第8話 初めての公爵様との会食
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グラッセ公爵家の朝食は朝の七時からなのだが、ソフィアは十分前に食堂へと入室した。
だが、まだジークハルトは訪れていないようなので、先に席につくわけにもいかない。
ただ、ぼんやりと立って待っているのも性分に合わないので、ソフィアは食堂内ですでに待機をしている給仕や執事らに挨拶をして回った。
「皆さま、おはようございます」
「おはようございます、奥様」
皆、笑顔で受け答えをしてくれるので、ソフィアの心中に嬉しい気持ちが湧き立つ。
思えば、この屋敷に移住してから初めて食堂に足を踏み入れたので、とても新鮮な気持ちである。
そもそも、実家では気がつけば屋根裏の私室で食事をしていたし、アカデミーでは食堂で一人で食事をしていたので、食堂で誰かと食事をしたことはほとんどなく、これからそれができるのだと考えるだけで胸が熱くなった。
そして、食堂の扉が開き一同そちらに視線を移す。
両方の壁際で待機をしていた使用人らは、一斉に辞儀をした。
ウエストコートを身に着けたジークハルトが入室したのだ
「おはようございます、旦那様」
「ああ、おはよう」
ソフィアは、軽やかに自席へ腰掛けたジークハルトの側に近づきカーテシーをした。
「おはようございます! 公爵様」
「……ああ」
ソフィアの勢いのよい挨拶に押されたのか、ジークハルトは目を細めた。
それから、ソフィアも向かいの席に着席し、まもなく食事が次々と運ばれて来た。
なお、公爵家ではジークハルトが朝食に時間を割ける時間があまりないため、食事が一度に提供されているのだと先ほど使用人らから教えてもらった。
今日のメニューはオムレツと焼きたてのパン、コーンポタージュである。
オムレツの中には二種類のキノコが入っていて、とても美味しい。
付け合わせのマッシュポテトには、ヨーグルトがあえられているのか味のアクセントになっていて、オムレツとの相性も抜群だ。
コーンポタージュはコーンの味が濃厚に感じられて、口に含んだ途端思わず顔が綻ぶ。
この感動を是非伝えたい!
そう思うのだが、ジークハルトの雰囲気が重くとてもいい出せそうになかった。
ともかく、食事に集中することにしたが、いつか食事の感想を誰かに言えるようになればとソフィアはそっと思った。
そして、食後。
美味しい食事の余韻に浸っていたい気持ちは強かったが、多忙なジークハルトはおそらくこのあとすぐに身支度をし、仕事へと出かけなければならないだろう。
なので、ソフィアすぐに気を引き締め、背筋を伸ばして意を決した。
「公爵様、お願いがございます」
「ああ」
ジークハルトは口元をナプキンで拭うと、右手を上げた。
すると、傍に控えていた給仕係や侍女らが辞儀をしてから速やかに退室した。ただ、家令のトーマスのみは残った。
ソフィアは、深呼吸をすると意識して「感動スイッチ」を切り替えた。
「それで、君の話とは何だ」
「は、はい。実は、わたくしにこのお屋敷の女主人のお仕事のお手伝いをさせていただきたいのです」
「……それは、なぜだか聞かせてもらおうか」
ソフィアの心臓が、ドクンと跳ねた。
「はい。わたくしは以前にお飾り妻に励むと申し上げましたが、すでに公爵様や公爵家には一宿一飯、いえ、これからのことを考えますと三十飯も百飯ものご恩があります。ですので、そのご恩を返したいと思い立ちました。もちろん、わたくしがそれを行っていることは公表しないでいただければと思っております」
「……そうか」
あくまで冷静に説明をするソフィアに対して、ジークハルトは無表情を変えなかった。
「君の考えは理解したが、そもそも女主人がどのような仕事をするのか分かっているのか? いくら手伝いといえども、もし損害を出したら私は君に全面的に賠償を請求しなければならなくなるのだが」
「はい、存じております。加えて責任を負う覚悟もできております」
普段は勢いよく返事を返すソフィアだが、今は真剣な瞳をジークハルトに向けていた。
「では、女主人の仕事内容を答えてもらおうか」
瞬間、ソフィアは目を見開くが、すぐに頷いた。
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