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人間の暮らし

前話を飛ばした方へ。

母親は戦闘のいざこざで死亡しました。

アオくんと”人間らしい暮らし”が始まります。

「アーオーくーん!雨降ってきてるよー!!!」

「えっ、やば!!!オレ寝ちゃってた、ごめんね愛莉ちゃん!!!」


 雨と共に帰宅した私は、ベランダに洗濯物が干されているのに気づいてしまったのだった。

 慌てて私も手伝おうと鞄を置いていると、リビングで爆睡してたアオくんが飛び起きて何故かトイレのほうへ走っていって慌てて戻ってきた。


「アオくん、違うよ!!そっちはトイレ!!」

「あわわわ、ごめん、寝ぼけてるかも」


 ベランダとトイレではだいぶ違うんだけど、そんなおっちょこちょいなアオくんが私は大好きだ。

 

 ”人間の暮らしをしてみよう”そうアオくんに提案されたときはビックリしたけど。

 何か超妖怪的な方法か、なんらかの手段を使ったのだろう。


 大江山アオくんは私の叔父で。私は大江山愛莉ということになっている。

 今のマンションに住み始めて四年。

 —-それは、ママが死んで、ちょうど四年ということになる。

 私は中学二年生で、そろそろ受験のことで少し頭を悩ませている所……。

 

 アオくんと出会った四年前。

 年齢を伝えられたアオくんはとても驚いていた。

 標準よりかなり小さかったし、文字も読めない、数字もおぼつかない。小学校低学年だと思っていたそうだ。


 そこから、アオくんの料理研究が始まり、最初はほぼ卵の殻で構成されていたオムレツも、今ではふわふわでこだわりの旗まで乗ってる。ただし、アオくんは絵が超絶ヘタクソすぎるので、タコが描かれてると思っていたけど、実はオオカミだったことが最近判明したばかりだ。


 私の知ってるオムライスといえば、お弁当に乗ってるカチカチの卵のしか食べた事が無かったから、どんどん上達していくオムライスを食べる度にびっくりしちゃった。

 こんなにふわふわな食べ物があるのかって……。


 あとは、読み書きすら満足にできない私に読み書きを教えてくれたのはアオくん。

 実は、アオくん……文字がすごく綺麗なんだよ!

 絵心はあんなに無いのに不思議なんだけど、巻物みたいな達筆さで、私には時々読めないくらい達筆なの。

 

 そんなアオくんに文字を教えてもらった私も、そこそこ綺麗な字を書けるから、そこは自慢なんだー。


 そしてアオくんは、……ちょっと数字に弱かった。アオくんの名誉のために言っておくけど、”人間らしい暮らし”に必要なことは知ってるんだけど、学校に必要な算数授業……それも、三年半も何もしていない子供に教えるには相当無理があったんだと思う。


 ミズくんっていう、アオくんの会社の人がやってきてたくさん教えてくれたんだ。


「姫様は、アオ様に算数を教えてもらおうとしてたんですか……?」


 そう言って、アオくんをネズミでも見るような目で見てから、親切丁寧に、私が分かるまで教えてくれたんだ。

 ミズくんは教えてくれるのが本当に上手で、アオくんととっても仲良し。……よくケンカして、アオくんが涙目になってるけど、仲良しだと思う。

 ミズくんは、時々見せてくれる笑顔が優しくて、大好き!

 ちなみにミズくんの好きな食べ物は、卵と鶏肉なんだってー。


 あと、運動会とかお引越しとかキャンプとか。そういう時にはトラちゃんが来てくれるんだよ。

ミズくんにコキ使われてるっていつもブツブツ言ってるけど、とっても優しくて力持ちで。いつもニコニコしてて大好き!保護者大玉転がしの時には、大玉を片手で持ち上げちゃって……あの時は本当に盛り上がって楽しかったなあ。

 トラちゃんは金髪と黒のいかついツーブロックのお兄ちゃんなんだけど、本当に優しいんだあ。


 私も、学校へ行くようになって。少しづつ色んな情報を得て。

 ママと私の関係が異常だったことを知った。


 それと同時に、今の環境もかなり異常なのも分かったけど、これは幸せな”変わってる”だから。みんなの事も本当に大好きだし、何よりやっぱり今も私はアオくんが大好きだ。



************************************************************************


 私の部活は手芸部だ。

 アオくんの靴下を縫ってあげたら、すごく喜んでくれて。それが嬉しくて。

 そこから色々作り始めて、それを見たアオくんが「好きを得意にすることが一番いいよ」って色々揃えてくれて。

 今ではバッグだって手作りできちゃう腕前なんだ。


 ちなみに、ミズくんにお願いされて、ミズくんのネクタイにヘビの刺繍をしてあげた。白色のヘビで、すごくうれしそうだったんだけど……「蛇に足を付けてもらえますか?」と言われたのでサービスで足もつけてあげたよ。


「家宝にします」って言って仕舞い込みそうだったから、他にも何本か刺繍してあげたら、すごく喜んでくれて、高級卵をたくさん持ってきてくれたんだ。あの高級卵でアオくんが作ってくれたオムライス、美味しかったなあ……。


 トラちゃんには、毛糸のマフラーを編んであげたの。トラ柄のやつ。

 そしたら、トラちゃんたらすっごく喜んでくれて……もう一つ欲しいものがあるって言ってきて。私に作れるかなあって心配だったんだけど、トラ柄の毛糸のパンツだった!

