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「リヴィア様、本日は炊き出しをされますか?」
ティポーが聞いてきた。
「そうね。お願いするわ。避難民の状況も確認しておいてちょうだい」
「畏まりました」
私は執務室で状況の把握に務める。商人の往来が劇的に減って状況が掴みにくい。避難民からもどういう状況か聞き取りを行い予測で動くことしかできないのが残念なところよね。
私はふうと息を吐き、ダリアの淹れたお茶を飲む。
「王都は攻められている頃かしら?」
「そろそろ、かもしれませんね」
本来なら王都に攻め込むにももっと時間が必要だが、半年ほどで王都付近まで来るということは協力者がいるのだろう。
私たちは今後どうなるのかしら?
お茶を飲みながら執務をしていると、ティポーが息を切らして執務室に戻ってきた。
「どうしたの? そんなに息を切らして」
「リヴィア様、大変です! 王宮が陥落したようです。複数の避難民が王宮にいくつかの煙が上がっていたと話をしています」
「……そう。ついに、ね」
一体どうやってあっさりと王宮までたどり着いたのだろうか?
やはり協力者が?
これから国は否応なしに大きく動き始める。私はカインディール国が混乱している隙にケルノッティへ戻れるかもしれない。
「モニカ、ケルノッティに帰国できるかもしれないから荷物はまとめておいた方がいいわ」
「畏まりました」
もしもの時の覚悟を決めながら準備に取り掛かる。
父はシューンエイゼット国とどのような交渉をしていたのか?
何も情報が入ってこない今、不安ばかりが頭を過る。
私はこのままカインディールの王族の一員として処刑されてしまうのだろうか。
そうこうしている間に数日が過ぎ、また一報が入ってきた。
「リヴィア様!! 大変です!! シューンエイゼット軍がこちらに向かっているようです」
「分かったわ。被害が最低限で済むように使用人たちは街に戻して。ダリアたちも避難してちょうだい」
「私たちは最後までリヴィア様とご一緒します」
そう言ってティポーたち家族は他の使用人たちに離宮から離れるように指示し、使用人たちは涙しながら街に戻っていった。
……軍がこちらに向かっているということは目的は私。
私の命もここで終わるかもしれない。
斬首刑になるのかしら。
父はシューンエイゼットとの交渉は上手くいかなかったのかもしれない。
ダリア家族と離宮の玄関に鍵を掛けた後、サロンでじっとその時を待った。
誰もが口を開かない。
緊張で手が震える。
ガタガタッ。
ガシャン。
玄関から大きな音がする。
人の入ってくる音が響いてくる。
――コンコンコンコン。
ノック音が響く。私は心臓が今にも爆発しそうになるのを抑えて返事をする。返事と同時に数人の騎士が部屋に入ってきた。
「……この離宮に勝手に入ってくるとは一体何事でしょうか?」
ダリアたちは私を守るように前に出た。
「全員取り押さえよ!」
部屋に入ってきた一人の騎士が後ろの騎士たちに指示をする。
やはり騎士たちには敵わない。大人数で入ってきた騎士たちにあっさりと取り押さえられ、ダリアたちは跪いた状態となった。
「彼らは何もしていないわ! 捕まえるなら私だけにしてちょうだい」
私はそう声をあげるけれど、聞いてはくれないようだ。騎士たちは私を後ろ手に縛り、拘束する。
「制圧しました!」
部屋の外で誰かが待機していたようだ。
甲冑姿の人はカシャンカシャンと音を立てながら部屋に入ってきた。




