42.夜会の開始
すべての準備を終え、会場に人が集まり始める。
侍女の手を借りて、私とクレアはドレスに着替える。
同じようなデザインだが、クレアは緑、私は青。
パートナーの目の色を選んだ。
二人とも贈られたドレスを着るのは初めてで、
ふふふと笑いあってしまう。
「とっても似合ってるわ」
「クレアも。すごくよく似合ってる」
クレアとこんな風に会話できるのがうれしくて、
何を話していても笑ってしまう。
二人で笑いあっていたら、ルークとラディが控室に入ってくる。
二人ともデザインは違うけれど、白の夜会服に銀色と紫を指し色にしてる。
私とクレアをパートナーにするために、髪と目の色に合わせたようだ。
「……リディ、綺麗だ」
「ありがとう。ルークも似合ってるわ」
「ありがとう」
ルークが用意してくれた青い宝石が散りばめられたイヤリングと、
ネックレスとつけて準備は完成する。
同じように装飾品をつけたクレアも用意ができたようだ。
「よし、行こうか」
「ええ」
夜会の会場にはもうほとんどの人が入っている。
竜王国の貴族、同盟国の使者。そして一部の竜人。
王都にいる竜人が少ないのは知っていた。
先代の竜王に仕えていた者たちはほとんどが隠れ里にいっているらしい。
招待状は送ったものの、隠れ里は高齢の竜人ばかりで、
竜王国の王都にまで飛んでくるのは難しい。
今この会場にいるのは、王都に住む竜人だけらしい。
会場の案内役に名を呼ばれ、私とルークが入場する。
その後ろから、ラディとクレアが入場した。
私とクレアの顔がわからないからか、じろじろと見られる。
あれは誰だなんて問う声も聞こえた。
ざわめきはおさまらず、私たちもどうすることもできない。
そして、最後の入場者。竜王様が入場する。
もうすでに二百歳をこえている竜王様は、
竜王をおりたら番を探しに行くと宣言している。
竜族を相手にできる百歳を大きくこえている。
それでも初めて会場に来た竜族にしてみれば、
もしかしたら、自分が番かもしれないと思うらしい。
即位式以来、十年も夜会を開いていなかったせいか、
初めて竜王様に会う令嬢が多いようで、
会場のあちこちから歓声が聞こえる。
竜王様は壇上にあがると、開催の挨拶をした後、
私とクレアの方に視線を寄せる。
呼ばれたと思った私たちは、
壇上の近くへと移動した。
その途中でアヒレス家のローズ嬢と
オリアン国のコリンヌ様がいるのが見えた。
どちらも私をにらんでいる。
二人ともルークを狙っているはずなのに、
仲良く並んでいるのがおかしく見える。
私とクレアが壇上の下についた時、
竜王様に名を呼ばれる。
「クレア、リディ、こちらにおいで」
「「はい」」
私とクレアが壇上にあがるのに付き添うように、
ルークとラディもあがる。
けれど、竜王様の隣に並ぶのは私たちだけ。
ルークとラディは後ろに控えた。
「皆に報告がある。先代竜王が他国に戦争を仕掛けていたのは、
弟アーロンの居場所を探すためだった。
人間の国に番を探しに行ったまま行方不明になっていた弟を、
保護するために属国を増やしていた」
突然の報告に、知らなかった者たちがざわめき始める。
一部の竜人以外は知らなかったらしく、その声は大きい。
「そして、最近ようやくアーロンがいた国を探し出すことができた。
竜王国からかなり離れている人間の国だった。
アーロンは竜王国を狙うその国の王族に殺されていた」
なんだと、そんな、などの悲痛な声が聞こえる。
それは竜人たちの声だった。
竜族の貴族や同盟国の使者はアーロンを知らない。
ぽかんとして聞いているだけ。
「その国はもう存在しない。王族と高位貴族は奴隷に落とした」
その言葉に同盟国の使者が動揺している。
今まで、竜王様は戦争をすることがなかった。
先代竜王に比べて、温厚な竜王だと思われていた。
それが国を一つ落とし、奴隷とした。
それを聞いて恐れない国があるだろうか。
「そして、アーロンの娘を保護した。
つらいことにアーロンの妻と二女アリーも殺されていた」
竜王様がこちらを向いて、私とクレアは前に出る。
一斉に視線を感じるが、動じないように足を踏ん張る。
「アーロンの長女クレアと三女のリディだ」
これは竜王様とハンスとの話し合いによって決められた。
生贄のアリーを知られるのは死者を辱めることになる。
そして、アリーをなかったことにはしたくない。
その二つの意見によって、私もアーロンの娘となり、
アリーも二女として公表することになった。
前に出た私たちに竜族の貴族は面白くなさそうな目をする。
同盟国の使者は、どちらに求婚するか狙いを定めようとしている目だ。
私たちはまだ竜人ではないけれど、
言わなければわからないと言われた。
あと数年で竜人になる状態だと、よほど強い竜人でなければ見抜けない。
夜会に出席している者たちは、竜人だと疑わないだろうと。
「二人は私の養女として引き取る。
そして、二人の番が見つかったことも報告しよう」
低い悲鳴のようなため息が重なる。
同盟国に嫁いでほしいと願っていた者たちが、
番がいると聞いて悲痛な声を漏らす。
「クレアの番はラディ、リディの番はルークだ」
二人がそれぞれ私たちの横に立つ。
竜王様が報告すれば、誰も文句は言えない。
そう思っていた。




