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◇8話 食事(中編)

「あのさ、言おうか悩んでいたけど、お兄ちゃんって料理も上手なんだね」

「少しだけ、な。人並くらいしか作れないよ」


 一時期、唯が食事を取ってくれなかったんだ。

 祖母が死んだのが三年ほど前、その時も唯は泣いていたし、それが原因で拒食症にもなった。お菓子くらいなら食べられるけど栄養は取れないような状況だったから俺がどうにかする以外に手が無かったんだ。


 現に不味くても唯は俺の飯だけは食べれたし。

 本人曰く、俺が作ってくれているって部分が重要だったらしい。今となっては普通に外で飯を食べてきているから安心出来るけど……少しだけ悲しい気持ちもあるんだよな。まぁ、そこら辺は妹離れ出来ていない俺が悪いんだけど。


「ちなみに……スキルレベルは?」

「料理ならレベル七だね」

「はぁ……普通ならお城で料理長を担えるくらいには高いんだけどね。そんなに何でも出来るのにシンメイのダンジョンにいる理由が分からないよ」

「エマに出会うためだよ。それじゃあ、ダメかな」


 おっと、軽口を返したつもりなのに頬が赤いな。

 なるほど、我が妹は口説き文句に近い言葉が弱点と見た。そういうところは慣れさせておかないと変な男に絡まれるキッカケになるからな。兄の手で直しておかないと後で困るだろう。


「私に会うためなら……最高の料理を食べたいな」

「調味料も無いから高が知れているけど、その中で最高の物を作ってあげるよ。安心してくれよ、妹にゲテモノを食わせる程にイカれてはいないからな」

「違う意味でイカれてはいるけど……まぁ、詳しい事はお兄ちゃんに任せるよ。美味しいご飯は私もいっぱい食べたいし」


 そう言われると腕によりをかけないとな。

 アクも良い感じに取り終えたから後は火を遠火にして煮込むだけだ。水が少なくなれば少しずつ追加していけばいい。要は肉の中にある旨味を如何にスープに溶け込ませるか、だ。それでいて肉を摘めば解けるような柔からさを出せればいい。


 さて、その間にベアとボアの肉を焼く準備だ。

 とはいえ、食べやすく焼きやすいように焼肉程度の大きさにするだけだが……まぁ、そこら辺はどうでもいい話か。右手に水を作り出してナイフの形に作り替えておく。形状としてはメス程度のものでいいか。


 後は切るだけ。ギコギコはしませんってな。

 作っておいた皿に肉を並べておいて香草の類を並べておく。ここら辺は毒味はしておいたし、魔素だって既に抜いてある。抜かなくてもいいとは聞いてはいたが抜いておいて損になる事も無い。肉に関しても一緒に魔素を吸い込んでおいて……これで焼肉は完成だな。後は空間内で焼いておくだけでいいだろう。


「え……もしかして今ので終わりなの……?」

「ああ、魔素を抜いて魔力に変換した。これを使用して魔法の発動に繋げている。魔力を過剰に手に入れても暴走するだけだからな。余分な量は使っておくに越したことはないよ」

「……普通は魔素を魔力になんて変えられないよ。その魔力を使う事だって出来はしない。それが出来るのは魔素を操れる人くらいだと思う。でも、それが出来るのは」

「否定はしないよ。ただ、俺はただの人でしかないし、違うとすれば他の人より数段は優れているってだけかな」


 その目は嫌いだ。あの世界にいた時に知った。

 俺は普通じゃない、俺の妹だって普通の人間とは違っている。同じ歩幅で歩けたのは幼馴染くらいだったというのに……でも、今は少しだけ気持ちに整理もついてきた。仮に俺が他の人達と違っていようがどうでもいい。


「そんな俺の妹になれて幸せだな、エマは」

「っ……その言葉は……卑怯だよ……!」

「どうでもいい事は気にしなくていい。俺の周囲の人間なんて皆、笑いながら魔素を吸収していた。もっと言えば……ああ、思い出すのも恐ろしいな」


 あのババア……鍛錬とか言ってよ……。

 はぁ……本当に俺で教え方を学んだとか言って死ぬ程、鍛えてくれてさ。魔力も魔素も薄い日本でアレだけ婆ちゃんの力を見せられたら今の俺なんて半人前も良いところだ。教えるとか言って何度殺されて蘇生されたか……ああ、本当に懐かしい思い出だな。


