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◇10話 配下

「さて……これで最後みたいだ」

「……予定よりも早く済みましたね」

「当たり前だ。そのために策を講じたんだ」


 俺の配下達は才能のある者達ばかりだからな。

 ハンゾウとクノイチは命令通りにエマへ剣を教え続け、その他の雑事だって済ませてくれている。ブルーベアー達だって七割方の魔物を処理してくれたからな。そこに薬草とかも持ってきてくれているとなれば両手を叩かずにいてどうする。


「……作って正解だったな、ハンゾウは凄いよ」

「は……貴方様のために」

「そうだな。それならもっと働いてもらないといけないか」


 凡そ二日半、予定より半日も早く済んだ。

 まぁ、即座に次の階層へというのは今の状況からして行う気は無い。今回は一時とは言え、魔物を殲滅するという行為に意味があっただけだ。もっと言えば事前に済ませておきたい事が確実なものだけで三つはある。……いや、だからこそか。




「少し休憩を挟んでから階層ボスだけ撃破する。それが終わり次第、拠点に戻るぞ」

「……それは些か油断が過ぎるのではありませんか」

「クノイチ以外の従魔を手元に戻す。休憩はその時間を使って行うつもりだ。先に死んでも問題の無い従魔達に戦わせてから動く。だから、油断なんて少しもありはしない」


 ハンゾウに二本の陶器で出来た小瓶を投げ渡す。

 中身は俺特製の体力回復ポーションと魔力回復ポーションだ。薬草と魔力草を芯まで乾燥させた上で粉にして六十度の湯で十時間煮込む事で作られるものだな。それより熱ければ粉が早く溶け過ぎて効果が薄くなり、冷たければ粉が溶けずに残ってしまう。


 そこら辺は空間魔法様々だな。

 空間内では温度も時間経過も自由に出来るという特性がある。空間を区分けするだけで乾燥にかかる時間も煮込むのにかかる手間だって容易に短縮出来てしまう。婆ちゃんの物に比べれば味も効果も悪いが……使えなくは無い。


「さて、ブルーベアー達は手元に戻ったぞ」

「……私の方も疲労は消え去りました。進むとなれば問題なく行えますが……」

「安心してくれ。これは実験のようなものなんだ」


 そう、一階層は何も変化が無かったからな。

 倒したら終わりだった世界とは違って……ここは色々とおかしい点が多過ぎる。特に薬草を取っても生えてくる点はまるでサイクルが二階層の中であるようなものだ。だったら、階層ボスを倒すと何か変化はあるのだろうか。色々と探っておきたい要素があるな。


「最悪は本気で殺しに行くから問題無い」

「……分かりました。主の御心のままに」


 これで進む事へ反対する声は無くなったな。

 階層ボスの扉は少し進んだ先の森から抜けた平野にある。とりあえずポーションの予備はどちら共に五十はあるから気にしなくていい。魔物だって殲滅した今となっては薬草や魔力草を摘みながら進むのも悪くはないかな。


「扉を開けてすぐにブルーベアー達を戦わせる。俺達は戦況を確認して随時、支援を行う手筈だ。初手で魔素の吸収は行うつもりはない。どうせなら名実共に階層ボスを倒したいからな」

「了解しました。危険を感じれば即座に動きます」

「そう言ってくれると助かるよ。本当なら全員を動かしたかったんだけど……まぁ、従魔であって従魔じゃないから移動はさせられないんだよなぁ」


 それにエマに察知されたら全てがおじゃんだ。

 やりたい事、やるべき事、そしてそうするための道筋は確実に作っておくべきだと俺は思う。分岐するルートの全てを予測しておくべきだとは思わないけど五つくらいは見据えておかないと誰も守れないからな。


 扉を強めに押して中へと入る。

 広さで言えば一階層の時の二倍はあるか。それでいて魔素の濃度も桁違いに高い。ただ、この程度ならまだ笑って吸い込めるレベルだな。これなら恐らくは従魔達でどうにか出来る範囲だろう。


「ほら、お前達の餌が現れるぞ。食い荒らせ」

「ググググ……ッ!」


 作り出されたのは黒い熊と赤い熊の二種類か。

 黒い熊は一体、赤い熊は百体は居そうだ。呼称としてはブラックベアーとレッドベアーといったところだろうか。そして一体という事は……コイツが群れの主だろう。強さで言えばコチラが圧倒的に格下だが、それは単純に戦った時の話でしかないな。


「物理強化、持続回復、防御強化……さて、ここまで主の手を煩わせたんだ。負けたヤツから今晩の肉としてやろう」

『クフクフ……!』


 俺の従魔達が突撃を開始したか。

 ステータスは間違いなく俺達の負け、だが、二階層を殲滅した戦闘経験から練度や連携に関しては産まれたてに負けはしない。現に二対一でレッドベアーと戦うように立ち回っている。そこら辺はブラックベアーが攻めてこない部分が大きいか。


