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◇1話 転移

 ここに来るのは何年振りだろうか。

 三百メートル程度の高さがある爺ちゃんが管理していた山の頂上、少し辺りを見渡せば近くの森であったり、街を一望だって出来る。そういえば幼い時は爺ちゃんに連れられて山菜採りとかもしていたっけ。まぁ……中学に上がる頃には来るのも止めてしまったけど。


 だって……嫌な思い出があるんだ。

 頂上に置かれた小さな祠、そこで俺は確かに美しい女性と知り合った。だけど、その姿を俺以外が認識してくれなくて……多くの人に気味悪がられて怖がられたよ。まぁ、それも本が幻では無かったと教えてくれたけど。そう、今となっては悩むだけ損だったんだ。なぜなら、だって、それは俺にしか見えない存在だったのだから。


「この中に……鍵を開くための空間がある、か」


 祠の扉、幼い時には開けられなかった場所だ。

 でも、本の影響なのか。今なら簡単に開ける事が出来てしまう。小さな時はてっきり御神体でも入っているものだと思っていたけど……開けてみると意外に何かがあるという訳では無いんだな。ただ、確かに何も無いけど何かがある事が分かってしまうからこそ、少しだけ恐ろしさも感じてしまう。


 大きな溜め息を吐いて空間へと手を伸ばす。

 感触はない……けど、不思議と嫌な感覚もしない。ただ何かが危険な気がする。そう、手を入れていてはダメだと警鐘を鳴らす何かがここにはあるんだ。だから、サッサと手を引きたいところではあるけど……。




「はぁ……抜けないし吸い込まれているな……」


 まぁ、ここまでしてようやく開く祠だ。

 本から資格を手に入れた俺をただ殺して終わりだなんて結果は生まないだろう。ましてや、この先が何なのかは簡単な知識を与えられてしまっているからな。祠が求めているのは正当な後継者が鍵を開く事だ。だったら、開けてやればそれでいい。


 と、予備動作も無く吸い込まれてしまったな。

 アレか、鍵を開くと同時に資格を持った存在は今いる空間へと飛ばされてしまう……まぁ、本を開かなければ資格と知識を得られず、資格無ければ祠を開く事すら出来ない。となれば、それだけ身勝手な設定を組み込まれていても問題は無いのかね。


 それで……ここがダンジョンでいいんだよな。

 本の知識では異世界と地球を繋ぐ中間の空間であるとされていた。とはいえ、中自体は異世界で発生している分だけ資格が無ければ往来は出来ず、別世界の知覚だって不可能らしい。そのせいで異世界からダンジョンへは入れるけど、地球に来る事は不可能みたいだしな。……俺以外は。


「ただ……なるほど、出口は無し、か」


 てっきり、入口に来るかと思ったが……。

 見た感じ、今いる空間はオーソドックスな洞窟の中だな。それも辺りに何も無い、だだっ広いだけの正方形の空間に俺はいる。視界の端にマップがありはするけど……分かるのは今いる空間の大きさと階層くらいか。


 名前は神域の迷宮、その一階層目がここだ。

 神域……と付くだけあって外にいる敵も強いのだろう。ダンジョンと呼ばれているだけあって魔物もいる。初心者向けとしてよくいるゴブリンとかが相手だと嬉しいけど……いいや、そういった事は後回しだ。今は現状を考えよう。


 俺の持ち物は着ていた衣類と一本の刀。

 刀に関しては少し抜いてみたけど悪い物では無いだろう。これは異世界に来た俺へのサービスのようなものかね。確かに本を知っている爺ちゃんがダンジョンを知らない訳が無いだろうし、金倉家の人間であれば刀さえあればどうとでもなる。


「……しっかりとした刀だな。逸品とまでは言えないが戦国乱世の量産品よりは質の高いものだと言えるか。これなら多少は敵が強かろうが……」


 いやいや、得物なんて使い捨てでしかない。

 どれだけ磨こうと、どれだけ大切に扱おうと時間によって劣化していく。その時点で刀を振るうべき時は必要な時に限定するべきだ。運良くと言うべきか、俺の着ている服は純粋な絹製だからな。血を拭き取るには悪くない素材だろう。


「さて、次は……ステータス」




 ____________________

 名前 《未設定》

 種族 人族

 年齢 13歳

 レベル 1

 ジョブ 1.【侍LV1】2.【未開放】

 HP 500/500

 MP 1000/1000

 物攻 G(20)

 物防 G(20)

 魔攻 G(20)

 魔防 G(20)

 速度 G(20)

 幸運 S(100)

