第3話「休日」
私はスマホでベリアのファンクラブのお知らせ欄を見ていた。
「グッズも出たばっかりだし、お知らせもないか」
そう思って、スマホを閉じようとすると、メッセージが届く。伊東さんだ。
「ひさしぶり(笑)ベリアのグッズ、何か買った?」
私は、レジを打ったので、伊東さんが何を買ったのか多少はわかっている。グッズは通販で買ったので、何を買ったか忘れた。
ベリアのオンラインショップを見て、購入履歴を見る。
「缶バッチ、ブロマイド、ぬいぐるみか……」
自分こんなもの買っていたのか、と思う。忘れたころに届くことも「あるある」だと私は思う。
伊東さんに返信をする。
「缶バッチとか、ブロマイドとか買ったよ」
返事を待っていると、ファンクラブからメールが届く。
「今後の活動について」
……なんだか、怖いタイトルだな。メールを開くと、淡々と、情報が書いてある。なんとなく、読み進めると、恐ろしいことが書いてある。
「レイ……。活動休止……?」
メールの内容は、ベリアのメンバーであるレイ君が体調不良のため無期限の活動休止をする。ということだった。
メールを読み終えると、伊東さんから電話が、かかってくる。
「ねぇ! ファンクラブのやつ見た?」
伊東さんが非常に焦っているのが伝わる。この前よりも早口で、口調も強い。
「あぁ。見たよ」
「私、レイ君推しなのに。マジでヤバイ」
「うーん。えっと、その、大丈夫?」
私は言葉を選びながら言う。伊東さんの心情は計り知れない。
「大丈夫じゃないよ! 生きる価値を失った……。これからどうしよう」
確かに、推しの活動休止ほど気分が下がることはない。私は、何とかこの重い空気感を何とかしたい。
「無期限、っていうのも辛いね」
私がそう言うと伊東さんが呟く。
「ほんとだよ……」
とにかく、伊東さんには元気を出してほしいので、ふと思いついた提案をする。
「ベリアの事務所にファンレター送ってみたら?」
「え! レイ君に?」
「そうそう。レイ君をはげませたらなーって」
暗かった伊東さんの声が明るくなる。
「じゃあ、今から図書館行って、一緒に書こう!」
「いいよ。今から?」
「もちろん。いったん切るね!」
電話を終えて、私は家を出る。伊東さん、気分がコロコロ変わるタイプだな、と思いながら。
図書館に着くと、入り口で、また、伊東さんが待ち構えていた。
「図書館の中じゃ、あんまり、しゃべれないから、ベンチにでも座って話そう!」
伊東さんに連れられ、図書館近くの公園に行く。それにしても、プランもコロコロ変わるのだなと思った。
「奈美ちゃんって、ファンレター送ったことある?」
今まで「手田さん」と言われていたのでドキッとする。
「昔に、何回か。でも今は送ってないなぁ」
伊東さんが腕を組みながら言う。
「私もあまり送ったことなくて。緊張しちゃう!」
「伊東さんって、すごい、しゃべるタイプだね」
「あぁ(笑)。名前、呼び捨てでいいよ」
今までこんな友達はできたことがなかったので、呼び捨ては少し緊張する。