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第20話 心配なさらないでね

ご覧いただき、ありがとうございます。

 食事会が終わり、ジークハルトたちは私室へと戻ったが、ソフィアとアリアは一階の応接室へと移動をした。


 ちなみに、ジークハルトの叔父と叔母は食事会が終わると帰宅したが、アリアの家族やジークハルトの父親は屋敷の客室で一泊してから帰宅する予定である。


 そして、入室しお互いに向かい合ってソファに腰掛けると、すぐにアリアが切り出した。


「単刀直入に言うわね。ソフィアさん、この結婚生活に不安はない?」

「はい。皆さんよくしてくれておりますし、何の不安もありません」


 ソフィアは、思わずいつものように勢いよく言い切りそうになったが、アリアを驚かせてはいけないと思いすんでのところで堪えた。


「けれど、急に決まった結婚であるし結婚式もこれからでしょう? そのことに不満はないのかしら」

「いいえ、特にはございません」

「そう。それならばよかったけれど……」


 アリアは、ティーカップを手に取り優雅な仕草で口につけると、再びテーブルの上に置いた。


「ソフィアさん。あなた方の結婚式のことなのだけれど、もし、妊娠や出産の時期と重なったら日にちを延期したり様々な配慮をすることもできるので、その件に関しては心配なさらないでね」


 ソフィアは瞬間、目をパチクリと瞬かせた。


(妊娠、出産? どなたか吉事があるのでしょうか。……い、いえ。そうでした。わたくしはあくまで旦那様の妻でしたね)


「はい。ご配慮をいただきましてありがとうございます」

「最近では多いのよ。貴族の間でも結婚後に式を挙げることが。元々婚約をしていた場合はあまりないようだけれど、夜会などで出会った場合は特に」

「さようでございましたか」


 ソフィアは、そういった方面には疎いので純粋に言葉どおりに呑み込んだが、どこかアリアの言葉に含むところがあるようにも感じられる。


「……なので、突然ジークから男爵家の令嬢と結婚をすると聞いたときは、もしや吉事があったのかと思ったのだけれど……。過去にあのようなこともあったわけであるし、わたくしたちは彼が結婚をすることにもうほとんど望みを抱いていなかったの」


 思わぬ言葉にソフィアは目を見開くが、過去に何かが起きたので、ジークハルトの親族から思ったよりも歓迎されているのかもしれないと思った。

 ただ、「あのようなこと」については心当たりはないのだが。


「けれど、ソフィアさんは率先して公爵家の仕事を行ってくれているし、ジークとの関係も良好に築いてくれているわ。何よりも、今まであのジークが人を褒めているのを聞いたことがないの。本当に、あなたには感謝をしてもしきれないわ!」


 ソフィアは、再び身体の熱が一気に高まったように感じた。


「そ、そんなご過分な……」

「いいえ。あなたはとても凄いのよ。お礼を言わせて欲しいわ」


 アリアは目を細めてから小さく息を吐き出し、小声で切り出す。


「……あまり、伝える機会もないだろうから、よい機会なのでハッキリと伝えておくわね。授爵の件に関して実はわたくしはあまり乗り気ではないの。なので、ソフィアさんは何も気を負わなくてよいのよ」


 ソフィアは再び目を瞬かせた。


「授爵の件ですか?」

「ええ。……ごめんなさい、一気に語ってしまったわね」


 アリアは扇子を開き口元に当てた。


(爵位の件とは……。そういえば、お義姉様はわたくしと旦那様の間に……その……)


 それ以上はうまく思考が追いつかなかったが、なんとか気を振り絞った。

 先ほどの言葉から推測をすると、アリアはどうもジークハルトはソフィアとの間に婚前に実子を授かったと思ったようだ。


 また、どうもジークハルトはそういったことがなければ、結婚自体をしないのではないかと思われていたと考えられる。


 加えて、ジークハルトの立場であれば幼い頃から婚約者がいてもおかしくないし、ましてやこれまで何度も夜会に出席しているはずなので同伴者もいたと思われるが、使用人らはそういったことを話題にしないので不明点も多いのだ。


 更に、授爵の件は乗り気ではないという言葉により、ある程度のことを推測をすることができた。


(そうです。おそらく、アリアさんのお子さんのテナーさんがエバンス公爵家の爵位の授爵をする手筈となっているのですね)


 そうソフィアが思いを巡らせていると、アリアは片目を瞑った。


「そうそう、テナーに対しての配慮をありがとう。あの子、水属性の魔力が強いからカトラリーが銀製だと変形させてしまうことがあるのよ。普段の生活は大丈夫なのだけれど、あの子から無意識に溢れている水系魔力は銀くらい強度が弱いものだと、どうも相性が悪いみたいなの」


 アリアは、流れる仕草で自身の髪を掻き分けた。


「もちろん、テナー専用のカトラリーを用意してあったのだけれど、どのようにすり替えようかと思案をしていたら、カトラリーが特別製だと気がついたの」


 ソフィアは、小さく頷く。


「そうでございましたか。……やはり、属性の変換が行われていたのですね」

「ええ。最初はわたくしと同じ火属性だったのだけれど、最近『属性変換』が起こってね。ただ、変換は珍しいことなので、できれば周囲にはあまり悟られたくはなかったのであえて隠していたの。よく分かったわね」


 ソフィアは小さく頷いた。


「はい。最近、食事の嗜好が変わったとリストに記載されておりましたので」

「あら、それはどういうことかしら」

「はい。属性の変換が行われると食事の嗜好が変化すると聞いたことがあったものですから」


 補足をすると、そもそも属性の変換とは名称のとおり属性が変わることを指し、それが起きると食事の嗜好が変化したり聴覚が鋭くなったりと、個人差はあるが何かしら人体への変化が現れる可能性が高いらしい。


 また、属性の変換は大体五歳から十五歳くらいの間に起きるものなのだが、その発生率は子供の総数の一割にも満たないほど低い。


「ソフィアさんはアカデミーでは普通科だったということだけれど、魔法に関しても精通しているのね! ……これは一度、是非商会の方でも助言を受けたいわね」


 アリアは立ち上がり、口元に扇子を当てた。


「今日はソフィアさんとお話しをすることが叶って、本当によかった。それで相談なのだけれど、もしよろしければ後日、商会の方に来ていただけないかしら?」

「商会ですか?」

「ええ。わたくし、経理を担当しているのよ。週に二日ほどの出勤ではあるけれど」

「そうでございますか……!」


 聞くところによると、アリアは伯爵家の女主人の仕事もしっかりと行い、更に週に二日であるが外に働きに出ているとのことである。


 貴族の女性が、外に働きに出ていることは珍しいことである。


「お義姉様は、聡明な方でいらっしゃいますね!」

「あら、そうかしら?」

「はい!」


 満面の笑みを浮かべるソフィアに、綺麗な顔立ちのアリアは目を細めるが口元を緩めた。


「あなたこそ、とても食えない人のように思えるけれど、……ともかく、商会の件はジークに伝えておくけれどよいかしら」

「はい。よろしくお願いいたします!」


 そうして、アリアは応接室を退室して行った。

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