第1話「出会い」
プロローグ
男性アイドルグループ「ベリー・ベリー・アップ」通称ベリアは、三人のメンバーから構成されている。最年少のジュン。ダンスが上手いカナト。王道かっこいい系のレイ。三原高校に通う手田奈美もファンの一人である。
三原駅前の雑貨屋でバイトをしている。アイドルグッズやアニメキャラクターのグッズが並んでいる中で、私は一人ため息をついた。
「はぁ……。バイトしながら推しのグッズを陳列できるなんて……」
今日発売の、ベリアのグッズを陳列していると、店の外の行列ができているのが見えた。
「すっかり、人気になっちゃって」
私はベリアのメンバーであるジュン君が好きで、グッズなども買っていた。そして、グッズを売る側になりたく、この雑貨屋でバイトをしている。
外の行列が気になり、チラチラ見ていると、缶バッチがついたトートバックを持っている人。ライブで販売された洋服を着ている人。そして、学校で見たことのある顔が見えた。
「あの子は……」
同じクラスの伊東さんのようだ。あまり話したことがない子だ。ベリアのグッズの列に並んでいるのだから、きっと、ベリアのファンだろう。
「なんか意外だな」
そう思いながらグッズの陳列を続ける。そろそろ開店時間だ。
「どう? 開店時間までに終わりそう?」
店長の林崎さんが声をかけてくる。
「はい。間に合いそうです!」
つい、大きな声が出たが、店長は笑いながら去っていった。
開店時間になり、ベリアファンが店内に入ってくる。私はレジを打ちに行く。ベリアコーナーには人だかりができている。そして、幸せそうにグッズを抱えている、ベリアファンの方々のグッズをレジでスキャンし、お会計をする。
レジに伊東さんが並んでいる。
「順番的に私かな……。気まずいな」
バイト中の姿を見られるが恥ずかしい。何より、伊東さんが私と同じ、ベリアファンということ知ったことも、気まずかった。
伊東さんが私のレジに向かって歩いてくる。
「これ、お願いします」
きっと店員が私だと気づいていないのだろう。私は声をかけたい気持ちを抱えながら、商品をスキャンする。会計処理を終え、特典の確認をする。
「五千円以上購入したお客様にお渡ししている、缶バッチなのですが、メンバーはどうされますか?」
私がきくと、伊東さんが私の顔を見た。
「あれ? 手田さん?」
――ついに気が付かれてしまった。
「あぁ……その、えっと、缶バッチ、レイ君で」
私がポカーンとしていると、伊東さんにそう言われる。フリーズした頭がまた動き出す。
「少々お待ちください」
そう言って私は缶バッチを取り出し、伊東さんに手渡す。
「またのお越しをお待ちしております」
伊東さんが会釈をして店を出る。
今日のバイトが終わり、店のバックヤードで」ひとり頭を抱える。
「うわー。気まずくて、やばい……」
とりあえず、今日は退勤して、明日の学校に備えたい。伊東さんに、何を言われるか分からないから。