が静かで、外側がうるさいほうが、

 まだ健全だと思うよ」


「今は?」


「……今は、どうかな」


 サルーシャは曖昧に笑った。


「でも、ジージーちゃんは“外側”にいる。

 それは悪いことじゃないよ。

 中にいる人たちが、“外側”に何を背負わせるつもりなのか、

 ちゃんと見ることができるから」


「……見たくないものも見ちゃいそうだけどね」


「それも含めて」


 風が吹いて、

 砂粒が頬を軽く叩いた。


 ライルが少し離れたところで、

 ラクダの足を点検している。


「蠍の肉、持ってくればよかったな」


「また蠍……」


「いや、あれは本当に旨かったんだって。

 今度、別の隊にも食べさせたいなぁ」


「モハンが聞いたら喜びそう」


「“素材が足りねぇ”って怒られそうだけどね」


 取りとめのない会話。

 それでも、その時間が

 ジージーの胸を少し軽くしてくれる。


(中で話してることは、

 きっと“戦争”の話だ)


 国と国。

 帝国と砂漠。

 理事会とレジスタンス。


 自分には、まだ全部はわからない。


 でも――

 いずれ、「止める」必要がある何かだということだけは、

 もう肌で感じていた。



◆ 条件付きの握手


「……まとめよう」


 エイリアスが、

 砂に描かれた即席地図の上に指を置いた。


「シャール=ダンの北側――

 この辺りは、レム翁の隊が担当。

 山側から下りてくる軍勢は、ナジルと組んで迎え撃つ」


「山は狭いからな。

 あんたら砂漠の連中よりは、

 “道の塞ぎ方”はわかってる」


 ナジルが鼻を鳴らす。


「東側の街道と、

 オアシスの周りの情報はイレナ。

 “拳の隊”が目を光らせる」


「うちらは街の匂いに慣れてるからね。

 怪しい奴の歩き方も、

 目線も、持ってる袋の重さもわかる」


 イレナは、

 指で拳の旗を軽く叩いた。


「その代わり、

 うちの連中が手に入れた情報は、

 全部タダで渡すわけじゃない」


「見返りは?」


「逃がしたい奴がいるとき、

 砂漠のほうで“面倒見てほしい”ことがあるかもしれない。

 そのとき、エイリアス、あんたの隊に頼る」


 エイリアスは、

 しばらく黙っていた。


「……誰だ」


「今はまだ、ただの“子ども”よ」


 イレナは、

 意味ありげに笑った。


「だけどね――

 いつかこの世界を“ひっくり返す”かもしれない子。

 あんた、そういうの放っておけない顔してる」


「買い被りだ」


「どうだか」


 イレナは手を差し出した。


「条件付きでいい。

 あんたと組む」


 エイリアスも、

 その手を握り返した。


「こっちも条件付きだ」


「何?」


「“殴っていいとき”が来たら、

 逃げるな」


 イレナが目を細めた。


「今は逃げることも仕事だと思ってる?

