27.帰ってきたラディ
「だから……十八のリディはまだ子どもというか、
仕事なんてしなくてもいいと思ってたというのもある」
「それは七十歳のルークに比べたら赤ちゃんみたいなものかもしれないけど」
年齢のことを言われたら、何も言えなくなる。
見た目はそれほど変わらないのにと思うと悔しい。
「うん、それも俺が間違ってた。
竜族の娘は十五歳で嫁ぐことができる。
つまり、十五で成人なんだ。
リディは竜人になると思ってたけど、今は竜族。
成人している扱いでよかったんだ」
「私、もう成人しているんだけど……。
竜族じゃなくても、人族の国だったから十八で成人だったし」
「そうだよな。考えてみればわかるんだけど、
まだ竜化してない子どものように思ってて」
「それは……仕方ないかもしれないけど。
でも、本当に竜化するかどうかもわからないし」
竜王様には竜化すると言われているけれど、まだ竜化してない。
もともと竜人として産まれたのであれば三十年も先の話だけど、
数年後に竜化するってことは、やはり普通の竜人ではない。
「リディは竜化する。それは間違いないと思ってる。
だけど、竜人の子どもの扱いをするのはやめるよ」
「そうしてくれるとうれしい。
もう一人で生きていけると思ったから、国を出たんだし」
「そういえば、俺はリディがどこにいたのか知らないな。
辺境の国ってどんな感じだったんだ?」
「えっとね、レンデラ国という小さな国だったの。
王族と貴族と平民が暮らしているんだけど、産業も鉱山もない、
周辺国と比べて貧しい国だった。
なのに、王族と一部の高位貴族が贅沢して、
平民は搾取されることが当然だと思っていたわ」
「王族の力が強いのか。この辺ではあまりないな。
まぁ、この辺も竜王国が属国にしたから王族の力が弱まったんだろうけど」
世界の半分を属国にした竜王国。
同盟国と呼ばれる比較的大きな国に、周辺の属国の管理を任せている。
そのため、竜王国の属国になった国の王族は力を持たない。
同盟国の権力が肥大化してしまったのは問題ではあるが、
少なくともレンデラ国のような横暴な真似はどこの国もしていないはず。
「今後も同盟国から使者は来るだろう。
どうする?リディも会ってみるか?」
「いいの?」
「いいけど、必ず俺の婚約者だと説明して。
あと、俺から離れないように」
「うん!」
本当は使者に会わせたくないのかルークは複雑そうな顔をする。
それでも仕事をさせてもらえるのがうれしくて、
私も使者との話し合いに参加することにした。
その次の日、オリアン国の使者はコリンヌ様たちを連れて国に帰った。
私は立ち会わなかったけれど、ハンスからその時の様子を聞いた。
髪を肩のあたりで短く切られたコリンヌ様は、
帽子とベールで髪を見せないようにしていたが、
いらついて近くにいた侍女を蹴り飛ばしていたそうだ。
侍女たちは切られた髪を隠すことは許されず、
腫れた目を赤くして、顔を伏せるようにして馬車に乗った。
望んで仕えていたのかはわからないけれど、
主人に巻き込まれる形で罪人になってしまった。
侍女たちに同情しなくもないが、もう関わることもない。
手の指を全部折られた令息たちは泣きわめいてうるさいために、
薬で眠らされたまま運ばれたそうだ。
あとはオリアン国の王家がどう対応するかで、
竜王様は今後の同盟を考え直すと言っていた。
問題令嬢だったコリンヌ様がいなくなったことで、
後宮の解体に向けて一番の問題がなくなった。
まだ同盟国からの使者は来るけれど、それも少なくなっていく。
そろそろ落ち着いて生活もできると思い始めた頃、
ようやく魔術を使っていい許可が出た。
エリナには無理しないようにと言われたけれど、
これで自分の身を守れると思うとほっとする。
ルークの過保護もこれで少しは減るかもしれない。
竜王国に来て三か月。
めずらしく竜王様に呼ばれて執務室に向かうと、
そこには久しぶりに会う人がいた。
「ラディ!」
「おう、ただいま~」
久しぶりの笑顔に抱き着こうとしたら、後ろからルークに引っ張られる。
腰に手を回すように抱きかかえられたために、ラディのもとへ走っていけない。
「ちょっと、ルーク!何するの!?」
「ダメだ。ラディに抱き着こうとしただろう」
「ええ?ラディなのに?」
「ダメだ」
「わかったわよ。抱き着かない。それならいい?」
「ああ」
ようやく地面に降ろしてもらい、ラディに近づくと、
ラディはお腹を抱えて笑っている。
「くくくっ。いつの間にそんな感じになったんだよ。
ルーク、それは完全に番相手にする行動だぞ?」
「………番だと思ってるんだから仕方ないだろう」
「まじかよ!え?嘘だろう?」
ルークの返しに、ラディは大きく目を見開いた。
確認するようにラディが竜王様を見ると、竜王様も深くうなずいている。
「うわぁ……え?俺、すごくいいことしたんじゃない?
アーロン様の子孫でルークの番を連れて帰ってきたってことでしょ」
「ああ、お前は良い働きをした」
「おお。やった!クライブ様に褒められた。
ルーク、俺のこと義兄上と呼んでもいいんだぞ?」
うれしそうに笑うラディは、私の頭をぐちゃぐちゃなでながらルークに言う。
「呼ばない。というか、リディにさわんな」
「へいへい。まぁ、義兄でもさわるのはダメだよな。
いいよなぁ~俺も早く番を見つけたいよ」
「今回もダメだった?」
一人で戻ってきたってことは見つからなかったんだと思うけど。
「あーなんかさぁ、おかしいんだよな」
「おかしい?」
「前は竜王国の外にいると感じてたんだけど、
今回は竜王国の外に出たらわからなくなってしまった。
それでとりあえず一度戻ってきたんだ」
「ん?どういうこと?番が移動しているとか?」
「わからない。何度か移動してみれば確証がもてると思うんだが」
ラディの番はおそらく竜王国の外にいる。
だから属国の監視という仕事をして探しているはずだった。
なのに、居場所がわからなくなってしまったなんて。
首をかしげて悩んでいたら、竜王様に声をかけられた。
何かを決意したような、低い声だった。
「リディ、少しいいか?」
「どうしました?」