 レッドベアー達はただの野生生物でしかない。

 だから、詰めてくる時も前衛や後衛を無視して血気盛んな奴から前に来ている。その数は多くても二十程度だ。十体は守りに特化して気を引いて、残りは二対一で首を取る事だけを目的とする。ここら辺は教えが響いているのかもしれないな。


「ガルルゥッ!」

「グラァッ!」

「ギィ……!」


 おお、すごいな。想像以上かもしれない。

 立ち回り方が成っているからという可能性はありはするものの一対一でもレッドベアーを殺し始めたな。というか、軽傷は負っても重傷にならない時点で上手く戦えている。誰一人と欠けないで同数勝負はコチラが勝ってしまったな。


「ガルゥッ……!」

『ギィィィッ!』


 さて、本番はここからだろうか。

 ブラックベアーの一声でレッドベアーが全て向かって来始めた。ここからはさすがに従魔達で戦わせるには酷な話だ。ハンゾウも頷いているあたり俺の判断は正しいらしい。だったら、もっと面白い展開にしてやろう。


「コイツらでは役不足だ。お前達は本陣を狙ってやれ。あの程度の魔物を殺せなければ俺の従魔足り得ないからな。肉ではなく俺のために生き残れ」

『グラァァァァァッッッ!』


 ブラックベアーにブルーベアーをぶつけてやる。

 俺達は雑魚処理を済ませた上で状況判断だな。こんな雑魚に時間をかけさせてやるなんて成長の阻害にしかならない。この程度で時間をかけてしまってはエマのセンサーに引っかかる可能性を高めるだけだからな。


「では、雑魚は雑魚らしく死ね」


 ダンジョンという空間は本当に良い場所だ。

 本気で火魔法を撃ち込んだところで勝手に消火されるし、燃え広がる心配をしなくていい。あの世界では俺が火魔法を使うとなれば婆ちゃんが血相変えて来るくらいだった。あの時に学んだ知識を日本では活かせなかったが……今は違うよな。


渦炎カエン


 敵を閉じ込めて内部にいる存在を燃やし尽くす。

 その程度のイメージだったが……なるほど、確かに日本にいた時なら使えなかったな。一体につき一つのイメージだったのに軽く三十は閉じ込めてしまった。後はこのまま燃やし尽くすだけで良いとなればコスパは良いな。


「後は……まぁ、適当に斬るか」


 残りは五十体弱、この程度なら余裕だな。

 配下達のおかげで今の俺のレベルも良い具合に上がっている。ステータスだってブラックベアーに少し劣る程度だろうか。……いいや、それは少しばかり相手を甘く見過ぎているかな。恐らくは二倍以上の差があると考えていい。


 やはり、ブルーベアーも押され始めたか。

 既に三体は首を落とされて死んでいる。即死級の一撃以外は治るとはいえ、このままでは確実に敗北しそうだが……って、それも俺の甘えた考えでしかないんだろうな。あの中で一番に魔力を食った存在は誰だ。忘れたくても忘れられない感覚だっただろうに。


「ベレス、力を与えてやろう」

「グラァッ!」


 ここは俺の配下に任せてやろうじゃないか。

 これで無理なら俺が敵を殲滅すればいいだけ。上手く行くのならそれでいいじゃないか。アイツらは死んだところで生き返る。だったら、成長を願って暴れ回らせた方が楽でいい。


「ほら、このままだと皆が」

「ガァァッ!」

「ギ、ィッ!?」

「……へ?」


 あれ……首を切り落とした、んだよな……。

 俺はまだ何もしていないぞ……なのに、表情を変えた瞬間にブラックベアーの首を落としてしまった。いいや、ここから立ち上がって階層ボスとしての威厳を……ってのは、さすがに酷な話か。


「……前言撤回、俺とハンゾウは下がる。残党はブルーベアー達に任せるぞ」

「は……仰せのままに」


 そこからは本当の意味で圧倒的だった。

 ベレスを筆頭にブルーベアー達は残った四十程度のレッドベアーを簡単に虐殺して行く。まるで、最初の戦いは相手の強さを測るためだったかのように容易に首を切り落としていった。俺達よりは時間がかかりはしたけど……はぁ、成長がどうとかは考えるべき話では無かったか。


「お疲れ様」


 最後の一体の首が今、飛ばされた。

 後は残った素材を回収するだけ……では、あるが配下達の様子がおかしいな。このまま空間内に返してもいいが事象については確認しておきたい。申し訳なさ半分で水魔法をかけてから素材回収に回り始めた。……だが、その判断は間違っていないのかもしれない。


 唐突にブルーベアー達の体が光り始めた。

 ベレスも含めるとなれば確実に上位種に進化しているのだろう。それなら死なない程度に癒してやれば問題なんてありはしない。ハンゾウに手で合図をして素材回収に余裕を割いておく。


 後は……なるようになればいいだろう。

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