第21話 人の気配は安心します
ご覧いただき、ありがとうございます。
それから、ソフィアは湯浴みを終えると自室へと戻った。
尤も、今は普段の彼女の私室ではなく、食事会が開催されている間のみ「夫人の私室」を使用しているのだが。
「今日はとても緊張をしましたが、なんとか切り抜けられたようで安心いたしました」
ソフィアは部屋の中央に置かれたソファに腰掛けて、小さく息を吐いた。
普段なら湯浴みが終わったあとは読書をして過ごしているのだが、今は普段とは違う部屋にいて勝手が違うので時間を持て余しているのだ。
「こちらのお部屋には本棚は置いていないのですね。……そもそも、あまり家具が置かれていないようです」
部屋自体はとても広く、シャンデリアや華美な壁紙など内装にはこだわりが感じられるのだが、何分元々置いてあったと思われる位置に置かれていない家具などもあり、どこか寂しさも感じる。
「こちらのお部屋を使用していたのは、当然先代の公爵夫人かと思いますが、過去に何かあったのでしょうか……」
呟くと、先ほどのアリアの言葉が過った。
『過去にあのようなことが……』
とても意味深な言葉だが、本来は部外者であるソフィアには立ち入れないことだろう。
加えて、そもそも夫婦の部屋を同室にしていた可能性もあるので、その場合は隣室の夫の部屋を自室にしておりこちらの部屋はあまり使用をしていなかった可能性もある。
また、ジークハルトと初対面のときに彼は「寝室は分ける」と言っていたので、グラッセ公爵家では元々寝室は夫婦同室が基本なのかもしれない。
「それにしても、お義姉様方を騙してしまうようなことをしてしまい心苦しいですね……」
突然、ジークハルトの妻になったと現れた自分に対して彼の親族が好意的に接してくれるなどまさか夢にも思っていなかったので、その好意を嬉しいと思う反面、罪悪感も湧き上がるのだ。
「……せめて、お義姉様や公爵家のために何かお役に立ってからここを去りたいです」
小さく呟くと、ソフィアは寝台に潜り込んで操作盤を手に取り魔法道具の灯りを消した。
だが、慣れない寝台のためなのか中々寝付くことができず、幾らかときが経つと内扉付近から何か物音が聞こえた。
扉を開閉する音のようなので、どうやら隣の部屋のジークハルトが私室に戻ってきたようだ。
(旦那様は、どこかに行かれていたのでしょうか? ……もしかしたら、お義姉様方とお話をされていたのかもしれないですね)
そう思うと、少し胸の支えが取れたように感じる。
元々、あまり交流がない家族だと使用人らが話をしているのを以前に聞いたので、少々心配をしていたのだ。
(隣の部屋に人の気配がするのはとても新鮮ですが、なんだか安心します……)
そして、ソフィアは硬直していた身体が少し解れ、いつの間にか眠り落ちていた。




