第11話 彼女は無能ではなかったのか?
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「どういうことだ。彼女は無能ではなかったのか」
「差し出がましいようですが、旦那様。奥様が先日こちらにご到着なされたときのお召しになられていたドレスですが、ご自身のサイズと合っていないように思いました。また初めてお会いした際の挨拶では、報告にあったような高慢な態度は微塵も感じられませんでした」
「そうか……」
ソフィアのドレスのサイズが合っていないことは、実をいうとジークハルト自身も先日彼女と執務室で初めて会ったときに気がついていた。
加えて、清純や淑女とはほど遠いドレスの装飾の派手さに嫌気を覚えたのだった。
「エドワード。彼女について調べてくれ」
「かしこまりました」
トーマスは、綺麗な動作で退室していった。
優秀な彼のことだ。おそらく、一週間も要さず報告があるだろう。
ジークハルトが事前に調査を行わなかったのは、あえて男爵の言葉を鵜呑みにしたかった自分がいたからだ。
その方が、「契約結婚」などというソフィアに対して非情ともいえる仕打ちをする自分自身の罪意識が、少しは軽くなるとどこかで思ったのだろう。
また、エリオン男爵との話し合いでソフィアは契約が切れたあとは実家には戻らせず、公爵家の領地の農村でひっそりと暮らすように手配をすることになっていた。
そのときは、もちろんジークハルトとは離縁をし実家にも戻れないので平民として生きることになるが、無能で男をたぶらかしてばかりの娘なので当然の対処だと父親である男爵からは聞かされていたのだ。
「だが、実際の彼女は百八十度違っていた。素朴で実に話しやすく……」
途中で、自分自身の言葉に気がついて言葉を呑み込んだ。
「ともかく、彼女については報告が上がってから考える」
呟き退室し廊下を歩いていても、先ほどのソフィアの笑顔を思い出すのだった。
それから約三日後。
トーマスからソフィアに関する調査報告が届いたと報せを受けて、早速ジークハルトは執務室で報告書に目を通した。
だが、それに目を通せば通すほど、男爵が事前に伝えてきた「無能な末娘像」が崩れていくようだった。
(アカデミーを首席で卒業、特に問題行動はない。男の影どころか学友も一人もいない。いつも一人で行動をしていた)
学生生活は学友はいなかったものの、学年考査の成績はいつも首位で、魔法論のスピーチでは優勝経験もあるようだ。
他にも刺繍、芸術、数学、化学等、様々な分野に長けていて大会やコンクール等で優秀な成績を収めているらしい。
ただ、貴族令嬢に必須なダンス科目に関してはパートナーが決まらなかったので、参加することさえできなかったらしい。
(これは、先日に今まで人とまともに会話をしたことがないと言っていた彼女の言葉は真実のようだな……)
そう思うと、何か形容のしづらい気持ちが込み上げてくるが、ともかく報告書を読み進めた。
その先は、実家での彼女の境遇が記されていたのだが、それはエリオン男爵から聞かされていたことと百八十度違うことであった。
男爵からは娘はわがままで手がつけられず、浪費癖が酷く毎月仕立て屋を呼んでは不要なドレスや宝飾類を購入すると聞かされていた。
加えて、酷い癇癪持ちで気に食わないことがあればすぐに使用人や侍女にあたり散らしていたらしいが、報告書によるとそれはソフィアのことではなく彼女の姉のリナのことらしい。
男爵はリナは自慢の娘だとやたら推してきたが、今思うとゾッとする。
なぜ、男爵が姉妹の行いを間違って認識しているのかは不明だが、ソフィアの名誉は守らねばならないと思った。
加えて、詳細な調査内容の割には調査期間が短かったことが気に掛かった。
「エドワード。お前は男爵家の調査に関して事前に行っていたな」
「はい。旦那様のご指示がないのにも関わらず動いたことに対しまして、謝罪をいたします」
トーマスはジークハルトに対して、綺麗な姿勢で辞儀をした。
「いや、謝罪はよい。一時的とはいえ、公爵家に住まうことになる令嬢のことを事前に調べることは当然だろう。そのことに異論はない」
「ありがとうございます」
ジークハルトは目を細めた。
(彼女に対してとんでもない誤解をしていた。……むしろ彼女こそ、……いや、私がそれをいう資格はない)
そう思うと、ジークハルトはトーマスに声をかけてある提案をしたのだった。
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