26.竜王様の謁見
竜王様の謁見だと言われたからか、
オリアン国の使者たちは煌びやかな貴族服で部屋に入ってくる。
何がうれしいのか、にやにやと笑う真ん中の令息がコリンヌ様の兄らしい。
「来たか」
「お初にお目にかかります。オリアン国……」
「挨拶はいい」
「は?あ、そうですか」
挨拶を途中で止めたからか、にやにやとした笑いが止まり驚いたような顔になる。
だが、それも一瞬で、また締まりのない顔になる。
よほどいいことがあったのか、いいことで呼ばれたと思っているのか。
「どうして呼ばれたかわかるか?」
「コリンヌとルーク様の件でしょうか?
いえ、身内のひいき目もありますが、
コリンヌのあの美しさはオリアン国ではもったいないと思っていました。
竜人のルーク様にもらっていただけるならこれ以上の幸せはありません」
「何を勘違いしている?」
「え?……ルーク様に下賜されるという話では?」
「邪魔ものがいなくなったから、うまくいくとでも思ったのか?」
「どうしてそれを……いえ、何でもありません」
令息を三人も送り込んだから排除は成功したと思っているのか、
私という邪魔ものがいなくなれば、ルークはコリンヌ様を選ぶと思っていたらしい。
昨日の夜は大騒ぎで祝杯をあげていたと報告が来ている。
「この報告書を読め」
「報告書ですか?」
竜王様がばさりと報告書を投げるように渡す。
それを受け取ったコリンヌ様の兄はわなわなと震えだした。
「こ、これは何かの間違いで……」
「間違いなわけないだろう。その場にいた騎士からの報告だ。
俺の側近を汚そうとした罪と、後宮に不審者を招き入れた罪。
どちらも重い罪だ。未遂でなければ処刑していただろう」
「処刑!?」
「実際には未遂で、騎士たちが取り押さえたからいいものの。
決して見逃すことはできない。
妃候補だった令嬢と侍女、不審者の三人は貴族牢に入れてある。
全員、国外追放を命じる。直ちに連れて帰れ」
「貴族牢ですって!?コリンヌは無事なのですか!」
「妃候補と侍女は髪を切らせた。
不審者は手の指をすべて折ってある」
「髪を!なんてことを!?」
令息たちの指を折ったなんて知らなかった。
私の腕をつかんだことを竜王様は怒っていたけれど、
だから指を折ったんじゃないよね?
一緒に隠れて聞いてるルークを見たら、
ゆっくりと首を横に振られる。
どうやらルークも知らなかったらしい。
竜王様に報告した後、使者が到着するまでの間に指示したのだろう。
すべての手の指を折られたら、
剣を持てないどころか日常生活を送るのも難しいだろうに。
それでもコリンヌ様の兄は髪を切られたことを怒っていた。
たしかにあの艶やかな黒髪はもったいないけれど、
貴族牢に入れられたのなら軽い処罰だと思う。
「同盟国である我が国の、
それも公爵令嬢の髪を切るなんて何を考えて!」
「ただの罪人だ。貴族だろうと関係ない」
「我が国の王だって黙ってはいませんよ!抗議があるでしょう!」
「それがどうした」
「は?」
「同盟国だから、なんだと言うんだ。
竜王国で好き勝手していい権利なんて渡していないぞ」
「で、ですが!」
まだ納得できないのか、声を張り上げようとしたコリンヌ様の兄に、
竜王様はまったく相手にする気はないようだ。
「まだ軽い処罰だと思っていたんだがな。
気に入らないようなら、それでもいいぞ」
「え?では、ゆるし」
「お前たち使者が不審者の三人を後宮に忍び込ませたのはわかっている。
出ていく気がないというのなら、お前たちも貴族牢にいれよう。
オリアン国から謝罪があるまで牢からは出さない」
「そんなっ」
「では、妃候補の国外追放で文句はないな?」
「……わかりました」
一瞬うれしそうだったのは、許してもらえるとでも思ったんだろうか。
自分も捕まる対象だとわかり、青ざめた顔で返事をした。
「すぐさま出ていけ。これはオリアン国の国王への書状だ。
持っていけ」
「……………はい」
国王への書状だというのに、それも竜王様は投げて渡す。
コリンヌ様の兄は床に転がった書状を悔しそうに拾うと、
使者たちは部屋から出ていく。
ドアが閉まる瞬間、コリンヌ様の兄が竜王様をにらみつけたのが見えた。
納得はしていないけれど、自分たちが捕まるのは嫌だったようだ。
「素直に竜王国から出ていくのかな」
「騎士が国の境まで送るはずだ。
国外追放を命じられたからには、出ていくまで監視がつく。
もう何もできないよ」
「そっか」
「俺たちも執務室に戻ろう」
「うん」
執務室に戻ると、また後ろからルークに抱き着かれる。
よほど私が一人で無茶したのが気に入らないのか、
少しも離れてくれない。
「もうしないから」
「……いや、俺が悪かったと思ってる」
「え?」
「俺がリディを使者たちに会わせたくないからって、
仕事もさせずに一人にしたのが悪い。
役に立とうとしたって、そういうことだろう?」
「……それは、そう」
ルークが忙しそうだったから、私は何もしてなかったから、
だから私が一人で何とかしようとしていた。
「俺は王宮で働き始めたのは十年前。六十歳の時だ。
それまではクライブ様の屋敷にいたんだ」
「王宮で育ったわけじゃないんだ」
「違うよ。竜人は五十を過ぎるまで公の場にはあまりでない。
だいたいそのくらいで完全に竜化できるようになるから、
そこから戦えるように訓練をして外に出る」
「そうなんだ」
「だから……十八のリディはまだ子どもというか、
仕事なんてしなくてもいいと思ってたというのもある」
「それは七十歳のルークに比べたら赤ちゃんみたいなものかもしれないけど」
年齢のことを言われたら、何も言えなくなる。
見た目はそれほど変わらないのにと思うと悔しい。
「うん、それも俺が間違ってた。
竜族の娘は十五歳で嫁ぐことができる。
つまり、十五で成人なんだ。
リディは竜人になると思ってたけど、今は竜族。
成人している扱いでよかったんだ」




