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27 親戚会議

 午後になると鈴原家から年長者がいなくなった。連れ立ってどこかに出かけたらしい。


「すまない、誠」


 僕を見かけた春樹さんに謝られた。


「俺たちが誠から聞いた話を父さんたちに話したことで、何か問題になってるみたいなんだ」

「僕の話で?」

「誠は優香を恋人としてより家族だってことを優先してるんだよな?」

「優先というか切り替えてる。その話なら誰に言ってもらっても構わないよ」

「そうだよな? 普通にいい話だと思うんだけど、父さんたち、何を気にしてるんだ?」


 お義父さんとお義母さん、そして叔父たちと叔母たちが戻ってきたのは夕食の2時間前だった。その時は僕たちに対して特に何かを話したりしなかった。

 普段通りに、と言っても帰省時の普段だけど、協力して夕食を作って皆で食べた。


「神崎くん。聞きたいことがあるんだ。少しいいかな?」


 夕食から2時間ほど後、僕はお義父さんに呼ばれて応接室に行った。部屋の中には叔母の配偶者も含めた5人の叔父たちがいた。

 多分午後に出かけた理由である『問題』についての話だろう。ここに集まっているのが男だけということが問題と何か関係があるはずだ。


「優香も別の場所に呼ばれているんでしょうか?」


 その答えは沈黙だけだった。重苦しい、というより気まずい雰囲気が部屋の中に漂っていた。


「あの、それで何の用なんでしょうか」


 取り敢えず僕は、僕をここに呼んだお義父さんにそう尋ねた。

 お義父さんは困ったような顔で周囲を見ると、次兄叔父に目を止めた。次兄叔父は驚いたように自分を指さすと、いやいやというように顔の前で手のひらを振った。


「この話は、神崎君とあまり親しくない僕から聞いた方がいいかな」


 そう言ったのは長女叔母の夫だった。全員が首肯したのを見て僕に話しかけた。


「ふざけていると思うかもしれないけど、これは真面目な質問なんだ。神崎君は答えたくなければ答えなくていい」

「はい」

「神崎君。勃起はしているかい?」


 僕の話したことが問題になったというから、何かと思えばナニの話だった。


「ボッキというと、勃起ですか?」


 僕は確認のために自分の股間を指さした。


「そうだ」


 この雰囲気で下ネタ? そう思ったがお義父さんも含めて周りの表情は深刻なままだった。ここは医者に話すつもりで変に照れずに話した方が良さそうだ。


「してます」

「最近も?」

「朝はわりと」


 僕がそう答えると、叔父たちの顔に少し安心した表情が浮かんだ。


「精通は?」

「あります」

「マスターベーションはしてるか?」

「はい」


 質問している叔母の夫だけでなく周囲の皆もほっとした表情になった。三男叔父がお義父さんと目配せしてから応接室を出て行った。


「すまなかったな。おかしなことを聞いて」


 お義父さんが僕にそう謝った。


「いえ。僕の男としての機能を心配してたと言うことですね?」

「儂はそんなことは思ってなかったぞ。それなのに女どもが……」

「きっと男から聞かれた方が僕が話しやすいと思ったんですよ。他のことでも聞いてもらえれば答えます。大切な娘に関することですから気になりますよね」

「う、うむ」


 しばらくして、応接間のドアが勢いよく開いてお義母さんが入ってきた。後ろには三男叔父が立っている。


「順平さん。肝心なことを聞いてないじゃない」

「い、いや。あれで十分だろう」

「駄目よ。いま放っておくと後で取り返しがつかなくなることだってあるのよ」

「わ、儂には聞けん。優香と……その…」

「もう、仕方ないわね。誠くん。ちょっと来てくれる?」




 お義母さんに連れられて移動したのは和室の居間だった。予想と違ってそこには誰もいなかった。僕とお義母さんはテーブルを挟んで座布団の上に座った。


「誠くん。私がこんなことを聞くのは余計なお世話だと思われるだろうけど…」

「優香に関係することですよね。それなら遠慮なく聞いてください」

「そ、そう?」

「必要なことなんですよね?」

「私はそう思ってる」

「だったら、どんな質問でも答えます。あ、優香が傷つきそうだと思ったら別ですが」


 それを聞いたお義母さんは、一度深呼吸をしてから言った。


