#1【何の説明にもなってない回想】
別作品「幻惑のアレース ー日本能力者学園編ー」の息抜きで書くためかなり不定期です。
よろしくお願いいたします。
ボーッとする頭。
塾帰りの、19時と30分の指針。
夜道にしては明るい青い空。
けれど、ヒューッと吹き付ける風は、段々と冷たさが勝り始めている。
無駄にスマホの電源をポチポチするだけの中途半端な歩きスマホ。
何が楽しいのか。
何のためにしてるのか。
自分にすらわからない。
茶色いローファーを履いて今日もコツコツと住宅街の細道を闊歩する。
(あー、華なんてなにもなかったなー)
齢15をぶら下げる女の子の人生は、所謂、華の女子高生とされる時期の始まりでもある。
小学や中学と違って大いに垢が抜ける3年間。
たくさんの友達と大変輝かしい生活を送ってみたり。
スタバ片手にみんなと街を歩いたり。暑い夏の日には首かけ扇風機を向け合いっこしてみたり。
スカートの中にそれを吹きかけてバカ笑いしてみたり。
プールの清掃で水を掛け合ってキャッキャとしてみたり。そんな青春を毎度毎度動画や写真に納めてみたり。それをインスタに投稿してみたり……。
「……」
真っ白く、煌めきの激しい偏見フィルター。
結局、そんな生活と言うのは何もしない人間が勝ち取れる物なんかじゃなかった。
無条件で訪れると思っていた華やかな生活。
その実、少なくとも私は、友達になれた人といえば席の近い人達くらい。
スマホを胸ポケットに入れているものの、取り出すのはいつも自分の席の上。
ナマケモノのようにダラリとした姿勢で机にへばりついている時。
何かを期待してプール清掃に名乗り出てても、そこで新しい誰かと仲良くなれるわけでも遊べたわけでもなく。
ただ私は淡々と、真っ当にきったねー汚れをブラシで剥がし取って、ホースから勢いよく出てくる水で弾き飛ばして綺麗にしていた。
もちろん他の子達はほぼ遊んでいる状態。
まさに虚無そのもの。
あまりもの虚しさにイマジナリー自分を1人用意し、ホースの先端を抑え、高圧洗浄機みたいな水を射出しあう遊びを頭の中でしていた。
キャー冷たぁい。
キャーいたぁい。
キャー凄い飛距離ぃ。
キャー避けられなぁい。
同じ声質、起伏のない直線的なトーン。
虚しさは加速する。
帰る時も誰かといるわけではない。
押しこぐ自転車の車輪の音はただ一つ。
そこに喧騒はない。
そして留意すべきは、それが望んだことではないことという事。
背中から聞こえてくる、比較的健全な知力の高い暴走族のために、すーっと道の脇に逸れる時がある。
男子と女子がまみえる、とても、とてもとてもとても楽しそうな光景は、指を加えて見つめるしかできなかった。
でもでも、最近仲良くなった女の子がいる。
その子はすっごい可愛くて、優しくて、すっごい面白い女の子。
毎度見せてくれるオーバーリアクションが、私の絶望的に色褪せ始めている生活に活気を与えてくれている。
なお、頑張って作った男の子の友達は指折り数えて1秒くらいで止まってしまう。
もちろん、ゆっくり数えて1秒だ。
インスタの交換に至っては女子のみ。
スタバやご飯の写真なんて一向に流れてこないから、多分あまり使わない人としか交換できていない。
やはり、JKの華やかさという甘味を吸い尽くすには努力しなければいけなかった。
でも私は、努力が大っ嫌いで、したい事しかしたくない人間だ。苦しいことなんて滅んでしまえと枚挙に思っている。
(なんでこんなとこに電柱があるの! もぉっ!)
斜め前に見える直立不動の電信柱。
ふと湧き出た怒りのあまり、助走をつけて飛び膝蹴りを入れそうになってーースンっとひどく冷静になった。
なんで私はこれを蹴ろうとしているんだ、と。
別に、電柱があることはおかしい話じゃない。
むしろ等間隔の配列は、いつもの帰り道の光景そのものだ。変わり映えなく景色に溶けこみ、馴染んでいる。
ふと見下ろした、電柱の下で息をしている雑草の姿。
「っ……っ…」
自分よりも大きなものを前に、立ち尽くすしかない私のように育つ草。
それが健気に見えて、仕方なかった。
それを見て私は、どうしようもない悲壮感に駆られて涙が湧いてきた。
そこで、気づく。
(もう生理くるのか…)
なんで私が草なんかで泣かされなくちゃいけないんだ。
流石に酷すぎる不安定な情緒。
それは紛れもない生理の前兆。
元々私は生理が重く、だいぶんと悩まされていた。
低用量のピルをちゃんと毎日飲んでいるが、あくまで軽減であって苦痛が消え失せるわけではない。
酷い時は飲んでいても、生後半年の赤ちゃんよりも動けない。
女として生まれてきたことをこの上なく後悔し、神を呪ったよ、あージーザス。
肌荒れも酷くなるし、情緒は不安定になるし。
ほんと、女という性にはとことんいいことなんてない。
なにが華だ。
何が美しいだ。
なんだよ、JKは華そのものだって言ったやつ。
そんなのは幻想だバーカ。
夢を見て夢を頒布するんじゃないよ、その期待地味に傷つくし私もそうなりたいと思っちゃうんだよっ。
「あーあ! 華の高校生活は盛大に始まりませんでしたくそがぁああ!!!!」
「っ!?」
「あっ…」
私の後ろについていた通行人に気づかず、猛り思うがまま声を張り上げてしまった。
反響した私の絶叫。
落ち始めた夜の帳。
遠のいていく、足早な通行人。
特大の羞恥と申し訳なさと、ヤバい人間だと言いふらされるかもしれない恐怖に駆られ、立ち尽くす。
(あー……もうやだぁ…死にたい)
女子高生だけど、何も楽しくない。
中学の時と何ら変わらない。
見た目的には垢が抜け始めたかもだけれど、それでも私の輝きと言えば洗い立ての車のボンネット。
宝石みたいな、恍惚とした光と美しさは持ち合わせていない。
どうしたらいいんだよもぉ…。
(あぁ…お腹痛くなってきた。生理なのかストレスなのかわっかんない)
生理はちゃんとくれば毎月の恒例行事。
でも慣れることは一生ないだろう。
(痛いのやだぁ…強くなりたい、痛みに苦しまないくらいに強くなりたい…)
それが根本的な解決になるかと言えば、まぁそんなんわけがないことは理解しているのだけれど、正直な話理屈なんてどうでも良かった。
これを吐露できる限られた相手はここにはいない。
愚痴に対して適当に相槌を打ってくれる人は現在不在。
だから今思うことは、ただ苦痛に勝る体を手に入れる事。
ひたすらに、私は願う。
「誰かー!! この身体を半分くれてやるから苦しみから解放してー!!! 無理なら強くしてー!!!」
「……ジャア、シツレイシマス」
「え?」
「かくして私は、バケモノと融合したあー……したぁ…したぁ……」
「何の説明にもなってないよ!?」