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16.後宮とコリンヌ様

後宮は予想していない場所にあった。

通常、後宮というのは本宮よりも奥にあるか、

陛下の寝所に近い位置にあるものだ。


だが、竜王国の後宮は本宮から外宮を抜けた先にある。

王都側から王宮に入ってくると、まず外宮があり、左奥に本宮。

後宮は反対側の右奥に建てられていた。

つまり、本宮にある竜王様の寝所から一番遠い場所になる。


場所もそうだけど、後宮が大事にされていないというのが、

外壁の造りからもよくわかる。

脱走しようと思えば簡単にできそうだし、

そもそも警備もゆるいようだ。


外宮から後宮につながる通路にいた門番は一人だけだった。

高齢の竜族の男性はうたたねをしていて、

私たちが通り過ぎたあとで起きて驚いていた。


「ねぇ、こんな警備でいいの?」


「かまわない。

 もともと、人質として預けられているようなものだから、

 逃げ帰ってくれても問題ないんだよ。

 極まれに竜人の番だとわかって連れ出されることがあるが、

 ほとんどは二十歳になったら本国に戻っている。

 竜族の子を産んだとしても、子だけを置いて帰ることが多いな」


「そんなに待遇悪いのに、どうして後宮に入りたがるのかしら」


「一応は竜王様の妃候補に選ばれるわけだから、

 本国に戻った後は嫁ぎ先に困らないらしい」


「そういうものなのね」


本国に戻った後の待遇がいいのであれば、

後宮での待遇は改善しなくてもいいのかもしれない。

どうせ竜王様は顔合わせすらしないのだから。


後宮内に入ると、そこかしこから香水や化粧の匂いがする。

侍女たちは部屋のドアのかげからルークと私を見て、

こそこそと何かをささやきあっている。


あまり歓迎されている感じではないのは、

私がルークと一緒にいるからか。


「今、ここにいる妃候補は三人なのよね?」


「妃候補は三人だが、それぞれに大量の侍女を連れて来ている。

 こちらから用意するのは食事と、連絡係の者だけだ。

 あとは自分たちで何とかすることになっている」


「ふーん。費用は向こう持ちってこと。

 お金持ちの国じゃないと妃候補を出せないということね」


妃候補の維持費だけの問題ではない。

断り切れない同盟国以外は断っていると言っていた。

妃候補を出せる国、という名誉もあるのかもしれない。



後宮の廊下は回廊になっているらしいが、

それほど奥に行くことなく部屋に通される。

ここがコリンヌ様に与えられた部屋。


部屋自体は古いのだろうけど、真新しい豪華な家具が置かれ、

着飾った侍女たちが多いせいで華やかに見える。


その奥、鳥の羽でできた扇をゆるゆるとあおいでいる女性がいた。

豊かな黒髪を耳の上あたりでくるりと二つにまとめ、

襟足はそのまま胸の下あたりに流している。

薄茶色の目の縁に朱色の線が入った独特の化粧。

レンデラ国とは文化が違うのか、服装も変わっている。


「お待ちしていましたわ、ルーク様」


「そうか。今日は何の用で呼び出したんだ?」


「新しい後宮担当の者がいると聞いたので、

 見てみようと思っただけですわ」


私のことを見てみようと。

あきらかに格下の扱いに、どう対応しようかと悩む。

身分のことを出しても、こういう令嬢は聞かないかもしれない。


とりあえずルークに紹介されるまで待つかと思っていたら、

コリンヌ様が私を見て、くすりと笑う。


「女性、と聞いたのでルーク様に虫がつくのではと思ったのですが、

 その心配は無用だったようですわね。こんな幼子だったとは」


こんな幼子!?コリンヌ様とは同じ年なのに!

竜人に比べて小さいと言われるのは慣れたが、

コリンヌ様は私と同じくらいの背の大きさだった。


だが、大きな胸を出し惜しみすることなく、

レースからはみ出すように上半分が見えている。

……胸の大きさで幼子だと言われている?


「コリンヌ嬢に紹介しよう。

 こちらは竜王様の側近で、後宮担当になったリディだ。

 私の婚約者でもある」


「……は?」


勝ち誇るような笑顔だったコリンヌ様が、

口を大きく開けて止まってしまった。

ルークの婚約なんて予想してなかったんだろうなぁ。


侍女たちも驚いているのを見て、少しだけ気持ちがすっとする。

見下されているのがわかって穏やかな対応ができるほど、

私はおしとやかな性格ではない。


「はじめまして、コリンヌ様。

 ルークの婚約者のリディよ、よろしくね」


にっこり笑って挨拶するとコリンヌ様がようやく口を閉じた。

これは怒ったかなと思ったが、コリンヌ様の怒りはルークへと向かっていた。


「ルーク様。私の気持ちを知っていながら、

 このような嘘をつくとはひどいではありませんか?」


「嘘だと?」


「ええ。私の求婚を断る時におっしゃっていましたよね?

 竜人と竜族が結婚することはないと。

 そこの女性は竜族ではないのですか?」


「「あ……」」


そうだった!

ルークから説明されていたのに気がつかなかった。

今の私は竜族で、竜人になるかどうか確定しているわけじゃない。

竜人になるという話をすることもできないのに、

ルークの婚約者になったことをどう説明できるというんだろう。


しまったと思ってルークを見ると、ルークは私を見て軽くうなずいた。

何か覚悟を決めたような、目が座っているような……?


いったい何をするのかと思えば、ルークに腕をぐいっと引っ張られる。

その力に負けて、するんとルークの腕の中に入る。


「え?」


「コリンヌ嬢、リディとは先日会ったばかりだ。

 だが、一目見て俺の番だとわかった。

 だから、婚約する許可が竜王様から下りた」


「「はぁ?」」




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