『人は年の瀬には勝てん。ただ覚えてやれ』


 ああ……覚えているよ。爺ちゃんだってさ。

 何時までも愛している。俺をここまで育ててくれた婆ちゃんも爺ちゃんも……恨み言の一つや二つは言いたくなるけどさ。それでも婆ちゃんの作ってくれたご飯が食べたいし、本気を出して爺ちゃんに打ちのめされたいよ。


「ほら、飯を食ったら寝て、起きたら強くなるための鍛錬だぞ。剣と魔法に秀でた俺が教えるんだから生易しいと思うなよ」

「え……教えるのは二人じゃないの?」

「暇があれば教えるぞ。ってか、教える段階とかは俺が二人に伝えるから間接的に俺が教える必要があるからな。まぁ、俺が教えるんだ……生半可な強さにはしないさ」


 と、無駄話に時間を割き過ぎてしまったな。

 もうそろそろでスープの方も完成だ。魔素を抜いた上で空間魔法の中に火魔法と水魔法を発動させておく。かなりの量のお湯を作るとなれば魔素から得た魔力の多くを消費出来るだろう。


「さ、出来たぞ。味付けは無いけどな」

「……肉を焼いているのは見ていないんだけど」

「別空間で焼いた。本音を言えば空間から出して魔素を抜くなんて魔力の無駄だからね。済ませられるのなら空間内で全て済ませた方が無駄が無い」

「……そういう事ね。これが俗に言う効率厨かしら」


 効率厨……確かに唯にも言われた言葉だな。

 まぁ、思い当たる節なんて幾らでもあるし、間違っているとは少しも思っていない。現に日本にいた時から火魔法と水魔法、空間魔法は俺の得意な分野ではあったからな。だから、転生した俺にだって同じ力があったんだろ。


「一つ言うと、そんな事も出来ない存在なら剣も魔法もと扱えはしないよ。俺の周囲の人間なんて寝る間も惜しんで鍛錬していたからな。そんな馬鹿らしい事をするくらいなら出来る限り楽をするべきだろ」

「……すごいね。本当に化け物だと思うよ」

「こう見えて天才なんでね」


 睡眠時間とは欠かせない休息の時間だ。

 休息の時間を抜くという鍛錬方法は確かに鍛錬の時間を増やせる良い手段だろう。だが、多種多様な種類の人間がいる世界において、書物に残すべき万物共通の鍛錬方法ではない。


 努力すればするだけ成果が現れるのは正しいとは思うが、その成果がどれだけ自身に適しているのか、その努力の仕方が正しいかどうかで大きく成果が変化してしまう。結果が良いから本当の意味で適しているとも言えないしね。


 俺には休みの無い鍛錬は成果が出なかった。

 寧ろ、十時間以上の睡眠があって成りたった鍛錬でもある。父さんは良い顔をしなかったけど、爺ちゃんと婆ちゃんは唯と変わらずに教え込んでくれた事だけは覚えているよ。それが洋平に適した鍛錬だってさ。


 でもさぁ……いいや、文句を言うのは違うか。

 ただ……剣の稽古だとか言って、弓や槍を教えてきた爺ちゃんもムカつくし、瀕死の俺に対処の仕方を知らないなら当然に死ぬとか口にした婆ちゃんも教え方が悪いって。それで唯や聖への教え方がマシになった分だけいいけどさ。


「と、ご飯が冷めたら意味が無いだろ。さっさと食べて明日に繋げるぞ」

「繋げるぞって……変な言い方だね」

「そうかぁ? 今日も明日も、未来なんて一日が繋がったものでしかないだろ。美味い飯を食う、自分の将来のために努力する、必要な分だけ寝る、好きな人と一緒に過ごすとかな。中身は変われど本質は変わらない、同じ日々の繰り返しだろ」


 少なくとも俺はそれを徹底してきたつもりだ。

 確かに他の人よりは物覚えが良かったのかもしれない。変な力があったせいで面倒な疎まれ方だってされてきた。それでも求められた期待に応えるために剣を振り続けてきたのが俺だ。爺ちゃんには勝てなかったが……そんな事は些細な問題だろう。


 まぁ……一太刀程度なら与える事は出来ていた。

 本当に……初めて頬を切れた時には二人が本気で喜んでくれたのは、忘れたくても忘れられない事実だ。せっせと赤飯を炊かれて、地元で取れた鰻を出されて……どれもが忘れたくないくらいにかけがえの無い思い出なんだよなぁ。だから、唯の気持ちは分かってしまう……それで高さんに面倒をかけるのも申し訳ないけど。

とりあえず、一週間の毎日投稿は終わりです。また書き溜めが出来たら投稿します。もし、興味を持って頂けたのであればブックマークや☆レビュー、いいね等で応援していただけるとモチベーションに繋がります!

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