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残念ですが、生贄になりたくないので逃げますね?  作者: gacchi(がっち)


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7.アリーの味方

私に遠慮しなくてよくなったからか、ラディは速度を上げ、

竜王国にはその日の夜に着くことができた。


竜王国の王都はレンデラ国とはまったく違った。

どこまでも家から漏れる灯りが続いている。

平民が暮らす街がこんなにも明るいだなんて。


王都の中心に丘のような高台があり、

そこに王宮が作られていた。

上から見た感じでは王宮はいくつかにわかれているようだ。


ラディはその中でも竜王様が住む本宮に部屋が与えられているという。

さすがに許可なくそこに私を連れていくことはできないそうで、

外宮にある客室で待つようにと言われる。


用意された客室はレンデラ国の王妃の部屋よりも豪華だった。

他国の王族などが泊まる部屋だと聞いて、それも納得する。

こんな豪華な部屋に入るのは初めてで、なんだか落ち着かない。


「ここで待っていて。竜王様に説明してくるから。

 竜王様が許可を出してくれたら、リディの部屋を用意できる。

 それまでこの部屋で悪いけど、好きにくつろいでいてよ」


「ええ、わかったわ。

 竜王様の許可がなければ働けないだろうし、気にしないで」


「今は侍女をつけるのも難しいけど、大丈夫か?」


「今までも最低限の世話しかされていないの。

 旅の間も一人で平気だったでしょう?」


「あーそれもそうか」


一緒に五日も旅してきたのだからわかっているはず。

たいていのことは一人でできる。

さすがに料理はできないけど、王宮なら食事は出てくるだろう。


「じゃあ、行ってくる。戻るまでに数時間はかかるかもしれない。

 それまで眠いだろうから休んでてもいいぞ」


「わかったわ。行ってらっしゃい」


ラディが部屋から出ていくと、あたりは静まり返る。

この部屋の周辺には人の気配がしない

他国の王族が泊まるような客室だというのなら、

簡単に人が出入りできるような場所ではないのかもしれない。


これなら呼び出しても大丈夫かな。

胸元からネックレスを取り出して名前を呼ぶ。


「クレア、出てきていいわよ」


ネックレスの赤い楕円形の宝石から光があふれる。

そこから小さな銀髪の女の子が浮かびあがった。


「もう、何があったのか心配していたのよ!?

 こんなに長い間呼ばないなんて!」


「ごめんなさい。ずっとラディと一緒だったから呼べなかったの」


「ラディって誰?それにここはどこ?

 王宮じゃなさそうだけど。あいつらの気配がないわ」


ここがあの王宮じゃないことに気がついたのか、

クレアは不思議そうに周りを見ている。


「ふふ。あの王宮から抜け出せたのよ!

 ここは竜王国なの!」


「え?本当!?」


クレアの目が大きく開かれる。

小さいけれど、クレアはとても美しい。

黙っていれば人形のようにも見えるクレアが、

喜びで頬が染まるほど興奮している。


「やったわ!逃げられたのね!」


「クレアのおかげよ。クレアがいなかったら、

 私も歴代のアリーと同じように生贄にされていたわ」


「それは私としてもアリーのおかげだとしか言えないわ。

 アリーが私を見つけてくれなかったら、

 あのまま王宮のすみで眠ったままだったもの」


それはそうかも。

二人だったから、逃げることができた。

それはとてもうれしいけれど、胸が痛い。


「クレア、ごめん。……仕返し、してこなかったの」


「ううん、それはいい。

 もう、どうにもならないことだもの」


「本当は追わせないためにも、

 少しは攻撃してから逃げるつもりだったのだけど」


「いいのよ。アリーが無事ならそれでいいから。

 あの王宮を逃げ出してからが大変だと思っていたけど、

 ここが竜王国なら追手も来ないわよね!

 あぁ……本当によかった」


一番最初の生贄アリーはクレアの妹だった。

だからクレアは私のことを知って、

助けようといろんなことを教えてくれた。


クレアがいなかったら何も知らないままだった。

育ててくれた国のため王太子妃になろうとし、

誓約で奴隷になっていたに違いない。


竜王国に来ることになったきっかけとリディのことを説明すると、

クレアは本当に安心したように笑う。

まるでクレアから光がこぼれ落ちるようでまぶしい。


「じゅあ、アリーじゃなくてリディなのね。いい名前だわ」


「ふふ。ありがとう。ねぇ、ここはクレアのお父様の国なのよね?」


「ええ。私も聞いたことしかないけれど。

 竜人はとても寿命が長いから、

 この国のどこかにお父様の家族がいるはずだわ」


「会えるかな」


「……どうかな。会ってお父様の最期を伝えたら、

 竜人をやめたからだって、お母様のせいだと責められそうで」


「そっか。……そうだね」


クレアの父は竜人だった。

だけど、番として見つけたのは人間の貴族令嬢だった。

国を離れたくないという番の願いをかなえ、

番を竜族にするのではなく自分が人間になる道を選んだ。


竜人の身体の中にある竜石を自分で取り出し、人間となった。

その竜石がこのネックレスの宝石だ。


クレアの父が婿となったことで、王族は竜王国に興味を持った。

そして一方的に戦いを挑もうとして、竜人の騎士一人にあっさりと負けた。

その責任は竜人を引き入れたクレアの祖父に押しつけられ、

クレアの祖父母だけでなく、父と母そしてクレアは処刑された。


まだ七歳だったクレアの妹アリーだけは処刑されずに生贄となった。


処刑されたはずのクレアは、

なぜか保管されていた父親の竜石の中に入ってしまい、

私が見つけるまで眠った状態だったそうだ。


クレアが竜石から出られるようになった時には、

もう百年が過ぎて、妹アリーは生贄となって亡くなった後だった。



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