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41 AI

主人公のAIについての説明は、ヒロインのために頑張ってるんだなということだけ理解して、読み流してもらえば結構です。

「おはよう、誠」


 僕が目を覚まして最初に聞こえたのが、僕の腕の中にいた優香の声だった。


「おはよう」

「よく眠れた?」

「ああ。頭がスッキリしてる」


 優香は最近になって昼寝をするようになった。妊婦にはその方がいいと聞いた僕が彼女に勧めてからだ。そのためか朝は僕より早く目が覚めることが多い。

 お腹が大きくなると、お義母さんは朝食の準備を優香にさせなくなった。それもあって優香は起きてもすぐにはベッドから出ないで僕が目を覚ますまで見ているようになった。


 同じベッドで寝る頻度は徐々に増えていって、今では1日おきになっている。優香に触れながらでも昨晩のように割と早く寝られるようになったからだ。

 そうなったのは僕が優香との触れ合いに慣れたということじゃない。理由の一つは僕が自慰のタイミングを変えたことだ。


 僕はこれまで自慰は週に2、3度、必要だと感じた時にしていた。それを変えて、優香と寝たり風呂に入ったりする日の夕食後に必ず済ませるようにした。

 もちろん、そのくらいで彼女に触れたり裸を見たりしてる僕が興奮しなくなることはない。だけどその後で興奮が続く時間は以前より格段に短くなった。


 そしてもう一つの大きな理由は優香のお腹にいる子どもだ。この子は成長するにつれて僕の色々な合図に反応してくれるようになった。常にじゃないけど偶然とは思えない頻度でだ。

 それがわかるのは、僕が自作トラウベではっきりと心音や呼吸音を聞き取れるようになって、胎児の細かな反応まで把握できているからだ。

 例えまだ意識と呼べるものがない胎児でも、自分の呼び掛けに反応してくれると愛しさが増していく。生まれたての子犬や子猫を構っているときには誰でも同じことを感じるだろう。


 そんな僕の行為を優香も好んでくれているようだ。僕が子どもに触れ合おうとしていると、いつも彼女の心音は落ち着いた音に変わっていった。

 心音を聞けばある程度はその人の感情を読み取ることができる。複雑な感情は難しいけど、心が穏やかか乱れているかぐらいはすぐにわかる。

 お腹の子と遊べて優香を安心させることもできる。そんな素敵な方法を見つけたんだから僕がそれを性欲より優先するのは当然だろう。


 ただし胎児というのは数十分間隔で寝ている時間と起きている時間を繰り返している。そして僕は寝ている子どもをわざと起こしたりしない。

 だから子どもとの触れ合いの時には、1度や2度は子どもが目を覚ますまで待つことになる。いつでも寝れる姿勢で何十分も待っていると、いつの間にか寝てしまって翌朝にはスッキリした気分で目覚ますことになる。


 こういった僕が感じたり考えたりしたことについては、優香にきちんと伝えてるようにしている。そうでないと僕が無理をしてるとか、自分に女としての魅力を感じなくなってるとか、彼女に余計な心配をさせることになるからだ。

 心音は嘘をつかない。だから僕は少なくともベッドの上では彼女を幸せにしてると確信を持つことができている。


 ◇


 朝食の後は、勉強の前に株価の確認だ。僕が扱っている株は米国のIT企業が多いから、寝ている間に大きく変動していることもある。

 僕はAIに値動きを監視させている。想定内の動きであれば自動で処理をさせ、異常があればアラームで起きた僕が対応する。アラームより前に知人から連絡が入ることもあるけど、結婚後に夜中に起こされたことはほとんどない。


「ほら。これがAIの予測値でこれが実際の値動き。昨日はほとんどが予測の範囲内だね」

「これがAIのツールなの?」

「うん。僕が株を持ってる企業から提供してもらってるんだ。まだ一般公開はしてなくて僕はテスターとして参加してる」

「このAIってディープラーニングを使ってるのよね? 言葉を知ってるだけで、あんまり詳しくはないんだけど」

「ディープラーニングというか、人間の脳が学習する仕組みから考えられたニューラルネットワークだね。その研究から生まれたトランスフォーマーという学習モデルが、人間の自然な言葉を処理できるAIのベースになってる」