 それは否定しない。

 だが、どこかで“逃げない選択”をしなきゃ、

 どこまでも追い込まれる」


「……やっぱり、

 あんたも目付きがおかしい側の人間だね」


 イレナは、

 くすりと笑って握手を強めた。


「いいよ。

 “殴っていいとき”が来たら、

 そのときは一緒に殴る」


 レムも、

 ゆっくりと立ち上がる。


「では、わしも一つ条件を。

 連合に名を連ねる以上、

 “無闇に民を巻き込まぬ”という約束をしてほしい」


「……全員が守れるとは限らねぇぞ」


 ナジルが言う。


「約束するのは簡単だが、

 腹が減った奴は、そういう約束を忘れやすい」


「だからこそ、

 “ここで交わしたこと”を、

 あとで思い出せるようにしておくのだ」


 レムは、

 腰から短いナイフを抜いた。


 自分の掌を軽く切り、

 血を一滴、砂の上に落とす。


「わしは、

 この砂の上で誓う。

 “必要以上には殺さぬ”。

 “止めるために戦う”」


 エイリアスが、

 その言葉にわずかに眉をあげた。


「……今、何て言った?」


「止めるために戦う、とな」


 レムは平然と言った。


「この歳になっても、

 まだそんな夢みたいなことを言うのはおかしいか?」


「いや」


 エイリアスは首を振った。


「うちにもいる。

 同じようなことを言う奴が」


 その言葉に、

 ナジルもイレナも、

 興味深そうに目を向けた。


「そいつは、まだ子どもか?」


「そうだ。

 だから、お前らの喧嘩に巻き込みたくはない」


 エイリアスは、

 掌をナイフで切り、

 同じように血を一滴砂の上に落とした。


「だが、この連合が“止めるために戦う”なら、

 その子がそのうち、“ここ”にも立つかもしれない」


「……面白くなってきたな」


 ナジルが、

 乾いた笑いを漏らした。


「山羊も混ぜてくれ。

 山の連中も、そろそろ何か“止めてぇ”と思ってたところだ」


 イレナも肩をすくめる。


「街の拳も乗った。

 どうせ黙ってたって、向こうから殴ってくるしね」


 三人の視線が、

 自然とエイリアスのほうへ集まる。


「じゃあ――」


 エイリアスは、

 砂の上の血の跡を見下ろした。


「今日、この場所から始めよう。

 砂漠の連合サンド・リンクを」


 誰ともなく、短い笑いが漏れた。


「名前は、あとでもっとマシなの考えようぜ」


 リースがぼそっと付け加えた。


「ダサいのはやだ」


「うるせぇ。最初の名前なんてそんなもんだ」


 セルグレンの苦い笑いに、

 小屋の空気がすこし柔らかくなる。


 だが、その柔らかさの底には、

 もう「別の影」が潜んでいた。


 この連合の中に、

 すでに“裏切る芽”が紛れ込んでいることを、

 このとき誰も知らない。



◆ 砂漠の夕暮れに


 小屋から出てきたエイリアスたちを見て、

 ジージーは思わず立ち上がった。


「どうでした?」


「少しはマシな夜になった」


 エイリアスはそう言って、

 ラクダの背を軽く叩いた。


「とりあえず、今日のところは、

 “同じ方向を向いて歩き始めた”ってところだ」


「喧嘩にはなりませんでした?」


「喧嘩するほど元気はなかったね、皆」


 リースが笑う。


「でもまあ、

 “殴るときは一緒に殴ろう”って話にはなったかな」


「物騒なまとめ方しないでよ」


 サルーシャが肩をすくめる。


 セルグレンは、

 いつものように荷物を持ち上げながら言った。


「ジージー」


「なに?」


「お前にも、そのうち見せてやる。

 今日みたいな夜に、

 “中”で何が決まってるか」


「……見たいような、見たくないような」


「どっちにしろ、

 お前はきっと“そこ”に立つ」


 彼の言葉は、

 妙な説得力を持っていた。


「ちゃんと足、作っとけよ」


「はいはい、足ね」


 ジージーは、

 ひびの入った木杖を握りしめた。


(止めるために戦う)


 レムが言った言葉と、

 自分が前に口にした本心が重なる。


(今日、あの小屋で交わされた言葉のどれが、

 本物の約束になるのかはわからない)


 それでも――


(たとえ誰かが裏切っても、

 あたしは“止めるほう”に立ちたい)


 砂漠の夕暮れは、

 赤く、長く影を伸ばしていた。


 その影の先に、

 これから始まる大きな戦いの姿が、

 ぼんやりと滲んでいるように見えた。




【後書き】


砂漠のレジスタンス連合――仮称「サンド・リンク」が、

ようやく形になった夜でした。


ナジル(山の民)、レム翁(古い兵法持ち)、イレナ(街の拳)という、

クセ者たちが揃ってくれたおかげで、

今後の戦いに“幅”と“悲劇の種”が同時に生まれます。


エイリアスが口にした


「“殴っていいとき”が来たら、逃げるな」


レム翁が誓った


「止めるために戦う」


これらは、

ジージー=ジギーの「杖の勇者」としての生き方に

まっすぐつながるキーワードたちです。


次は――

いよいよ「開戦前夜」。

連合軍側の準備と、

裏でじわじわ仕込まれていく“裏切り”の動きを描いていきましょう。

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