54.同盟国のその後
あと二か月で後宮の解体となり、妃候補の二人も国に帰ることになる。
ほとんどの同盟国は今までの契約を切り、同盟を結び直した。
それは属国の支配権を捨てるものだったため、
いくつかの同盟国は同盟を破棄し、
属国をこれからも支配すると宣言した。
その中にはこちらから同盟を切ったオリアン国や、
デリア様のベントソン国もあった。
今まで属国から得ていた利益をなくしたくない気持ちはわかる。
だが、属国からしてみれば、竜王国の後ろ盾のない国に従う気はない。
そして、竜王様は属国の支配を続けることを認めなかった。
竜王様はまず、オリアン国に制裁を加えることにした。
オリアン国はルークを執拗に手に入れようとしていたアヒレス家と手を組んでいた。
その件でも竜王様はオリアン国を気に入らなかったらしい。
「オリアン国を直接つぶすことはしないが、属国の方に手を貸すことにした」
「属国に反乱を起こさせようとするのですか?」
「そうだ。ルークの件もあるし、お前を襲おうとしたのも許せん。
そのうえ、国外追放したあの女を夜会に連れてくるとは。
これだけ竜王国をなめてくれたのだ。
その分、痛い目にあってもらおうじゃないか」
竜王様は普段はとても穏やかな性格なのに、家族が関わると攻撃的になる。
アーロンを探すために戦争を始めた先代竜王の血を引いていると思えば、
それもおかしなことではないのかもしれないけれど。
「俺の件だけだったら止めますけど、
リディを傷つけようとしたことは許せません。
オリアン国はつぶしていいと思います」
「ルークまで……」
いつもならルークが止めてくれるところなのに、
ルークまでやる気になっている。
「リディ、こういう時は止めても無駄だ。
クライブ様もルークも本気で怒ってしまった。
それに、あの国が属国を直接支配すると、
今まで以上に属国は虐げられることになる。
属国のためにもオリアン国はつぶしたほうがいい」
「そうよ、リディ。属国からの報告書を読めばわかるわ。
直接支配することになったら、レンデラ国のようなことが起きるわよ」
止めようとしていたのは私だけだったらしい。
ラディとクレアにまで言われ、考えを改める。
レンデラ国のような国が増えるくらいなら、オリアン国はなくなったほうがいい。
「それほどまでにオリアン国がひどいのであれば。
わかりました。竜王様を止めません」
「ああ。属国の方に竜人の騎士を数名ずつ派遣する。
ひと月もせずに結果は出るだろう。
あくまでも、オリアン国が属国に手を出したら反撃しろと言ってある。
オリアン国がつぶれるとしたら、それは自業自得だ。
それで納得してくれるか?リディ」
「はい。それなら問題ありません」
先に手を出したのがオリアン国であれば、何も言うことはない。
私を襲おうとしたのは公爵令嬢であるコリンヌ様だったから、
王族は関係ないと思っていたけれど。
属国を攻めたのであれば、それは王族の責任だ。
オリアン国がなくなったとしても仕方ないと思う。
結果が知らされたのは二週間後だった。
ひと月もかからずに終わったことに驚いたが、
ラディに言わせれば竜人が一人いれば国を落とせるらしい。
それが十数人もいれば、あっという間に終わっただろうと。
「二時間だ。属国の一つにオリアン国の兵が攻め入ってから、
竜人がオリアン国の王城を落としたまでの時間」
「……二時間ですか」
「竜化して王城まで飛んで行って、王族に迫った。
ここで殺されたくなければ国を渡せと。
オリアン国王と王太子はその場で退位を決めたそうだ。
もともと国王と王太子は属国支配する気はなかったらしい。
公爵家に主導権を握られていたようだ。
最後まで抵抗した公爵家だけ処刑して、オリアン国はなくなった」
「公爵家って、コリンヌ様の家ですね。
オリアン国はどうなるんでしょうか?」
「領地をいくつかに分けて、属国に吸収される」
「完全に国が消えるんですね」
国として存在しなくなったレンダラ国とは違い、
オリアン国は周辺の国と一体化して消える。
平民にとってはそのほうがいい。
王族や貴族はともかく、平民に影響が少なそうでほっとした。
「オリアン国の一件は他の国にも伝わるだろう。
属国支配を考えていた国がこれからどうするか……」
それから属国支配を続けようとしていた国のいくつかからは、
やはり同盟を結びたいと連絡があった。
属国支配を続けようとすれば竜王国につぶされるとわかれば、
普通は考え直すはずだ。
デリア様のベントソン国だけはまだ返事がなかった。
デリア様を迎えに来た時にでも話し合うつもりなのかもしれない。
後宮の解体まで残りわずかとなって、
クリスタ様は国に戻る日を今か今かと待ちわびている。
デリア様はいつも通り静かな暮らしをしている。
その目はあきらめというよりも、覚悟を決めたように見える。
朝早く部屋を訪ねてきたクレアが身体がおかしいという。
「なんだか身体が熱っぽい感じがする」
「大丈夫?また竜熱?エリナに聞いてみようか」
クレアの額に手を当てると確かに熱がある。
高熱というほどではないけれど、
エリナが出勤してくるのを待って部屋に来てもらった。
「クレアが熱があるっていうの」




