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1.初めての反抗

世界でも辺境の国レンデラ。やせ細った土地に傲慢な王族と貴族。

他国から狙われる理由もない、うまみのない国。


その王宮では一人の令嬢が育てられていた。

本人には知らされていないが、

十八歳になれば魔術で自由が奪われ生贄となることが決まっていた。


そして、この日。アリーは十八歳の誕生日を迎えていた。


王宮に勤めている者は全員それに気づいているがアリーには言わない。

誓約魔術が終わればアリーを好き勝手できる、それを楽しみにしていたからだ。


そしてアリーも、この日をずっと待っていた。

自分が生贄として育てられていると知った、

十三年前から計画していたのだから。





「いいですか。そもそもの戦の始まりは竜王国の略奪から……」


目の前をカツカツと歩き回りながら、

間違った歴史を語り続けている初老の教師に、うんざりしながら欠伸をかみ殺す。


竜王国との戦いの歴史なんて何度も聞いてあきてしまった。

そんなにも竜王国に相手にもされずに負けたのが悔しかったのかな。

竜王国と戦ったけれど引き分けて、同盟国になっているなんて嘘。

この王宮以外では恐ろしくて言えないだろうに。


うなるように声を張り上げ自分の言葉に酔いしれた教師は、

終わりに必ずこう聞いてくる。


「アリー様、わかりましたね?」


「はい、わかりました」


それ以外の返答は許されていない。

たとえ、この教師の授業の八割が間違っていようとも、

わかりました以外の言葉は許されない。


私と会える人間は制限されているため、

教師は私が信じ切っていると疑わない。


間違った知識を覚えたくないから授業を聞かないようにしているが、

終わりに必ず確認してくるために完全に耳を遮断することも難しい。


私がいつも通りに従うのを確認した教師は歴史書を置くと、

一冊の新しい本を取り出した。

赤い布地に金と黒の刺繍がしてあるが見たことはない。


興奮した教師がふんっと鼻を開いて大げさな動作で開くと、

ゆっくりと言い聞かせるように語り出す。


「いいですか、アリー様。

 あなたは幼いころからずっとこの王宮で育てられてきました。

 公爵令嬢ではありますが、その身は王太子の婚約者として、

 王宮で大事に育てられ、英才教育を受けていました。

 ですから、アリー様はこの国のために生きなければいけません」


ここで一区切りつけると、一字一字ゆっくりと


「アリー様、あなたはこの国、レンデラ国のために身を捧げなければいけません。

 心も身体も命も、この国の王家に、この国の貴族に、この国の民のために、

 すべてを捧げることを誓いますね?」


声に魔力がのせられている。誓約魔術だ。


あぁ、長かった、この時をずっと待っていた。

ギラリと光る教師の目がそう言っているけれど、それは私も同じ。


この時を、ずっと待っていた。



「いいえ、誓いません」


「……は?」


「い・い・え。誓いません。そんなのは嫌です」


信じられないという顔の教師のすぐ横で、パリンと乾いた小さな音が聞こえた。






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