 固有スキル

【熟練度上昇】【経験値上昇】【ステータス操作】【従魔創造】

 スキル

【隠蔽LV1】【気配遮断LV1】【剣術LV10】【料理LV7】

 魔法

【火LV1】【水LV1】【空間LV1】

 得物

名も無き名刀ミシック

 ____________________




 なるほど、この世界では俺は俺であり別か。

 名前が未設定、年齢が五歳近く下なのは今の体はアバターみたいなものだからだろう。確かに視線の高さが違う時点で気が付くべきだったな。とはいえ、スキルは俺の適性だとして……魔法に関しては出られない俺が生き残れる最低限の力を与えるために付与されたものか。


 薄々と分かってはいたけどミシックで理解した。

 あの祠は確かに神を祀ったものなのだろう。幼い時に見た女性も神様だと思えば納得出来る。その神が俺に何かを任せたいのなら……はぁ、幼い時の大切な思い出だ。少しくらいなら助けてあげるのも手か。ただし……。




「まずはココを出るのが先だな。一階層なら回れば異世界への入り口がある可能性もある。無いなら最下層に向かえばいいだけ……要は変わらず強くなれと言われているだけだろ」


 得物はある、技術もある……無いのは恐怖だ。

 どちらにせよ、獣との戦いでしか得られない知見だってある。本当の意味で強くなるのであれば今いる空間に留まる意味も無いだろう。スキル関係は発動させてみないと感覚すら掴めないからな。


 さて、マップではここが扉らしいが……。

 うーん、なるほど、隠しエリアのような場所だったらしい。適当に壁を触っている内に変なボタンのようなものを押してしまった。とはいえ、今の動作で隠しエリアの位置とボタンは視覚的に分かるようになったからいいか。疲れたら戻ってくれば睡眠程度なら容易に取れる。


「と、左右と前……道は三つか」


 どこを行っても敵は三体ずついるらしい。

 マップの精度は知らないけど、隠しエリアから出た瞬間に道が更新されたから信用出来ないものでは無いだろう。というか、生き残る手段を与える存在が俺を騙す意味なんてアリはしないからな。やるのなら隠しエリアに倒せない魔物を配置するだけでどうとでもなるだろうし。


 こういう時は……三択ではあるけどいいか。

 どこを行っても同じ、なら、どこぞの漫画を信じて左の反対でも行ってみよう。感覚ではあるけど気配遮断は発動出来た。十秒に一ずつ魔力が消費されている時点で明確に発動出来たと言えるだろう。


 三分は歩いたところで魔物はいた。

 遠目から見て……汚らしい小鬼の姿からして俗に言うゴブリンと呼ばれるものだろう。ただ、普通のゴブリンと呼ぶには周囲への警戒をやめていないし、チラチラと俺の方を見ている気もする。探知出来ているのなら後詰もない現状なら向かってくるだろうし、感覚として察している程度でしか無いのだろう。


 だったら……一番、警戒心の無い敵から狩る。

 歩きながら試してみたが今の体での呼吸を止められていられる時間は二分程度。訓練をしていない事や刀を振るう事からして一分でも持てば良い方だろう。ただし、それは刀を振るう事を前提とした時だ。


「ああ、やっぱり、こっちの方が楽だな」

「ギィ……!」

「うるせぇよ」


 隠密なら隙の多い振りより突きの方がいい。

 上手く心臓を貫けたようだし、抜く時も無名の刀よりは簡単に引き抜けた。これだけ隙が少なくて済んだのなら二体目の首を飛ばすのだって難しい話では無いだろう。さてさて、残ったのは警戒心の強いゴブリンのみだが……。




「ギ、ギィ……!」

「おいおい、逃げるなよ。悲しくなるぞ」


 袈裟斬りも良好、切れ味は悪くは無いな。

 もう少し軽ければ振りやすかったが……そこら辺は特注でも無いのに求め過ぎか。こんな事なら模造刀と研石の数本程度は家から持ってくるべきだったな。まぁ、この程度の敵が続くのなら気持ちも楽だから気にしなくていいだろう。


「血の振り払いもマシだな。本当に新品を渡してきたらしい……いや、ミシックという時点で何かしらの力が与えられていてもおかしくないのか」


 ミシックって、神秘的なという意味があった。

 そういった作品は興味がてら、唯と一緒に見てはいたけどミシック系の武具は最高峰の存在として描かれていたからな。別に何でも切れるとか馬鹿げた力は要らない。もし望みが叶うのなら……絶対に刃毀れもせずに切れ味も悪くならない得物でいてくれれば他は要らないな。








 その瞬間、刀が光に包まれた。

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