「誠くん。優香とベッドの上で抱き合って眠ったことがあるのよね?」

「はい」

「その時に、アレが立たなかったって本当?」

「はい」

「優香に対してそういう状態になったことは無いの?」

「……優香のことを考えてですか? ありました」

「ました? 今は?」

「最近はなかったと思います」

「優香の裸を見たときも?」

「そうですね。そういう光景じゃなかったので。感動するくらい優香は綺麗だったんです」

「……うーん……そんな感じなのね」

「拙いんでしょうか?」

「少しね」


 お義母さんは、視線を斜め上に向けて何か考え込んでいた。


「春樹くんたちに聞いたんだけど、優香に対しては恋人と家族が切り替わるそうね?」

「はい」

「最近、恋人に切り替わったことは?」

「しょっちゅうです」

「どんな時に?」

「普通に話してる時とか、基本はそうです」

「じゃあ家族になるのは? 誠くんが優香に対してエッチな気持ちになった時?」

「それは……」

「ごめんなさい。言い難いことを言わせたわね」

「そうじゃないんです。さっき立たなかったと言いましたが、本当にそうだったのかなと思って」

「どういうこと?」

「パジャマとかジャージとかの緩い服だと勃起してるかどうかは触ってみないとわからないんです。だから絶対にそうだったとは言えません」

「あ、そうなの」

「だから春樹さん達に説明したことは正確じゃなかったですね」

「あ、いえ。そこはそんなに重要じゃないの。いざとなって駄目なら同じだから。……いえ、全くというよりましなのかしら?」

「つまり、僕のそういったことが原因で優香との子どもを作れないかもしれない。それが心配なんですね」

「知り合いにそういう夫婦がいてね。早い内に性欲のない関係が当たり前になっちゃって、放置してたら後になって大変だったの」


 知り合いの話というのは、実際には自分や身内のことだったりする。きっと同じことで叔父たちや叔母たちが巻き込まれて苦労したから、僕たちについても黙って見ていられなくなったんだろう。


 実を言うと、亡くなった優香の祖母からそれっぽい話は聞いていた。多分次男叔父のことなんだろう。それにこうやってお節介なぐらい身内に干渉することも聞いていた。

 お互いに身内としての距離感が普通の家族より近いため、問題が起こると家族会議が始まることは過去に何度もあったそうだ。


 僕としては優香との関係をゆっくり進めるつもりだから、しばらくはこの状態でも問題はない。それをお義母さんにも説明しておいた方がいいだろう。


「優香とはかなり先まで子どもを作るつもりはないんです」

「え?」

「お腹の子どもが生まれたら子育てが始まります。それをお義母さんに手伝っていただいてもすぐに受験勉強が始まります。大学に入って充実した学生生活を送るには、周りの協力があっても最初の子どもを育てることで手一杯でしょう。そこまでで5年半です。更に就職すればすぐに産休というのは拙いですから、何年間かは出産を控えた方がいいでしょう」

「……誠くんはそれでいいの?」

「これは僕が希望したことです。優香には子どもが生まれてから相談するつもりでした。優香はこれからまだまだ成長します。できるだけ自由な時間を持って欲しいんです」


 そう言うと、お義母さんは優しい顔になって僕を見た。それから表情を引き締めるとまた僕に話しかけた。


「誠くん」

「はい」

「厳しい言い方になるけど、貴方、勘違いしてない?」

「はい?」

「セックスって、子どもを作るためだけにするんじゃないのよ」

「もちろん。普通はそうです」

「普通じゃないの?」

「結婚を申し込んだ時に優香と約束したんです。セックスはしなくていいって」

「え? 優香が貴方にそんなことを?」

「提案したのは僕の方です。あの男は優香にかなり強引に性行為を迫ったようなので、まずそれについて安心して欲しかったんです」

「……つまり、優香のためなのね?」

「はい」

「わかったわ。優香とも話さないと駄目みたいね」

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[良い点] 読者が気にしていた、すごく大事な話に恐れずに踏み込むところ、
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