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10.竜王国で始める生活

私のために用意されたのは竜王様の二つ隣の部屋だった。

竜王様の隣の部屋は妃のために用意されているのだとか。


そんな場所に住んでいいのか迷ったけれど、

断ったらまた違う場所を選んで竜王様の許可を得なければいけないと聞いて、

あきらめてその部屋に住むことにした。


とてもとても広い部屋。

侍女控室と護衛待機室があっても、専属の侍女と護衛はいない。

応接間と執務室があって、その奥に寝室と浴室がある。


落ち着かないまま夜を過ごした次の日の朝。

迎えにきたラディに思わず愚痴を言ってしまう。


「ねぇ、本当にここでいいの?

 私ってよそ者でしょう?」


「良いも何もなぁ。決めたのはクライブ様だからな。

 気にしなくていいんだぞ?」


「そうだけど…こんな豪華な部屋。落ち着かないのよ」


「あぁ、そういうこと。

 だけど、アーロン様の子孫であれば、竜王様の直系だ。

 この国で生まれていれば、ずっと本宮で過ごしていたことになる。

 だから、今は養女でなくても、放置することはできない」


アーロンの子孫だから。

そのことがこの国ではそんなにも重要な意味があるとは。

竜王の直系……それはアーロンが人間になったとしても同じなのだろうか。


「まぁ、深く考えるなよ。

 クライブ様はああいったけれど、本当に竜化するかはわからない。

 竜化したとしても何年、何十年後かもしれない。

 悩むのはその時でも俺は良いと思う」


「そっか……そうだよね。

 竜化するかはわからないよね」


「……ああ。だから、まずは飯を食べに行こうぜ」


「うん!」


今考えることは、ここで生きていく道を探すこと。

できれば、働いて生きていきたい。


身分が高ければ、虐げられることは少なくなる。

だけど、その分生きていくことに責任が伴う。


私はまだ選べる。

竜化して竜王様の養女になることも、

竜族として魔術師の仕事を得ることも。


迷いが少しすっきりして、ラディと朝ご飯を食べに行く。

竜王国に来て初めての食事だ。

連れて行かれたのは外宮の食堂だった。


ここに竜人はいないように思う。

竜王様とラディの竜気を知って、竜族との違いがわかった。

私とラディを見て驚くような竜族の人たち。

竜族の女性は初対面だろうに私をにらんでいる。


ここでもまた異性をめぐる争いがあるのだろうか。

くだらない争いをしているのはレンデラ国だけではないんだ。

ざわざわとしている人込みを避けるように、個室へと連れていかれる。


「今日はあまり人目につかないほうがいいと思うから、俺が食事を運んでくる。

 この部屋からは出ないで待っていて。嫌いなもんはあるか?」


「ないわ。なんでも美味しく食べると思う」


「よし、待ってろよー」


嫌いなものがないと言ったからか、ラディは笑って出ていく。

旅の間は携帯食料とかだったから、普通の食事はしなかった。

竜王国の普通の食事ってどんなものだろうか。


少しして、ラディが持ってきてくれたのは、

卵と肉を焼いたものと豆のスープ。丸いパン。

発酵乳と果実のデザートだった。


「これで足りるか?」


「ええ、おいしそう!」


さっそくパンに肉を乗せてかじりつく。

肉の脂がじわっとパンにしみこんで、

噛むごとに小麦の香ばしさが鼻をぬけていく。


「気に入ったようだな?」


「うん!とっても美味しい!」


「そりゃよかった。

 だが、俺がいない時はここには来るなよ?」


「ん?」


「ここは外宮の使用人だけでなく、竜族の貴族が出入りできる。

 リディが本宮に住んでいることがわかれば、

 攻撃してくるものが出てくるだろう」


「あぁ、そういうこと。わかったわ」


竜王国は竜王様の一強国なんだと思っていたけれど、

それでも貴族の力関係というのはあるらしい。

くだらないと思ったのが顔に出てしまい、ラディに注意される。


「リディ、この国の貴族は他の国よりかは立場は弱いと思う。

 それでも、完全に無視するのは難しい」


「もめ事をおこす気はないわ。

 ラディがいない間はどこで食事をすればいいの?」


「クライブ様なら専属の侍女がいる。

 言えば、リディの食事も用意してくれるはずだ」


「えええ……」


竜王様の専属の侍女。

それって、食事はできるかもしれないけれど、

結局は貴族に目をつけられるだけなんじゃ。


「……そうだよな。

 ごめん、俺がなんとかできるように考える」


「ううん、私もなんとかできるように考える」


「ああ……」


それからもしばらくはラディと過ごした。

竜王様はまだ気持ちの整理がつかないらしく、

アーロンの話をすることはなかった。


そして、私の世話を任せるというルークは、

他国に行っているらしく会えなかった。

竜王国に戻ってきたら顔合わせをすると言われ、

とりあえずルークのことは忘れておくことにした。


この国での生活はとても穏やかなものだった。

昼はこの国のことについて学び、

夜はクレアを呼び出して覚えたことをクレアに教える。


この先どう生きるにしても、知識は必要だった。

竜王国で生きるとしても、竜王国から逃げるとしても。


だから、なるべく早く知識を得ようと学んで、

クレアにも同じ知識を学んでもらった。


ここから逃げるとしたら、クレアと二人だから。

できるだけ状況把握と力は必要だ。


そうしてすごした二週間後、

私を世話するという竜人、ルークと会う日が来た。




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