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その日から数日はフェルディナンドと学院でぎこちないながらも挨拶をして過ごした。
途中、ロジーナ嬢がフェルディナンドに食事に行こうと誘ったようだが断っていたみたい。その後もフェルディナンドを執拗に誘っていたらしいのだけれど、他の学生も見ている前では断り続けていたらしい。
ロジーナ嬢は諦めたのか同じ学年の子息達と行動するようになった。
それからは私とフェルディナンドの仲は元に戻り、噂も消え恙なく学院の卒業目前まで過ごした。
……なのに、なぜ?
悲しくて苦しくて涙が止まらない。
私とフェルディナンドは卒業して一年後の十七歳になったら豪華な結婚式を挙げるようにと母や公爵家主導で様々な計画が進んでいた。周りで動いているのを知っていてもそこに何も不安は無かった。
王妃は他の貴族達の前では私に優しく接していたわ。王妃は私を駒の一つとしか思っていないとしても。
私なりに努力をしてきたつもりだった。足を掬われないよう発言にも気を付けていたのに
……なのに。
ある日、私は王妃の管理する一室に呼ばれた。
何故王妃から呼ばれたのか?と疑問に思いながら部屋に入った。
扉を開けた時、真っ先に視界に入ってきたのは扇をバシパシと叩いてイライラしている状態の王妃の姿だった。
「リヴィア、そこに座りなさい」
私は王妃に促されるままソファに座った。
よく見ると部屋には公爵と夫人、フェルディナンド様が居て、公爵は疲れ切ったような表情、夫人は目を腫らしている。
フェルディナンド様は頬が赤くなっている。公爵に殴られた? 私は異様な雰囲気に戸惑ったが、こちらから聞かねばならないと口を開いた。
「公爵、どうしてここに?」
「……リヴィア王女殿下。愚息が申し訳ありません。この度の不祥事、私の不徳の致すところであり……」
公爵は言葉を詰まらせて謝っている。状況が読めない。でも、彼が何かをしたのは分かった。
「どういう、ことですか?」
言葉を詰まらせながら聞こうとすると王妃が代わりに告げた。
「ロジーナ・フリッジ子爵令嬢に子供が出来たのよ。フェルディナンドは父親になったそうよ。これまで私達が動いてきた事が全て水の泡になったわ! どうしてくれるの!?」
王妃は怒り狂い、扇を机に叩きつけた。公爵と夫人は床にひれ伏し謝っている。フェルディナンド様は公爵に頭を押さえられ、謝罪している状況だった。
私は、どこか違う世界の話じゃないかと思ったの。
どこか他人事のような感覚。
分かっているの、自分の事だって。
信じたくない気持ちがそう感じさせているのかもしれない。
「フェルディナンド様、何故、なの? 私は、忠告しましたわ。彼女に関わるなと。何故、子供が出来ることをしたの?」
「……リヴィア王女殿下。申し訳ありません」
「謝るだけではわからないわ」
私はさらに彼に詰め寄ると、彼は眉を下げ言いにくそうにしながらもポツポツと言葉を発していく。
「ロジーナが、彼女が隠れて会えば、問題ないと……」
「何故問題ないと思ったの? 婚約者は私では無かったの?」
「……すまない。彼女に嵌められたんだ。子爵家の彼女の部屋に通された僕はお茶を飲んで、不味いと思ったんだけど、彼女に抱きつかれて……。薬が切れるまで彼女と過ごした……」
彼がそう答えたと同時に王妃が扇を机に打ち付けて怒りが頂点に達したようだ。
「あぁっ! 忌々しい! アイツにしてやられたわ!!」
王妃が怒り狂っている理由はアンバー側妃しかいない。
フェルディナンド様は王妃や私を潰すために利用されたのだろう。公爵側としても将来王配にさせようとしていた息子が相手の策に引っかかったのだ。
貧乏子爵令嬢を一人消すことは容易いが、裏で側妃側の貴族が糸を引いていたのならそれを機に騒ぎ出すだろう。
そうすればこれまで水面下で行ってきた王妃の計画が明るみに出る。
水面下で行われていた事が公になれば、最悪の場合王妃まで罪に問われる可能性があるのだ。
王妃は全てが台無しになったことを怒っているのだろう。
王妃は立ち上がり、扇で私の顔を何度も打ち付けた。
婚約破棄という傷を負った私は駒としてもう使えないと捨てられることも分かった。
「忌々しい! 役立たずなお前はもう要らない! 死ねばいい!」
そう暴言を吐いて部屋を出て行ってしまった。