表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残念ですが、生贄になりたくないので逃げますね?  作者: gacchi(がっち)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/61

28.アーロンの話

首をかしげて悩んでいたら、竜王様に声をかけられた。

何かを決意したような、低い声だった。


「リディ、少しいいか?」


「どうしました?」


「ずっと覚悟を決めようと思っていたが、なかなか決まらなかった。

 だから、ラディが帰って来た時に聞こうと決めていた。

 ……アーロンについて、聞いてもいいか」


「わかりました」


最初からアーロンのことを聞こうと思っていたからなのか、

竜王様の執務室には竜王様とラディ、そしてハンス。

エリナは同席していなかった。

竜王様が暴走した時に危険だから遠ざけたのだと思う。


何もなくても、危険な目に合わせたとなれば、

エリナの番である警備隊長が暴れるだろうし。


「ラディとルークも聞いてほしい」


「俺もですか。わかりました」


「リディに関わることですよね。もちろん、聞きます」


竜王様が三人掛けのソファに一人で座る。

その向かい側に私とルークとラディ。

ハンスは何かあればすぐに動けるようにか、竜王様の後ろに控えるように立つ。


「それで、アーロンに何が起きたのか、聞かせてくれるか」


「まずは……アーロンが番を探してレンデラ国に来た時から説明します。

 レンデラ国は王族と高位貴族の権力が強い国です。

 貴族は王族に従っていて、勝手に貴族の籍を抜けることは許されません。

 そんなことをすれば、一族で処罰を受けることになります」


それは竜王様もわかっているのか、軽くうなずいた。


「アーロンの番はレンデラ国の侯爵令嬢でした。

 出会った時、まだ婚約もしていない十歳だったのは幸いなことでした。

 いくら番であっても、婚約していれば認められなかったでしょう」


「番なのにか?」


「竜王国のことを知らないほどの辺境でした。

 強国とはいえ、知らなければ脅威になりません。

 竜人のこともほとんど知られていなかったのです。

 他国の貴族が求婚した、そのくらいの認識だったと思います」


「そうか……」


普通の国であれば、竜人が番を見つけたといえば、

婚約していても解消するくらいのことなのだと思う。

だけど、レンデラ国はそうではなかった。


「番の父はアーロンに婿になるのであれば結婚を認めると言いました。

 そして、番は自分が竜人になるのは嫌だと、

 アーロンが人間として生きるのであれば受け入れると」


「………それが……アーロンが人間になった理由か」


「アーロン様が人間に?」


「まさか、そんなことが」


やはり、竜人が人になるのはよほどのことらしい。

話を初めて聞くルークとラディも動揺している。

ハンスは竜王様から説明を受けていたのか、反応はしなかったが顔色が悪い。


「番が成人、十八になった時に、二人は結婚しました。

 アーロンが人となり、婿入りする形で。

 レンデラ国の王族は、それで竜王国に興味を持ちました」


「それは興味を持って当然だろう。

 本当は、アーロンが竜王国を継ぐはずだったのだから」


「え?それは知らなかったです。

 ですが、そういうことがきっかけだったのかもしれません。

 レンデラ国は竜王国を手に入れようと戦争をしかけたんです」


「は?竜王国に戦争を仕掛けた?」


「竜王国のことを正確に知らなかったからでしょう。

 もしくは、アーロンがいれば正当な理由があると思ったのかもしれません。

 アーロンが結婚して十五年の時でした。

 二人の娘に恵まれ、幸せに暮らしていたそうですが、

 レンデラ国の王族が竜王国に戦争を仕掛けようとして殺されました」


「そんな報告は来ていないと思うが」


「竜王国の同盟国に話を持ち掛け、その場にいた竜人に殺されたようです。

 報告するまでもないと思われていたのかと」


「そうか……そうかもしれんな。

 次々に属国にするせいで、管理しきれていなかっただろうから」


その戦争がアーロンを探すためだったというのは聞いた。

そのせいで竜王国の名が知られるきっかけになったのかもしれない。

レンデラ国は同盟国と手を組んで竜王国を奪おうとしていたらしい。


「レンデラ国の王族が殺されたことを知った国王は、

 竜人を引き入れた侯爵のせいだと言い出し、

 侯爵家の一族を処刑するように命じました」


「そんな理由なのか!?」


「侯爵が何を言っても聞いてもらえず、

 幼いアーロンの二女を助けるのが精いっぱいだったと。

 侯爵、侯爵夫人、アーロン、アーロンの妻、そして長女が処刑されました。

 もう百年も前のことです」


「……っ!」


言葉を失った竜王様はぎりぎりと歯を食いしばり、

何かを耐えているようだった。

竜気は漏れ始めているが、逃げるほどではない。


最後までしっかり話を聞こうとしている。

そう思った私はアリーの話まですることに決めた。


「残された二女アリーは、王宮で育てられました。

 成人した時、奴隷にされ……貴族たちの慰み者として扱われ、

 娘を一人産んで亡くなりました」


「アリーって……リディ、それは」


気がついたのか、ラディが不安そうな顔で聞いてくる。


「アリーの子はアリーと名付けられ、同じように奴隷にされました。

 私は五人目のアリーでした。

 ラディに会った日、奴隷になる誓約をしていたら、

 同じように慰み者にされていたでしょう」


ダン!っと大きな音がしたと思ったら、竜王様が立ちあがっていた。

立ち上がった時に床を力強く踏んだせいで、足元が壊れている。


「…………ラディ、案内しろ」


「え?」


「そのレンデラ国に案内しろ。今すぐにだ!」


「わぁ、っはい!」


ぶわっと竜気が噴き出し、ルークに抱きかかえられる。

ハンスが竜王様を止めようとしたけれど、

その前に竜王様はラディを連れてテラスに出ていく。


気がついた時には、竜化した竜王様とラディが飛んで行った後だった。


「………え?」


「……レンデラ国に向かったのでしょう」


「向かったって」


「アーロン様を処刑した国を許すわけがありません」


「で、でも。もう百年も前のことなのに」


「ですが、ずっとアーロン様の子孫を虐げていたのでしょう。

 そして、五人目のアリーである、リディ様も」


「それは……そうだけど」


「では、許せるはずはありません」


きっぱりとハンスに言われ、それもそうかと思う。

大事に思っている弟の家族が、子孫がそんな目にあっていたと知って、

竜王様が怒らないわけがない。


私が襲われそうだっただけであんなに怒ったのだから。


もう少し言い方を考えればよかったかもと思ったけれど、

レンデラ国がした非道は変えようがない。


「ルーク、私と一緒にレンデラ国に行ってくれる?」


「今から追いかけても止められないと思うぞ」


「止めるんじゃないの。見届けたい。

 復讐を、報告したい人がいるから」


「……わかった。リディを連れて飛ぶなら無茶はできない。

 向こうに着くころにはもう終わってるかもしれない。

 それでもいいなら」


「うん、それでいい」


レンデラ国に着いたら、がれきの山になっているかもしれない。

王族なんて一人残らず消えているかもしれない。


それでも、あの国がどうなったのか、

最後を見届けてクレアに報告しなくちゃいけない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