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第5話 ジークハルトの事情

ご覧いただき、ありがとうございます。

 ジークハルトは、実母の影響で貴族の女性が苦手である。


 なぜなら、彼の母親は社交界に自分の存在価値を見出したような人で、毎日どこかで開催されている夜会へと出かけていき、ジークハルトとはほとんど顔を合わすことすらなかったからである。


 ただ、時おり会ったときに会話は交わしたが、従来貴族は子供の世話は乳母に任せるものなので、母親も例外なくジークハルトとほとんど関わろうとしなかったのだ。


 だが、ジークハルトが幼いときに、彼女の夫である前公爵の顔色を窺うときにだけ自分を連れ出して溺愛しているかのように接したが、夫の関心が母親にないことが分かると彼女はことごとくジークハルトに当たり散らし、体罰もした。


 挙句の果てには、不倫相手の子供を身籠り駆け落ちをしてしまった。

 そんな経緯があったので、彼は貴族の女性に対して嫌気がさしたのだ。


 加えて、以前に自分の意見は押し殺し家のためだと自分に言い聞かせながら、伯爵家の令嬢と婚約をしていたこともあったのだが、彼女が魔法道具事業に関して社交界に情報を流してしまったのでその話は破談となった。


 ちなみに、その情報は尽力をして何とか広まるのを防ぐことができたのである。


 そのようなこともあり、ジークハルトは貴族女性に対して嫌悪感を抱きますます拒否反応を強めたのだ。


 だが、国王からは結婚しろと何度も言われ、とうとう結婚をしなければ爵位を養子に継承する際に必要となる授爵状の発行を許可しないとまで宣言されてしまった。

 

 国王としては、建国に関わるグラッセ公爵家の血統を絶やさないための発言であり本望ではなかったのかもしれないが、そこまで言わなければジークハルトが動かないことを考慮していたのだろう。


 なお、現在公爵家の直系の血筋は引退した父親、ジークハルトと姉のアリア、アリアの二人の子供である。

 だが、姉のアリアは伯爵家へと嫁いでいるのでそちらの爵位の関係もあり、国王としてはやはりジークハルトが世継ぎを残すのが好ましいと考えているのだろう。


 なお、契約結婚の期間が一年間なのは、現在十歳の姉の子供であるテナーに将来爵位を継承させる授爵状の発行手続きが完了するまで一年かかるからだ。


 ちなみに、テナーが爵位を引き継ぐのは、彼が成人してから何年も経ってからなのでまだ時間はある。

 その時までに、自分が公爵としてやれることを存分にやれば問題ない。そう彼は考えたのだ。


 もちろん、ジークハルトはこれからも本当の結婚をすることも子供をもうけることも考えていなかった。

 国王からは「一度でも結婚するように」と言われているので、たとえ離縁をしたとしても結婚をしたという事実があれば支障はないだろう。


 ◇◇


帰宅後、ジークハルトはすぐに私室へと戻り身につけているフロックコートを脱いでコートスタンドに掛けた。

手慣れた手つきで私室用のシャツに着替え、簡易的なウエストコートを羽織り執務室へと向かう。

先日ソフィアと対面した際はフロックコートを身に着けていたのだが、執務室や食堂など通常私的な所要の際はこのように袖なしのウエストコートのみで過ごすことが多いのだ。


 現在は二十一時半を超えており、夕食は商会の食堂で済ませて来ているし、今は公爵家の仕事を少しでも片付けておきたかった。


 帳簿や管財人からの報告などは現状では女主人が不在であるので家令のトーマスに任せているが、細かいところや決裁が必要な書類の処理などはジークハルトが行わなければならない。


 毎月、月末には書類の処理を終えて月はじめに備えるようにしており、今は月末ということもあり未処理の書類の整理を少しでも行っておきたかった。

 

 なので、彼は入室するなり光魔法系統の魔法道具を起動させてから執務机と向かった。


 万年筆を走らせていると、扉から不意にノックの音が響き渡った。

 気がついたら、作業を始めて三十分ほど時間が経過していたようだ。


「旦那様、お帰りなさいませ。お時間を少々よろしいでしょうか」

「ああ、構わない」

「失礼いたします」


 現在の時刻は二十二時を過ぎており、家令のトーマスがこのような遅い時間にジークハルトの執務室を訪れることは珍しいことであった。

 トーマスは遅い時間にも関わらず、家令専用の衣服をきちんと身につけている。


「何か書類に不備があったのか」


 今日はトーマスに決裁書類のチェックを依頼していたので、その件で報告があるのかもしれない。


「いえ、書類に不備はございませんでした」

「では何用だ」

「はい。一つ奥様から言伝がございます」

「妻?」


 ジークハルトは一瞬なんのことかと身体を固くしたが、すぐに先日招いたソフィアのことが思い当たった。


そもそも、ソフィアがこの屋敷に住み始めてから今まで会ったのは一度であるし、書類上のみの関係なので自分の妻と言われてもピンとこないのだ。


ただ、自分の都合で彼女とは期間限定の結婚の契約を交わしているのでそのような心持ちでいること自体申し訳が立たないのだが、どうにも貴族女性のことが苦手なので接しようという気持ちは湧かなかった。


「ああ。彼女がどうかしたのか」


 ソフィアは意気揚々とお飾り妻に励むと宣言していたが、その実、金や宝石類を無心しようとしているのではないかと思う。

 ジークハルトは、これまで無防備そうに見せかけて実は肉食獣的な貴族女性に、何度も狙われてきたのだ。


「はい。近いうちにお会いしたいとのことでした」

 

 ジークハルトは内心でため息を吐いた。

 面会など、会ってどうしようというのだ。多忙で中々時間も取れないのもあるし、そもそも先ほどのような金銭の要求などをされたら厄介だ。


「そうか。だが、それは難しいだろうな」

「左様でございますか」


 トーマスは、少し間を置いてから切り出した。

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