 トラちゃん、ムキムキだから毛糸たくさん使ったけど無事に完成したらすごく喜んでくれて……パンツだけで走り回りそうになってて、アオくんにゲンコツされてたっけ……。



 そんな、幸せで平和な生活を送っていたんだけど……。

 アオくんがここ最近、なんだか上の空だ。


 いつもみたいに、へにゃーっと笑っているけど、私には分かる。

 トイレとベランダの入り口を間違えるアオくんだけど、土砂降りの日に洗濯物を取り込み忘れるなんて絶対ヘンだもん。


 だって、私の大好きなアオくんは、雨にとても敏感なオオカミ……!いつもどこでも、モールに出かけていたって必ず「もうすぐ雨が降るから、帰ろっかー」って言ってくるのに。絶対おかしい……!


「アオくん、私に何か隠してる?」

「うぎっ」


 食後のホットカフェラテを飲んでるアオくんに、直球ストレートで聞いてみた所、変な声が出てきた。


「愛莉ちゃん、どうしてそう思うの?」


 落ち着きなく、マグカップをテーブルに下ろしたり上げたり、下ろしたり上げたり。口元に持っていくけど飲まない。


 クラスの男子よりウソがヘタクソすぎる。


「何か、私の事で困らせてるなら言って欲しい…。私のせいで、アオくんを困らせたくないよ」

「……愛莉ちゃん」


 アオくんが困った様子で、眉をへにゃりと下げた。まるで困った犬のようで、私はアオくんのこの表情が大好きだったりする。


「……あのね、愛莉ちゃん。”人間の暮らし”はどうかな」


 その言葉に、ああ……この生活が終わるのかなって、思った。


 最初に約束した時に”人間の暮らし”をしてみて、いいな、悪くないなって思えたら本当の人間の暮らしをするって約束してたから。


 でも、思ってたよりだいぶ早すぎて、心が追い付かなくって。

 ダメだダメだって思ったけど、ぽろっと一粒だけ涙が零れてしまった。


「ああああ、違う違う!!!なんでもない!!!!やっぱなし!!!今のナシ!!!!」


 慌てたアオくんがぎゅううっと抱きしめてくれて、ここ数年で当たり前に嗅ぐ香りに少し落ち着く。


「ごめんね、アオくん。泣いたりして」

「ううん、オレが悪かったよ。でも、ちょっとだけオレの話も聞いて貰えるかな」


 頷くと、アオくんはいつかの時のように私を胸に抱き込んだまま静かに話をしてくれた。


 私の母には夫というものは一度も無かったそうだ。

 両親にも言えず、そのまま産み落とし……それでも、母なりに頑張って育てていたのだろう。

 長く家に帰ってこなくても、何の仕事をしているのか分からなくても。母の彼氏が日替わりだったとしても、それでも彼女なりに私を産んだ義務を果たそうとはしていたのだと思う。


 アオくんたちは、人間らしい暮らしをして、すっかり普通の女の子になった私を、このまま妖怪たちで育てて良いのか常々不安だったそうだ。


 そういえば、生理になった時のアオくんは見ていてものすごく気の毒だった……。

 でも、ユキちゃんっていうすごい美人さんが来てくれて一緒に買い物をしてくれたんだ。

 私は絶対雪女だと思ってるけど、とっても優しかった。他にも化粧水とか、日焼け止めとか色々教えてくれて嬉しかったなあ。時々会いにきてくれるけど、ユキちゃんには寒い日にしか会えないから残念。


 話が逸れちゃったね。

 つまり、私が産まれていることすら知らなかった祖母がいるみたい。

 お祖父ちゃんは去年他界してしまったそう……。


 対外的に、ママは行方不明ってことになっているから……。ママが死んでることすら知らないと思う。


 祖母に当たる人に、アオくんは少しづつ近づいて……いわゆる面接をしていたそうだ。

 私を預けるに相応しいかどうかを。


「子はどうしても親を見て育つからねー。あんまり期待はしてなかったんだけど……すごくいい人だったんだよね」


 ポツリ、呟いたアオくんは少し悲しそうな顔をしていた。

 私だけを助けて、一時の感情で母を見殺しにしたことを彼は未だ悔いている。


 手を伸ばし、モフモフなアッシュグレイの頭を撫でて上げると、アオくんは嬉しそうに目を細めた。



「愛莉ちゃん。一度さ、おばあちゃんに会ってみない?」


 一緒に暮らす、暮らさないは別として。おばあちゃんが居るっていうのは良いことなんじゃないかなと、一生懸命言葉を選んで伝えてくれるアオくんに、私はこくりと頷いたのだった。

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