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26 従姉妹たち

 帰省中の鈴原家では昼食でそれぞれが外食することも多い。だから家では腹の減ったある程度料理のできる人が、他に食べたい人を確認してその人数分だけ作っている。

 僕はこれまで作ってもらってばかりだったので、今日は冷麺を作ることにした。優香とJK従妹の鏡花ちゃんが手伝ってくれることになった。


「わあっ! すごく手際がいいですね」

「こういう切ったり茹でたりするだけの料理は得意なんだ。手間のかかる料理は優香に任せてる」

「……冷麺を手間がかからないって言う男は嫌われますよ」

「えっ?」

「実際に作りながらなら違いますけど」

「あっ、そうなんだ。安心したよ」


 優香以外のJKと親しくなる機会を得たので、僕は鏡花に彼女の感覚で直した方がいいと思う言動を指摘してくれるように頼んでいる。


「参考のために聞きたいんだけど、鏡花ちゃんは僕みたいな男のことをどう思う?」

「え? 素敵だと思いますよ」

「それは料理を作ってるから?」

「それも1つですけど、一番はやっばりユカねえに対する恋人としての態度ですよね」

「容姿は気にならない?」

「そんなに悪くないですよね?」

「この家ではダントツで最下位だと思うんだけど。鏡花ちゃんは恋人の見た目を気にしない方なのかな」

「んー。どちらかというと、気にする方ですよ」


 鏡花は笑顔でそう言った。


「だったら僕に馴れ馴れしくされたくないとか思わない? 妻帯者だから圏外なのかな。いや、口説いてるわけじゃないからね」

「わかってますって。神崎さんは男性として魅力的だと思います。あたしが顔を気にするのは、あんまりいい思い出がないからです」

「そうなんだ。できればもう少し詳しく教えてくれないかな。僕自身が失敗しないための参考にしたいから」


 僕の言葉に鏡花は笑ってみせた。


「神崎さんは大丈夫です。あたしが付き合ってた男の子とは全然違いますから。あの人も最初は誠実な人だと思ってたんですが」

「何が悪かったのかな?」

「あたしと付き合いだしたら周りの男の子に羨ましがられたんです。そしたら段々調子に乗って、あたしのことを自慢するようになったんです。他の女の子のことをイマイチと言ったりとか」


 あー、そうなっちゃったか。


「自慢されてるんだから嬉しいはずだと思ってるんですよね。それであたしがちょっと楽な格好をしたら文句を言ったり。それも他人から聞いた服の評価で」

「わかった。確かに僕ならそんなことはしない」

「それに、ハーレム物ってあるでしょ。そのアニメに夢中だったりするんです。あたしも最初の方だけ見たんですけど、女の子がびっくりするぐらい簡単に主人公を好きになるんですよね」

「あくまでファンタジーだから。特別な力があったり、努力したらとんでもなく強くなれたりするのと同じだよ。そういうのに憧れるんだ」

「女性向けでも似たようなのが多いから、本人が現実としっかり区別できてるならいいんです。でも恋人なら相手の言葉にもっと喜ぶべきだとか、言わなくても自分の気持ちは理解できるはずだとか。向こうはこっちの気持ちを全然わかってないのに」


 告白して受け入れられると、それで安心してしまうタイプだったのか。


「心ってのは状態じゃなくて変化なんだよね」

「変化? どういう意味ですか?」

「心理学とかで言われてることだけど、色々な刺激による感情の変化が積み重なって心になるんだ。だから常に互いに刺激をし合わないでいると、好きって気持ちも弱まっていくと思ってる」

「そうなんですか?」

「心の中に本人とは違う理想像を作って、それを大好きになる人もいるけどね」

「あー……」

「僕は今でも優香の気持ちを知って驚くことがあるよ。考えることが完全にわかる相手なら一緒にいてこんなに何度も喜べなかったと思う」

「あたしの知ってる限りでは、顔が良くてそれなりに女の子と仲良くしてる人の方が相手に過剰な期待をしないんです。1人の人間として見てもらえてる気がします。男の方だけの話じゃないですけど」