「それまでのAIとどう違うの?」

「以前のAIは人間が持つ知識をルールとして決めて、それに従って処理をしていたんだ。だから人間の言葉のような無数にパターンがあると、より高度な処理をさせるためには膨大なルールが必要になる。だから現実には限られた性能でしか作れない」

「じゃあ今のは?」

「データを使って機械が自動で学習するんだ。ルールの代わりに言葉の一つひとつに何万個もの属性を持たせてる。そして1兆個を超えるパラメータを使ってそれを計算してるんだ」

「属性ってどんな?」

「それが正確にはわからないんだ。人が考えた定義じゃなくて、世界中から収集した何十兆もの文章を学習した機械が勝手に割り付けてるんだ。『色』とか『大きさ』みたいな人間に理解できる意味とは限らないから、専門家が分析しても部分的に推測できるだけなんだ」


 僕の言葉を聞きながら優香の目が輝きだした。どうやら彼女の知的好奇心が働き始めたようだ。


「そうだとすると、AIの出力が間違っていたときに原因がどこにあるのか、人間には探せないんじゃないの?」


 おお……流石だな。そこにすぐ気がつくなんて。


「そうなんだ。学習に使ったデータを調べるとか方法が無くはないんだけど、それは簡単じゃないし確実でもない」

「誠はそんなときどうしてるの?」

「提供されたツールを使ってるだけの僕には、どうしようもできないよ」

「困るよね」

「そうだな」


 優香の視線が僕から外れて上を向いた。これは彼女が頭をフル回転させているときの仕草だ。


「興味が湧いた?」

「面白そう。今の話を聞いただけでも、どんな風に実現してるのか疑問がいっぱい湧いてくる」

「僕はAIを道具として使ってるだけだから、開発する側の詳しい情報は知らないんだ。もし興味があるなら僕から詳しい人を紹介できるよ」


 ◇◆◇◆


 それ以降、優香はAIに興味を持ったようで自分で色々と調べるようになった。単純な興味だけでなく、その知識が僕の仕事に役立ちそうなことが彼女にとっては大きかったようだ。

 僕のAIに関する知識は浅いけど、投資先の企業を通した知り合いには最先端の知識を持つ技術者が何人かいる。僕は彼らに優香を紹介することで、彼女が疑問に思ったことに回答を得られる環境を用意することにした。


 株取引のツールについて海外とのチャットで試用状況を報告することになった。僕はパートナーとしてそこに優香も参加させた。既に2人の間ではツールの効果や問題について何日も話し合っている。

 最初に彼女を紹介する際に、18歳で僕と結婚していて子どもも間もなく生まれる予定だと説明した。参加者のほとんどから驚かれたのは多分中学生くらいに見られたからだろう。


 僕がツールによる成果を報告した後に、優香がそれに関連するAIの技術面での質問を行なった。まだ技術的に未熟な彼女の質問には的を射てない部分もあったけど大筋では目の付け所が良いと褒められた。

 全員の報告が終わった後には、参加者の自由な疑問に技術者が答えてくれる時間が設けられた。優香はそこで初心者である自分が効率的にAIの開発技術を学ぶにはどうすればいいかと質問した。


 それからチャットはメインテーマだった議題を大きく超えて盛り上がった。可愛らしくて素直な子に親切なのは男として世界共通のようだ。

 意見にばらつきはあったものの、独学で興味のある分野から学ぶより大学で体系的な知識を得る方が近道だという結論になった。

 AIの開発では多くの分野の専門家と協力することが非常に重要なため、関連する分野のそれぞれの基礎知識を持っている必要がある。




 僕はAI以外にも優香が興味を持ちそうなネタを用意していたけど、彼女の積極的な様子からすると他の候補はもう考えなくて良さそうだ。

 これからの日本では、最先端のAIを扱える技術者は最も求められる人材の一つだろう。自ら道を切り開くことだって十分に可能だ。理数系科目で僕よりずっと優秀だった彼女なら、天性の実力をフルに活かせる場所を見つけられるはずだ。

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