第12話 旦那様とお呼びしてもよろしいのでしょうか?
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「公爵様と一緒にお食事をいただくことが叶い、とても嬉しく思います!」
翌日の夕方。
ジークハルトは商会の仕事が落ち着き珍しく夕方に帰宅することができたので、ソフィアを夕食に誘った。
ソフィアは桃色の鮮やかなドレスに身を包み、頬紅や口紅も桃色で統一されている。
ジークハルトは、それらは彼女にとても似合っていると思った。
食事の工程が次々とこなされていき、いよいよメインディッシュの運びとなった。
今日のメインディッシュは白身魚のムニエルだが、ソフィアは綺麗な動作で切り分けて口に運ぶと、弾けるような笑顔を見せた。
ジークハルトは思わず見惚れるが、ソフィアは何かを言いたそうに何度かこちらに視線を送った。
「何か、私に言いたいことがあるのか?」
訊ねるとソフィアは身体をびくりと小さく跳ねさせてから、ナプキンで口元を拭う。
「はい。あの、とても」
「とても?」
「とても美味しいです、公爵様! お魚とバターの風味がまるで上質な二重奏を奏でているようです!」
「二重奏?」
味の表現にそのような語彙を使用するとは斬新だと思ったが、不思議と説得力がある説明だと思った。
だが、同時にジークハルトはあることが気にかかり、コホンと咳払いをする。
「君は私の妻、なのだろう?」
「は、はい! あくまでお飾りではありますが……」
そう付け加え小さく苦笑するソフィアの様子に、なぜだかジークハルトの胸がズキリと痛む。
「そうか。……であれば、私のことを公爵と呼ぶのは不自然だと思うのだが」
「!」
思わず両手で口元を塞いで目を見開くソフィアだが、しばらく間を置いてから涙声で訊ねた。
「わたくしが公爵様のことを、……旦那様、とお呼びしてもよろしいのでしょうか?」
「ああ、かまわない」
ソフィアはハンカチで目元を拭うと、真っ直ぐにジークハルトに視線を向けた。
「とても美味しいお食事を一緒に摂ることができて幸せです。……旦那様」
そう言って柔らかく微笑むソフィアを見ていると、ジークハルトは自分の凍りついた心が溶けるような、そんな感覚を覚えた。
「……ああ、私も幸せだ」
「!」
たちまち顔を真っ赤にする彼女を不思議に思うが、のちにトーマスから聞いた話だとジークハルトも気持ちのよい笑顔を浮かべていたそうだ。
そうして、二人の優しい時間は続いていく。
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