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◇7話 食事(前編)

「当面の目的は二階層の完全攻略、加えて魔物の殲滅が最優先かな。俺は性格が悪いからね。進むにしても勝てる算段が立たない現状で何かをする気もない」

「……それだけの魔物を簡単に殺せるお兄ちゃんがそれを口にするんだ。個人的には五階層くらいまでなら一気に進めそうだけど」

「強者を殺すのは油断だからね。俺は俺が強者として立てる存在だと理解している。それなら強者として生き残るために何が必要なのかを考えるのは当然の事だろ。もっと言えば命に変えられる物なんてありはしないからさ」


 魔物討伐、名称は違えどやっていたからな。

 その中で同職の人間が、同じ金倉家の門下生がボアに叩き潰される姿もベアーに八つ裂きにされる景色だって見てきた。当時の俺よりも技術や経験のあった人間でさえも微かな油断で死んでいたんだ。だからこそ、同じ轍は踏まない。


「俺が二人に求めるのは俺が休息を取る間のエマの子守りと指導だ。もちろん、休息に関しては三人で分割して取る事にする。余裕がある時には探索に赴いてもらう。そうだな……五日以内に二階層の魔物は狩り尽くす。仮に生み出されようが一度でも殲滅出来ればそれでいい」

「……お言葉ですが従魔として主の単独先行は見逃せません。主様の命は主様が考えているよりも重いものです。殿を務められる私かクノイチを連れて行くのが確実に」

「安心してくれ。策なんて幾らでもある」


 ぶっちゃけてしまえば俺の手数は多いからな。

 経験則からして二階層からは魔物がリポップしそうな感じがある。……詳しく言えば周囲に漂う魔素が極端に濃いと言うべきだね。その点からして食料に困る可能性は低く、安全にレベル上げだって出来るんだ。ここまで整った状況で怖がる事なんて少しもありはしない。


「さて、無駄話をするのは時間の浪費だ。皆、かなり動いたからな。さっさと食事を済ませて一度、大きな休憩でも取ろう。こう見えて腹が減っているんだ」

「食事……何を食べる気なの?」

「ベアーの肉とスープかな。火魔法も水魔法も使えるから簡単なものくらいなら作れるよ。ボアの肉と香草を使えば味付けには困らないし」

「……色々とおかしいけれど一つだけ。普通の人には魔素の籠った魔物の肉は毒なのよ。一部の魔物を除いて魔物肉は食べられないの。ダンジョン内で死ぬ原因の三割は餓死だって言われるくらいだし」


 ふーん、そういう常識は俺には無いからな。

 だから、こうやって教えてくれるのは端的に言って助かる。ダンジョンを攻略したとなれば恐らくはエマの生きていた世界に行く事となるだろう。そんな中で常識を少しも持ち合わせていない風来坊だなんて脅威の対象にしかなり得ない。


「問題無いよ。魔素抜きくらい誰にだって出来る芸当だからね。後、魔物の肉って毒が入っている分だけ美味いぞ。多分、エマも驚くと思う」

「……私には魔素が残っていても問題ないんだけどね。それと魔素抜きなんて技術、普通は誰にも出来ないわ。出来ているのならもっと出回っている気がするけど……まぁ、いいや」

「エマ様、我等が主は少し普通では無いのです。あまり常識に囚われない考えを持っていた方が接しやすいでしょう」


 本音を言えば四人全員が魔素有りで問題無い。

 いや、俺の体だけは元の物とは違う分だけ差異があってもおかしくは無いか。ただ、魔素の吸収で異変は無かったし、少量ずつなら慣れていくから大きな問題は無いな。少なくとも今に関しては魔素抜きはするし。


 一先ず、小さめのボアを一つ取り出しておく。

 小さくても二メートルはあるからね。コイツが軽トラにぶつかったって時には運転手ごと大破したと聞いたから本当に恐ろしいものだ。対してコイツは無傷だったから……動物と魔物の差って極端に大きいんだよなぁ。つくづく、そう感じてしまうよ。


 とりあえず不刃で部位ごとに切り分けておく。

 皮、頭、胴体、足といった感じだ。ここら辺はナイフの方がやりやすかったけど……文句も言ってられないか。今の内に解体しておきたかったって思いはあるが気にしたら負けだ。水球を作って足一本を中に入れておく。後は回転でもさせておけば綺麗になるって寸法だ。


