40.直訴
求婚を受け、次の日、私とルークは竜王様に結婚の許可を得に行った。
執務室で話をすると、竜王様はうなり始めた。
「リディ、お前はまだ十九歳にもなっていない、
竜人としては赤ん坊のようなものなんだぞ?」
「竜人としてはそうかもしれません。
ですが、私は人間として育ってきました。
もうすでに成人していて、結婚するのに何の問題もありません」
「だが、番かもわからないのに」
「だから、今結婚するんです」
そう言い切って私に、竜王様は怪訝な顔をする。
「だから、どうして番だとわかる前なんだ?」
「私は番だという理由で結婚したくありません。
ルークが好きで、これからの人生一緒にいたいと思うから、
結婚しようと思ったのです。
だから、番がわかる前に結婚したいのです」
「あと数年なんだ。竜化すれば、番かどうかわかる。
その時に違ったとわかっても、取り返しがつかないんだぞ?」
「その考えこそ、理解できないのです。
番じゃなくても愛する人と結婚したいと思った、
今の気持ちは嘘じゃありません。
なのに、どうしてなかったことにしたいと思うのですか」
取り返しがつかないだなんて、まるで間違った結婚のように。
竜人としてはそれが普通の考えなのかもしれないけれど、
人間として育った私には理解できない。
今、ルークが好きで、そばにいたくて、
結婚したいと思う気持ちが、
竜人となったら変わってしまうのなら……
私はこのまま寿命が短くても人間のままでいたい。
「……ルークはいいのか?
リディが竜化したら、番が他にいるとわかったら、
お前は捨てられてしまうのだぞ?」
「俺は……それでもリディと結婚したいです。
捨てられてしまったとしても、
たった数年の間だとしても、リディを俺の妻にしたいと思います」
「お前まで……」
どうしても認めたくないのか、竜王様は眉間にしわを寄せた。
「……ルークとの結婚を認めないというのなら、
私は竜王様の養女になるのをやめます」
「な!?」
「今の私は誰の娘でもありません。
竜王国で働いている、ただのリディです。
認めないと言うのなら、竜王国から出ていきます」
「出ていくって、そんな」
竜王国を出ると言った私に、竜王様は目に見えて慌て始めた。
「ルーク、私と駆け落ちしてくれる?」
「……リディ、それはダメだ」
「え?」
「リディは、家族が欲しかったんだろう?
クライブ様とクレアを捨てたらダメだ。
俺は、認めてもらえるまであきらめない。
リディも認めてもらえるまで頑張って話し合おうよ。
俺とこの国で幸せになろう?」
「ルーク……」
本気で竜王国を出ていく気はなかった。
そのくらい本気だと、竜王様を脅すつもりだった。
竜王国を、家族を捨てたらダメだというルークに、
やっぱりこの人が好きだと再認識する。
「クライブ様、認めたらいいではないですか?」
「ハンス、お前までそんなことを」
「リディ様はアーロン様の子孫ですよ。
反発されて、竜王国を出ていかれたらどうするのですか。
また後悔したいのですか?」
「……それは嫌だ」
アーロンのように国を出ていくことを想像したのか、
竜王様はしょぼんと肩を落とした。
「番が違ったとしても、それはその時に、
リディ様が判断されることでしょう。
ルーク、お前はその時に捨てられてもいいという覚悟なのだろう?」
「はい。俺はそれでもかまいません。
数年でもいい。リディのそばにいたい」
「そうか。クライブ様、認めてあげたらどうですか?
リディ様も本気のようですし」
「はぁぁぁ」
長くため息をついた竜王様に、
認めてくれるのと期待をこめて見つめる。
「わかった。認めよう。
ただし、すぐに結婚していいわけじゃない。
夜会を開いて、そこで結婚すると公表してからな。
どっちにしてもラディとクレアのことで、
夜会を開くつもりでいた。
お前たちもそこでお披露目して、結婚はそれからだ」
「あ、ありがとうございます!」
「よかった……認めてくれた。竜王様、ハンス、ありがとう!」
説得するまでもっと時間がかかるかと思ったけれど、
意外とすんなり認めてくれた。
「お披露目が終わるまでは手を出すなよ?
というか、竜化するまで子は作るな。それも条件だ」
「はい。子を作るつもりはありませんでした。
リディの番がわかった時、子が愛されないとわかっていて、
子を作るつもりにはなれませんから」
「わかっているならいい。
夜会の準備はお前たちも手伝え。
同盟国もすべて呼べ」
「同盟国をすべてですか?」
「ああ。他にも理由がある。
竜王国の貴族と同盟国の使者を集めて宣言したいことがある。
準備はラディたちと協力して行うように」
「わかりました」
竜王国での夜会って、どんな感じなんだろう。
レンデラ国では夜会に出たことがない私にとって、
これが初めての夜会になる。
初めて出席する夜会が婚約のお披露目になるとは思わなかった。




