表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/56

49 新婚旅行#2

 げっぷをさせて寝かせた愛香をお義母さんに預けると、僕と優香は自分たちの部屋に向かった。優香の口数はいつもより少なくなっていた。

 部屋に入った2人は、ベッドの上に置かれていた室内着に着替えた。


「そう言えば、愛香におっぱいを飲ませてからかなり経ったよね。まだ大丈夫?」

「えーと……そろそろ張ってきたかな」


 自分の胸に触った優香は、荷物の中からお馴染みの母乳パックを取り出した。授乳までまだ時間があるのに胸が張ったときには、これに搾った母乳を入れて冷蔵保存している。


「えっと……誠としてはどう? こんな時だから隣の部屋でした方がいい?」

「優香が嫌じゃないなら見ていたいからここで」


 優香が僕の前で愛香に授乳したことは何度もあるし、搾乳しているところも2回見ている。搾乳では愛香がいない場所で彼女の胸を見たわけだけど、愛香のための行為だからか僕は少しドキっとしただけだった。


 この旅行の目的はただ優香とセックスをすることじゃない。どれほど僕が優香を求めているかを伝えながら、それは優香の幸せな気持ちが前提なんだということを実感してもらうつもりだ。

 アイツのせいで優香が持ってる男への嫌悪感を、僕はこの節目となるチャンスに払拭したい。彼女に幻滅されないために興奮し過ぎて自分を見失わないように気をつけよう。


「じゃあここで」


 そう言うと、優香は自分の乳房を出して搾乳を始めた。手絞りで母乳パックに直接だ。このパックは安い物より厚めで開いた口が安定しているから使いやすいらしい。


「飲んでみる?」


 悪戯っぽい笑顔の優香の口から普段なら言いそうにない言葉が出た。今日の彼女はいつもよりテンションが上がっているようだ。


「もったいないよ。優香の貴重な母乳は一滴も無駄にせずに愛香に飲ませたい。それに、そんなことをしたら僕の口内細菌が愛香にうつるかもしれない」


 生まれたばかりの赤ん坊にいわゆる虫歯菌はいない。多くの場合は肉親の唾液からの感染で、僕がそれを普段から注意してることは優香も良く知っている。

 だけど今の僕の言葉は素っ気なさ過ぎたんじゃないだろうか。僕がいつも優香に触れたいと思っていることは正しく伝えておくべきだろう。


「でもその胸には触ってみたい。母乳を絞るのを手伝ってもいいかな」

「……いいよ」


 許可をもらった僕は優香の背後に回った。右手に開いた母乳パックを持って左手で絞ることにする。頭に愛香を思い浮かべて心を落ち着かせてから、彼女の左の乳房に触った。


「んっ」

「わっ!」


 指に触れたそれが無茶苦茶に柔らかく感じた。触った瞬間に優香が小さな声を上げたので、僕は慌てて手を離した。


「ごめん! 痛くなかった?」

「大丈夫。そんなに敏感じゃないよ」


 乳房に包むように触れてから、親指と人差し指の腹で乳輪より先に圧力をかけるように力を入れる。


「もっと力を入れても大丈夫」

「そ、そう?」

「同じ場所だけじゃなく、角度を変えながらね」

「わかった」


 それから少しずつ力を増やしていったけど、優香がやるほどには母乳が出てこなかった。


「同じ肌色でも、自分の手と優香の胸は全然違うんだな。乳首も茶色というよりピンクだし乳輪も色が薄いし」

「え? 変?」

「いや、可愛いよ。自分と違うからそう思うのかな。そもそも優香に可愛くないところは無いけど。こうして触ってみると柔らかいだけじゃなくて弾力もあって、気持ちのいい手触りなんだな」

