14.竜人と後宮
「どういうこと?
ラディってもてないほうだったの?」
見た目はラディの方がもてそうなのに、
顔を半分隠しているようなルークの方がもてている。
血筋も身分もラディの方が上だったはずだけど。
その疑問は、エリナから渡された本を読んでわかった。
夜になって、近くに誰もいないのを確認してからクレアを呼ぶ。
毎日、その日あったことを報告することになっているが、
エリナから本を受け取ってからは、
二人で本を読んで竜人と竜族について学んでいる。
「ねぇ、リディ、ここ見て!」
「ん?竜人と竜族が結婚して子どもができるのは、
百歳までの間だけ??どうして?」
「百歳をこえると竜人は魔力が上がるから、
竜族が相手だと無理なんだって」
「魔力の差があるからなのね!
百歳をこえると、竜人は番が相手じゃないと子ができなくなるんだ。
じゃあ百二十歳のラディは番を見つけないと結婚できないのね」
だから番を見つけるために他国をまわっているのかな。
「ねぇ、ルークっていう人は何歳なの?」
「たしか七十歳って言ってたわ」
「まだ竜族と結婚できる年齢なのね」
「あぁ、そういうことなんだ」
「何が?」
「ラディのほうがもてそうなのに、
ルークがもてている理由!
百歳になっていないルークなら結婚できるからなんだわ」
もうすでに百歳をこえているラディは結婚相手にはならない。
あこがれている竜族もいるだろうけど、ラディから求婚される可能性はない。
ルークなら結婚できるかもしれないと、
本気で狙っている人が多いからあれだけ敵視されるんだ。
「あーそういうことね。
だからリディと婚約したんじゃない?
女避けが欲しかったくらいなんでしょう」
「うん。ちょっとかわいそうなくらい狙われている。
私がいることで少しはおさえられるといいんだけど」
「でも、竜族からしたらリディはどこから来たのかわからない人間でしょう。
邪魔になったら排除してもいいと思うんじゃない?」
「そうよねぇ。
竜王様から怪我くらいにおさめるなら、
やり返してもいいって許可はもらえたけど」
「あんまりもめ事おこさないようにね?」
「わかってるわよ」
それから一週間後、本格的に後宮の管理に関わることになった。
さすがに何も知らないまま後宮に関わることはためらわれ、
この一週間は後宮の歴史や法などを学んでいた。
今日からは実際の後宮についてルークから説明を受けることになる。
私が書物を読んで学んでいる間も、ルークは忙しそうだった。
後宮にいる者たちに呼び出され、嫌そうに向かっていた。
ルークには後宮の管理は向いてなさそうだと思ったけれど、
交代できるものがいないらしく、仕方なく担当しているのだとか。
「じゃあ、これから竜王国の後宮の説明をするから。
他の国の後宮と違って、クライブ様は後宮を利用していない。
先代の時も形だけの後宮だったが、一応は顔合わせがあった。
クライブ様は顔合わせすらない」
「顔も合わせないのに後宮に入りたい女性がいるの?
竜王国の法でいうと、後宮にいる妃には何の権利もないのでしょう?
竜王の夜の相手になれば愛妾として、子が生まれたら子の母としての権利、
竜王が妃として望んで初めて側妃になるのよね?」
「ああ、そうだ。クライブ様には正妃がいない。
そして、側妃も愛妾も作らない気らしい」
「それでいいの?」
竜王になれる家の血が続かないと国としても困るのではと思ったけれど、
そこには竜人ならではの理由があったようだ。
「クライブ様は竜王を降りてから番を探しに行くと」
「降りてから?それって何年後の話になるの?」
「軽く数十年後になるんじゃないのか?
だが、竜人が番を探しに行くのはたいてい二百歳~三百歳くらい。
クライブ様が今から五十年竜王でいても、まだ二百七十五歳だ」
「そんなにゆっくり探しにいくものなんだね」
「そのくらいの時期が一番竜気、魔力が多いんだ。
その分、番を感じ取りやすくなるし、見つけやすくなる。
アーロン様のように百歳になる前に探しにいくのはめずらしい」
「あ、そっか。そうだよね」
アーロンがこの国を出たのは百四十年前。
その当時、竜王様でも八十歳。弟のアーロンは確実に百歳前になる。
「そういうわけで、クライブ様は即位した十年前から、
一度も後宮に足を踏み入れてない。
後宮に入りたいと希望が来た時には、必ずそれを確認している」
「それでも入りたいって妃候補が来るんだね」
「属国が相手なら来るなと断れるのだが、同盟国が相手だと断りにくい。
今いる妃候補は断れなかった国の三人だ」
「三人。意外と少ない」
三人だけなら後宮の解放もそれほど問題にならないかもと思ったけれど、
ルークはげっそりとした表情になる。
「後宮にいるのは最長でも五年と決まっている。
一人はもともと一年後に満期になる予定だから問題ない」
「残りのニ人は?」
「あと三年とニ年。ニ年のほうが先日入ってきたコリンヌ嬢。
後宮は十五歳から二十歳の誕生日を迎えるまでとなっている」
では、先日入ってきたコリンヌ嬢は十八歳、私と同じ年ということだ。
揉めたと聞いてたけれど、何があったんだろう。
「ルークがコリンヌ様を相手国まで迎えに行ってから、
帰ってくるまで大変だったと聞いたけれど、何があったの?」