 なるほど。相手に対しての理想が高過ぎることが嫌われる原因になるのか。


「ありがとう、教えてくれて。僕は優香以外の女の子を知らなくて彼女を飛び抜けて素敵な女性だと思ってるんだ。そのせいで優香を傷つけたりしないように気をつけるよ」

「……ごふっ」

「え?」


 『ごふっ』? むせた時に口から出るような言葉だけど、鏡花はただ声でそう発音しただけだった。


「何て言ったの?」

「あ、いえ。気にしないでください」

「ネットスラングみたいなもの? 悪い意味じゃないんだよね」

「むしろ逆です。あ、ユカねえに流れ弾が」

「えっ? どうした、優香」

「心がこもってる言葉だから貫通力がすごいんですね」




「あっ、美味しい!」


 JD従姉の結衣さんが驚いたように言った。


「そう? ありがとう」

「タレは誠お兄ちゃんの手作りなんだよね」

「料理まで上手だなんて。一見して目立たない感じなのに、これは心構えが必要かも」

「聞こえてるよ。結衣お姉ちゃん」

「来年には就職なんだよね。大丈夫?」

「じぶんが行く所は女子社員がほとんどで、男は中年以上の管理職しかいないから」


 つまり、結衣さんは男が苦手ということか。


「女子校卒で男に免疫がないから、簡単に惚れるんだけど冷めるのも早いんだ」

「イケメンしか駄目だったんじゃないの?」

「顔がイケメンかは問題じゃないの。女の子への振る舞いがイケメンかどうかなの」

「そうなの?」

「顔がイケメンじゃないと普通はイケメンな振る舞いをしないんだよ。フツメンがカッコつけると周りから冷たい目で見られるから」

「なるほど。確かに誠お兄ちゃんみたいな人は珍しいよね」


 あれ? 僕のこと? 確かに僕はフツメンだけど格好をつけたりしてないよね。


「結衣さん」

「は、はい」

「僕を見ていて気になることがあるなら教えてください。皆にもお願いしているんです」

「気になること?」

「優香の夫になるために女心を勉強しているんです」

「もう結婚してるよね?」

「籍は入れました。でもそれで優香の夫として相応しい人間になれるわけじゃないので」

「はあぁぁ」

「え?」

「失礼。なんでもないです」

「なにしろ相手は優香ですから。彼女に対して自分の相応しくないところを毎日実感してるんです」

「神崎さん。ユカねえのダメージはまだ回復しきってないから」

「……そんなセリフ。平然と言う人を初めて見た」

「結衣お姉ちゃん! そんな失礼…」

「魂がイケメンなんだね。もしかして転生してる?」


 茶化している様子もなく結衣さんが言った。


「あ……これは拙いんじゃない?」

「誠お兄ちゃんは、優香お姉ちゃんの旦那さんだよ!」


 それはもう結衣さんに改めて自己紹介した時に言ってるんだけど。


「結衣さん。僕にはイケメンだった前世の記憶はありません。小学校の時に優香を好きになって、彼女を知れば知るほど他にはいない人だとわかって惹かれていっただけです」

「そうなんだ。本当に素敵……」

「結衣お姉ちゃん?」

「イケメンが言うとチャラく見える時もあるけど、朴訥な感じでこんなセリフを吐かれた方が胸にくるんだ。じぶんが好きだと思ってたのは本物じゃなかった。ありがとう。もう迷ったりしない。いつかじぶんにとっての誠くんを見つけるから」

「えっ! それは逆の意味でマズいよ。そんなこと言ってたら永遠に……」

「大丈夫。じぶんにとって何が理想なのかがはっきりと見えたから」

「だから駄目なんだって」


 もしかして、結衣さんは僕と優香を理想のカップルだと褒めてくれている?

 それを否定している鏡花だけど、彼女の様子から見て悪い意味じゃないようだ。さっき彼女と話したように、理想の押し付けがお互いを傷けないよう忠告してくれてるんだろう。


 僕は彼女たちから視線を外して、さっきから一言も発してない従弟(すすむ)を見た。彼は誰とも目を合わせずに黙々と冷麺を啜っていた。

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