 その間に集めておいた木々を並べて火を放つ。

 ここら辺は魔法を使える人の特権だろう。火が移ったのを確認して、作っておいた皿と鍋を出しておく。全て土から作った陶芸品だ。普通の皿と違うのは魔力を込めた事で耐熱性や耐久性が上がった事くらいかな。まぁ、これ自体は日本でも作った事があるから性能は問題ないだろう。


「……見えないところから物を出している時点で空間魔法があるのは分かるけど……その皿とかはどこで手に入れたの」

「土と水と火と場所があれば簡単に作れるよ。後は魔力操作がどこまで出来るかって問題があるだけだからさ」

「……聞かなかった事にするね。なんか、絶対に普通じゃない方法で作ったって事だけはよく分かったから」


 普通じゃないなんて失礼な言い方だね。

 ただ単純にダンジョンの土を空間魔法内で焼いて作っただけだ。空間魔法で作った倉庫の半分くらいを焼き場に変える必要はあったけど、これからも含めて調理道具で困る事は無くなりそうだし。……まぁ、迂闊に見せたのは問題だったけど。


 空間魔法というのは俺から見ても稀有なものだ。

 純粋に能力や性能が他の魔法に比べて高過ぎるのだから当然なのかもしれないが……それを人並み以上に扱えるというのはエマに見せない方が良かったかもしれない。有用性で人の価値を計れる程の強さは人間という存在にはありはしないからな。


「火、水、空間の三つも魔法が使えるんだ」

「そうだね。といっても、大して扱えてはいないから無いも同然だよ。戦う時なんて火魔法位しか使わないし」

「剣を使う人が魔法を使うのは普通じゃないんだけどね。魔法剣士とか噂くらいには聞いた事はあるけど、必要な条件が未だに分かっていないくらいだから」

「そんなものなのか」


 とりあえず、土鍋に火を付けて水と肉を入れる。

 つまりは侍の数段下くらいには魔法剣士も珍しい職業なのかな。それって……獲得条件の掲示とかで稼げる可能性とかもあるか。確か、侍を獲得した時に詳細は見れたよな。アクを取る暇潰しに確認するのもアリか。




 _____________________

魔法剣士ジョブ

 ・スキル剣術のレベルが五以上である。

 ・剣士と魔法使いのジョブを獲得している。

 ・本人の剣士適性がC以上、魔法剣士適性がC以上、魔法適正がC以上ある場合のみ開放される。


 ジョブに付けた場合、剣術と魔法攻撃に極小の補正をかける。

 _____________________




 確かに……この説明なら獲得は難しいか。

 普通に考えてみれば剣と魔法の二つに適性がある時点で難易度は高いだろうし、特に剣術スキルを五まであげておかないといけないのも時間がかかってしまうだろう。特に今の俺のような幼い子が持っていれば突っ込まれてもおかしくない事しか書かれていない。


「……もしかして、ステータスも見れるの」

「それって、どういう意味なんだ」

「あのね……いや、確かに常識のないお兄ちゃんが知っているわけないか。……普通はステータスを見る時にはステータスプレートと呼ばれる魔道具か、スキルの鑑定が必要なの。でも、瞳孔が狭くなっていないから持ってはいないよね」


 エマ……思っているよりも洞察力があるな。

 知能の高さと合わせれば本当に……いいや、むしろ、そんな子を妹として囲えている事を喜ぶべきか。ダンジョンから出た時に常識を持ち合わせていなければ困る事が多くなる。もっと言えば呆れながら喜んで教えてくれるエマを見て可愛い以外の感情を持つのは兄として失格だ。


「ねぇねぇ、ここからは出来る限り嘘を言わないで欲しいんだけど……魔法剣士の条件ってなんなの」

「持っている前提で話さないで欲しいけど……剣士と魔法使いのジョブを持っている事、剣術スキルを五以上にする事、魔法剣士を含めた剣士と魔法使いの適性がある事だな」

「……その条件を満たしているお兄ちゃんはなんなの。やっぱり、少しも普通じゃないよ。普通は凡人が二十年くらい剣を振ってようやく剣術スキルが五まで上がるんだよ。魔法だって同じ」


 なるほど、そこも含めておかしかったか。

 まぁ、剣の師匠も普通なら出会えないような存在だし、場数だってただ振るうだけより濃度の高いものを味わってきた自信がある。現に元の俺を反映させたとすれば納得出来るようくらい、独学で使ってきた魔法のレベルは低かったからな。ただその場合は持っていない属性もあるから必ずしもそうだとは言えないけど。

次回は明日の9時の予定です。

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