18 陛下side
「リヴィア様が先ほどカインディール国へと出発なされました」
「……そうか」
「本当に良かったのですか? リヴィア様は離宮から戻られて日に日に衰弱しておりました。先ほども従者たちがリヴィア様の異変に気づいて泣いている者もいたようです。心が壊れたのではないかと」
「……そうか」
私は羽根ペンを置き、執務の手を止めた。
「なあ、ジョール。俺はどこで間違えたんだろう?」
執事のジョールは真面目な顔で答える。
「……側妃選びからでしょうか」
「なぜそう思う?」
「オリーディ様があれほど嫌がっていたアンバー嬢を側妃に迎えた。そして陛下はアンバー妃ばかりに目をかけ、慈しんでこられた。その結果でしょう」
「……耳が痛い」
「フェルディナンド・ベニーシェイク公爵子息がロジーナ・フリッジ子爵令嬢に陥れられたのもラジーノ王子の手引きだったようです」
「なぜラジーノはそこまでしてリヴィアを傷つけたいんだ」
「やはりアンバー妃の影響でしょうね」
「アンバーはそんな女だったのか?」
「ええ、そうですね。側妃として召し上げられる前から様々な子息との交際や婚約者のいる子息に声を掛けて回り、婚約を潰していらしたようですから。オリーディ様も反対なさっていたでしょう?」
「……そうだったな。オリーディを蔑ろにしすぎたツケか。ラジーノ達の教育はどうなっている?」
「酷いものです。よく王族でいられるなというレベルで」
「そんなにか?」
「そんなにです。リヴィア様に付いていた教師はことごとく匙を投げています」
「……廃嫡止む無し、か。新たに側妃を迎える」
「畏まりました。リヴィア様のことはどうされますか?」
「そうだな。リヴィアの侍女に生活費を送り届けておくように。ヴィリタス陛下はリヴィアのことを高く評価していた。ドルク王子に渡すと使われてしまうだろう。陛下には一報入れておけばいい」
「畏まりました」
私はその後、執務を中断しオリーディの部屋へと向かった。
「オリーディ、いるか?」
「どこの誰でしょうか?」
棘のある言葉で部屋に入れるつもりはないようだ。
「開けて欲しい。大事な話がある」
「……どうぞ」
扉が開いた時、絶句した。
以前この部屋を訪れた時は格式高い家具に囲まれた落ち着きのある部屋だったが、今は嵐でもあったかのような荒れた部屋。
言葉に詰まった。
ここまで彼女を追い詰めていたのだと自覚し、後悔するばかりだ。




