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残念ですが、生贄になりたくないので逃げますね?  作者: gacchi(がっち)


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39/61

39.番じゃなくても

ルークに連れられてテラスに出る。

竜化したルークの背に乗ると、ルークはどこかに向かって飛ぶ。



どこに行くのかと思ったが、案外早く目的地に着いたようだ。

そこは竜王国の王都を見下ろす山の中腹だった。

くり抜かれたように木々がなく、小屋のようなものが建てられている。


だが、道がない。

ぽっかりとここだけ芝生になっているのが不思議に思った。


「ここはなに?」


「ここは竜人だけが来れるとこ」


「竜人だけ?」


「山の中にあるんだが、ここに来る道がない。

 竜族では来られない場所というか、知られてもない」


「竜族が知らない場所?」


今の竜王国は竜人と竜族の国だと思っていたのに、

竜族が知らない場所があるとは思わなかった。


「そう。もともとは竜王国は竜人だけの国だった。

 だけど、竜人がどんどん少なくなって、

 竜族に竜人の世話をさせるようになって、

 そのうち竜族のほうが多くなっていった」


「それは……」


もともとの種族よりも後からきた種族の方が多くなってしまう。

それは乗っ取りにも思えるような状況。

だけど、竜族がいなければ国として維持できない。


「そのこと自体はどうとも思ってない。

 ただ、俺に関わってこようとする竜族が多くて、

 それは煩わしいと思ってしまう」


「それは仕方ないと思うわ。

 だって、結婚するように強要されそうなんでしょう?」


「ああ。あの令嬢もそう言われて育ってしまった。

 本気でそう思っているんだろうけど、

 俺にはかなえられない。申し訳ないとは思う」


そうか。アヒレス家のローズ嬢を強く拒否できなかった理由は、

あの令嬢に同情していたからなんだ。


たしかに貴族令嬢なら、親が決めた相手と結婚すると思ってる。

それが竜人で、ルークだとわかって。

好きにならずにいられるだろうか。

祖父の借金のためだと理由を知っても、拒めるだろうか。

納得できなくても、好きな人を手に入れられる可能性を。


「それでも……私はルークには好きな人と結婚してほしいと思うわ」


「それは、俺の気持ちを知って言っているのか?」


「え?」


今まで見たことのない顔だった。

少し優柔不断で、慕ってくる令嬢に冷たくしきれなくて、

私を婚約者だと盾にして逃げている、そんなルークではなかった。


「俺はリディがいい」


「……それは、番だから?」


番かもしれないと言っていた。

そのことを思い出して、冷や水をかけられた気持ちになる。


「そうじゃない。逆なんだ」


「逆ってなに?」


「……俺はまだ番を感じ取れない。

 だけど、初めて会った時、リディはラディの番かもしれないと思って、

 それは嫌だと思った」


「初めてって、あのテラスで会った時?」


空き部屋だと思ってテラスに降りたルーク。

初めて会った時は黒い竜だった。

その次は疲れ切った青い目の青年。


「そうだ。最初は可愛らしい姿に魅かれただけなのかもしれない。

 だけど、少しずつ強気な性格や、無鉄砲なところ、

 なのに急に弱気になって甘えたり、本当に振り回されて」


「それはあまり褒めてるように聞こえないわよ」


「褒めてるんじゃないからな。事実だ。

 むしろ、好きになってはいけないと思っていた。

 護衛するために婚約したのは理解していたから。

 ……俺が、今、リディを好きでいるのは、

 番だからじゃない。

 好きだから、番であってほしいと思うんだ」


「え?」


「リディは竜王の血族だから、俺では結婚を望める相手じゃない。

 番じゃなかったら、結婚できないんだ。

 だから、番であってほしいと思ったんだ。

 好きだ……俺を選んでほしい。たとえ、番じゃなくても」


「……番じゃなくても?」


竜人は番が一番なんだと思っていた。

なのに、番じゃなくてもいいと言うの?

信じられなくて、ルークの目を見つめる。


「番じゃなくても。

 リディが番と会うまででもいい。

 俺と結婚してほしい」


「嘘…だって、竜人にとって、番は命よりも大事なのでしょう?」


「そうらしいな」


「そしたら、ルークも私も、番に会ったら変わってしまうかもしれないのに」


「それでもいい。番に会うまでの時間、俺にくれないか?」


冗談じゃなく、本気で言ってるのはわかる。

ルークはふざけてそんなこと言う人じゃない。


「怖い……ルークは私を番だと思っているから、

 そう言うんでしょう?」


「それは……番だったらいいとは思う」


「私は怖い……さっきも言ったでしょう?」


たとえ、今ルークに心惹かれていたとしても、

番だったらいいって、私も思っていたとしても。


番だとわかった時、自分が変わってしまうのが怖い。


「……番だとわかっても、心が変わらないくらい、

 俺のことを好きになればいい」


「……どういうこと?」


「俺は、リディが好きだ。

 これから、もっともっと好きになる。

 番だとわかっても、これ以上ないくらい好きだったら、

 俺は何も変わらないと思う。

 だから、俺はリディを好きにさせる。

 これ以上ないくらい、好きにさせたら。

 ……リディは何も変わらないと思うから」


これ以上ないくらい好きになれば、

番だとわかっても、変わらずにいられる?

そんなこと、あるの?


「俺を好きになって。

 俺がいなきゃ嫌だって、わがまま言うくらい。

 俺も同じくらい好きになるから」


「本当に、同じくらい好きになってくれるの?」


「好きになる未来しか見えない。

 番じゃなかったとしても、好きだという気持ちを信じたい。

 俺は、番じゃなくても、リディが好きだよ」


「……私も。

 私も、番じゃなくてもルークが好き。

 ずっと、ルークといたい。変わりたくない」


うれしそうに笑ったルークにぎゅうっと抱きしめられる。

お互いに抱きしめあううちに、ふいに鼻がぶつかって、

くすぐったくて笑ったら、くちびるが重なる。


何度も何度も。

くちびるの温度が同じになるくらい何度も。


番じゃなくても、ルークがいい。

このままくっついて離れなければいいのに。



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