「……」

「……あ。指で挟むだけじゃなく、手のひらで全体を押しながらの方がいいのかな?」

「ま、誠」

「うん?」

「やっぱり自分でやる。その……他人にしてもらと、ちょっとくすぐったくって」


 そう言われてすぐに手を離した。我慢していたからか優奈の耳が赤くなっている。僕の顔もかなり熱くなってるけど、その程度で済んだのだから自分を褒めてもいいだろう。




 風呂の湯を入れている途中で試しに浴室の照明を消してみた。ガラス張りの海側には見事な星空が見えた。


「ほらっ! 星がよく見えるよ。このホテルの周辺では外の照明を制限してるからなんだ」

「……あっ! 本当。凄いね」

「これは入るのが楽しみだな」

「……」

「どうした?」

「このお風呂、中の明かりをつけたら海から見えちゃうんじゃない? 真っ暗にしたままで入るの?」

「それは大丈夫だよ」

「でも、小さな船とかがその辺りにいても暗くてわからないよね。最近はドローンとかもあるし」

「優香。大丈夫と言ったのは理由がある。この窓は特別なんだ」

「え?」

「外が明るい時に近づいて見ないと気付かないだろうね。このガラスに秘密があるんだ」

「何か特別なの?」

「ガラスの外側に張ったフイルムに、光を反射する1ミリほどの金属が、数ミリの間隔でびっしり埋め込んであるんだ。面積だと全体の3%ぐらいで室内側は光を反射しないから、昼でもよく見ないとわからない」

「えっと……うん」

「そのフイルムに、室内の明るさに応じて外から赤外線も含んだ照明を当てているんだ。金属は密度にバラツキがあって反射した光が模様に見える。室内で明かりをつけた時だけじゃなく、暗いまま外から赤外線カメラで撮られても模様に紛れて中は見えないんだ」

「そうなんだ。詳しいんだね」

「僕がアイデアを出したプライバシーフイルムなんだよ。ここに使われてるのはまだ試作品だけど、効果は確認済みだよ」

「……え?」

「僕が投資のコンサルティングをしてる相手にこの業界の人がいて、その人にアイデアを話して共同開発したんだ」


 何を言ってるのかわからない。そんな顔で優香は僕を見た。


「前に優香が星空の露天風呂で感動したって話を教えてくれただろ。その話を聞いた時に、2人で初めて旅行する時には同じ体験をさせたいと思ったんだ。記念となる日の雰囲気作りになると思って」

「……」

「でも調べると、露天風呂でドローンによる盗撮が問題になってるという話も見つかったんだ。優香が嫌なだけじゃなく僕も優香の裸を他人には見せたくないから、なんとかしたいと考えて思いついたのがこれなんだ」


 これはつまり、貴重な受験勉強の時間を割いてフイルムの開発もしていたということだ。もし受験に失敗してからこんなことを話したら怒られるのは確実だけど、ここに優香を連れてくるのは大学に合格したときだけだ。

 優香は僕が好意でしたことをいつも素直に喜んでくれるから、今回もきっと悪い印象は持たなかったはずだ。


「わたしのために?」

「星空を見て喜ぶ優香を見たい。そう思った僕のためでもあるんだ」


 暗くて優香の表情は見えなかったけど、その息づかいを聞けば怒っていないことはわかった。


「優香。今日の僕は君を全力で幸せにしたいと思っている。幸せな気持ちだけで膨らませた風船みたいになって欲しいんだ」

「う、うん?」

「だから、少しでも嫌だと思ったら僕にそう言って欲しい。その風船にはどんな小さな穴だって開けたくないから」

「あ、あの」

「何?」

「穴が開かなくても、膨らませ過ぎたら風船って破裂するよね?」

「え? そのパターンもありそう?」

「……うん」


 最初に優香を抱きしめた時に、また彼女の裸を見た僕が素直に褒めた時にも、彼女は感情が極まって倒れたことがあった。

 どちらもその後で彼女は僕により心を開いてくれるようになった。だから悪いことではないんだけど、今日はそこで終わりにはしたくない。


「だったら、破裂しそうになったら僕に教えてくれる?」

「う、うん」


 優香がこんなことを僕に言うのは、今日の僕は彼女をそれだけ幸せにしているということだ。だったらこの調子で、彼女に止められるまでもっとその気持ちを膨らませ続けよう。


「この湯を入れ終わったら、僕が先に風呂に入ってるから…」

「待って。わたしが先に入る」

「僕が先だと溺れないか心配だから?」

「……」

「いや、安心したんだ。僕が頼んだ通り、嫌だと思うことを素直に言ってくれたんだから」

「……うん」

「じゃあ、優香からお先に」


 優香を風呂に残して僕はリビングに戻った。オーシャンビューの大きな窓がここにもあるけど、部屋の明かりは消してないから星空は見えない。


「誠。来て」


 思ったより早いタイミングでその声は聞こえた。僕は脱いだ服を洗面台のカゴに入れると浴室のドアを開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