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残念ですが、生贄になりたくないので逃げますね?  作者: gacchi(がっち)


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52/61

52.選んだのは

さっきまでひれ伏していた当主たちが、のそのそと集まって話し始める。

自分たちが奴隷となって妻子は逃がすのか。

それとも、一族で責任を果たすのか。


竜王様が席を外した後も、当主たちの話し合いは続く。

自分たちを犠牲にしてでも子どもを逃がそうという当主と、

この責任は全員で負うべきだとする当主で言い合いになる。

つかみ合いになり、周りが二人を引き離そうとする。


その時、老人の一人が逃げ出すのが見えた。

当主たちがもめて騒いでいるのをいいことに、

そろそろと広間のドアを開けて外に出ていく。


「クレア、当主が一人逃げたわ」


「なんですって!?行くわよ、リディ!」


「あ、ちょっと!」


衝立の裏に隠れていたのに、クレアは出ていってしまう。

その後を追うが、幸い当主たちはまだ争っていて気がつかない。


廊下を出て、外宮の出口へと向かう。

そこには馬車に乗り込もうとしている老人がいた。


「見つけた!あの白髪の男よ!」


「リディ!上に投げちゃって!」


「上に!?」


上に放り投げろってことかなと思い、風魔術で老人を空に投げ飛ばす。

軽い老人の身体がひゅうっと宙に舞う。

老人は急に身体が浮いたからか、ひぃああと悲鳴をあげる。


「え?どうするの、あれ!」


言われるままに上に投げたのはいいけど、どうするの?

振り返ったら、クレアは空に向かって叫んだ。


「ラディ!!」


「任せろ!」


老人が落ちてくると思ったら、竜化したラディが老人の服を咥えた。

そのまま、空をぐるぐると二周ほどまわって降りてくる。

老人はそれに耐えられなかったようで、気を失っていた。


「どこから来たの?ラディ」


「俺とルークは広間の窓の外からのぞいていたんだ。

 何かあればすぐに突入するために。

 クレアたちが出て行ったから追いかけてきた。

 ルークはクライブ様に知らせに行っている。

 クレアは俺がいるのわかっていたんだろう?」


「ええ、もちろん。

 だから、私たちが取り押さえるよりも、

 ラディに捕まえてもらうほうが早いと思って、

 リディに上に投げるように言ったのよ」


「そういうこと。急に上に投げろって言われて驚いたわ」


「だって、あのまま馬車に乗りこまれてたら、

 止めるの大変じゃない。御者は関係ないし」


「それもそうね」


とりあえずこの老人をどうしようかと話していたら、

ルークが竜王様を連れてきた。


「ルークから話は聞いた。広間から逃げ出しただと?」


「そうです。当主たちが話しあってる隙に、

 一人だけ馬車に乗って出ていこうとしていました」


「ふむ。見せしめにいいか」


「見せしめ?」


「あやつらに、犯罪奴隷がどういうものか見せてやろう」


竜王様はにやっと笑うと、老人の首の後ろをつかんで連れて行く。

全員で広間に入ると、当主たちが驚いたように振り返った。


「話し合いはまだ終わっていないようだが、

 責任から逃げようとしたものがいた」


老人を前に出すと、一人の当主が「父上!?」と慌てている。

いなくなったことに気がついていなかったようで、動揺しているのがわかる。


「お前がこいつの息子か。

 話し合いの最中に逃げるような者は、罰を与えねばならない。

 当主なら、理解できるな?」


「……はい」


「では、お前たちに犯罪奴隷がどのようなものか見せてやろう」


竜王様が取り出したのは、レンダラ国から持ち帰った誓約魔術の本だった。

ラディが気を失っていた老人の頬を叩いて、ルークが水をかける。

さすがに目を覚ました老人はあたりを見渡して、状況を把握したようだ。


「ひぃぃ。も、も、もうしわけっ」


「今すぐ処刑されるか、奴隷となるか選べ」


「え、えら」


「選ばなかったら処刑だ」


「っ!!奴隷になります!」


「よし」


竜王様が使うのかと思いきや、ラディが魔術書を開いた。

老人に向かい、奴隷となることを誓約させる。

光の輪が身体を通り抜け、誓約が完了した。


これで自害ができないどころか、指一本勝手に動かせない。

うつろな目をしたまま動かなくなった老人を、

息子が心配そうに見ている。


「これが犯罪奴隷だ。自分の意思では指一本動かせない。

 命じなければ食事も睡眠もとれない。

 たが、意識はある。痛みも苦しみも」


犯罪奴隷のひどさが理解できたのか、全員が青ざめていく。

老人は処刑されるよりはましだと思ったのだろうけど、

きっと一思いに死ぬ方が楽だと思う。


「借金奴隷の場合は、身体は縛らない。

 竜王の指示に逆らわないことを誓約させるが、

 しばらくの間は王都にある建物を壊すのが仕事だ。

 お前たちが勝手に建物をたてるから、竜人が下りてくる場所がない。

 ほとんどの建物を壊すことになるから、それだけで何年もかかるだろうな」


これも竜族の自業自得ではある。

建ててはいけない場所に勝手に建てたのだから。


なるほど。処刑せずに奴隷にするのはこれが理由か。

竜族を追い出すのはいいけれど、このままでは竜人は住みにくい。

必要のない建物を壊して、広い場所を確保しなくてはいけない。

それを竜人にさせるのではなく、この人たちにさせようとしている。


一族で奴隷にというのも、ある程度の人手が欲しいからに違いない。

王都の街は広いから。壊すだけでもかなりの時間がかかりそう。


竜王様が説明している間も、奴隷になった老人は少しも動かない。

表情もなく、どこを見ているのかもわからない。

そんな犯罪奴隷を目の前にして、当主たちの考えはまとまったらしい。


「竜王様、私たちは借金奴隷を選びます」


「わかった。それぞれの家に使いのものをやろう。

 一族がここについたら、当主が責任をもって説明しろ。

 その後、順番に誓約していく。

 騒ぐような者、逃げる者は犯罪奴隷になることを忘れるな」


当主たちがしっかりうなずいたのを見て、竜王様が広間から出ていく。

代わりに入ってきたのは警備隊だった。

一族の者が到着するまで彼らが見張ってくれるらしい。


「俺たちは外に出よう」


ラディに言われ、私たちも外にでる。

覚悟は決めたとしても、落ち込んでいる当主たちに近づいていいことはない。

うなだれている当主たちを見ないようにして広間から出た。




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