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【書籍発売中】1年間お飾り妻のお役目を全力で果たします! 〜冷徹公爵様との契約結婚、無自覚に有能ぶりを発揮したら溺愛されました!?【完結】  作者: 清川和泉
第4章 お出かけ

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第33話 馬車の中での不可抗力…!

ご覧いただき、ありがとうございます。

 二人を乗せた馬車は、屋敷を出発したのち徐々に加速し、現在は一定のスピードを保ち走行している。


 ソフィアとジークハルトはお互いに向かい合って腰掛けており、彼女はこれまで殿方と二人きりで馬車に乗車したことがなかったので、実のところ心臓が騒がしかった。


(旦那様と馬車の中で二人きり。き、緊張します……! はっ、このような時は、どのような対応をとればよいのでしょうか……!)


 ソフィアがドキドキと高鳴る鼓動を抑えようとその場で大きく深呼吸をしていると、ジークハルトがコホンと一つ咳払いをした。


「ソフィア。今日の君の服装だが」

「は、はい!」

「その淡い色味が、君にとてもよく似合っている」

「‼︎」


 ソフィアは大きく目を見開いて固まった。

 本来、淑女の反応としてはあまりよろしくないかもしれないが、誰かから何度褒められても中々慣れないので褒められる度に一瞬、意識が遠のいてしまうのだ。


「あ、ありがとうございます! 旦那様のお召し物もとてもよくお似合いです!」


 感動スイッチが入り思わず感極まって答えたが、ソフィアはジークハルトの紺のウエストコートは彼の黒髪によく映えていて彼と玄関で会った時からとても似合っていると思っていたので素直に伝えたのだ。


「君にそう言ってもらえると、非常に嬉しいな。……ありがとう」

「‼︎」


 たちまちソフィアの顔面は真っ赤に染まった。

 耳までも真っ赤である。


「い、いえ、そ、その!」


 ソフィアがしどろもどろになっていると、ジークハルトは再びコホンと咳払いをした。


「……ただ、君が今身につけている衣服はとても似合っているのだが、何分それは私の姉が嫁入り前に身につけていた衣服を直したものであるので、今日は君が本当に身につけたい衣服を仕立てたいと思うのだ」


 ジークハルトの言葉をストンと受け止めると、それは自分自身に向けられた言葉なのかという疑問が浮かぶが、振り返っても当然誰もいないので自分に対してのものだったのかと実感する。


「わ、わたくしの衣服……を仕立てる……?」


 まるで、自分の身に起きる事象ではないことのように感じ、再び気が遠くなりかけていると馬車がガタンと揺れた。


「きゃ!」


 思わぬ振動に姿勢を保てなかったので、ソフィアの身体は抗う余地なく座席の前方に投げ出された。


「大丈夫か?」

 

 ジークハルトは、投げ出されたソフィアの身体を咄嗟に抱き止める。


 ソフィアの思考は真っ白になったが、すっぽりとジークハルトに抱きしめられているので力強い鼓動が彼の胸から伝わってきた。

 思わずソフィアの身体は硬直したが、心のどこかで心地よさを感じる。


「ソフィア?」


 ソフィアが長らく返事をしなかったので不思議に思ったのか、ジークハルトはソフィアの顔を覗き込んだ。


 突然、視界にジークハルトのダークブラウンの瞳が入ってきたので、気を遠くしていたソフィアの意識が戻る。


「だ、大丈夫です……」


 何とか気を振り絞って答えると、ノックの音が響いた後に扉が開いた。


「旦那様、奥様。目的地に到着いたしました」


 思ってもみない第三者の介入にソフィアの思考は途切れるが咄嗟に声のした方に視線を向けると、そこには唖然とした様子の御者が立っていた。


「お、お取り込み中に、申し訳ありません!」


 瞬間、ソフィアの血の気はさあっと引いていく。


(もしかして、御者の方にとんでもない勘違いをさせてしまったでしょうか……。ご、誤解を解かなければ……!)


 ソフィアは意を決して口を開こうとするが、その一歩前にジークハルトが言葉を発する。


「ご苦労。私たちは少々準備をしてから降車するので、馬車の付近で待機をするように。また、これからは返事をしてから開けるように」

「はい、かしこまりました。大変失礼をいたしました」


 御者は速やかに扉を閉めると、ステップを踏んでいるのか振動が響いてきた。


 ジークハルトは、そっとソフィアの両肩に手を掛けて補助をし、向かいの席に彼女を座らせる。


 ジークハルトがゆっくりと離れたあとも、彼の温もりが身体に残っているようなそんな考えが巡り、ソフィアの思考は文字通りパンクした。


(キャパオーバーです……)


 そう思いながら、ソフィアは両頬に手を当てた。


「大丈夫か?」

「は、はい! それよりも旦那様。御者の方ですが」

「ああ。そうだな。ノックの返事を聞いてから扉は開くべきだな」

「い、いえ」


(気になるのはそこなのですね……)


 そう思いながらソフィアはジークハルトの方に視線を向けると、彼が優しく微笑んだのでしばらく鼓動の高鳴りは続いたのだった。

 

 その後、ソフィアはジークハルトのエスコートで馬車のステップを踏んでゆっくりと降車した。

 続いて、別の馬車で同行している執事のセバスと侍女のテレサも二人に合流した。


「わあ、こちらが仕立て屋さんなのですね!」

「ああ。本来なら仕立て屋は屋敷に呼ぶのだが、今日は街に出掛けるのが目的なのでこういった趣向もよいだろう」

「は、はい! お食事会の準備の際に初めて仕立て屋の方とお会いいたしましたが、わたくし、一生のうちに一度仕立て屋さんに入ってみたいと思っていたのです! 本当にありがとうございます!」


 ソフィアのその言葉を受けてか、ジークハルトとお供の二人が眉を顰めた。


(わ、わたくし、余計なことを言ってしまいましたでしょうか……)


「……君は、仕立て屋に来るのは初めてなんだな」

「は、はい! こういった場所があることはこれまで学園に通う際馬車の中で見たことはありましたが、実際に訪れたことはなかったのでとても嬉しいです!」


 キラキラとした表情でそう言い切るソフィアに対して、ジークハルトは少し表情を和らげた。


「……私も大概だが、君の両親はとことん最低だな」

「旦那様?」


 ソフィアは、今の話の流れでどうして両親のことが持ち出されるのか不思議に思ったので疑問を投げかけたが、ジークハルトは問いには答えず代わりにソフィアの手を取った。


「さあ、行こうか」

「はい!」


 そうして、ソフィアはジークハルトに連れられて入店したのだった。

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