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エピローグ この色はどこかで見たことがある

 2年後、ネプトゥ領の農業地帯。


「っ・・・やぁあああああ!!」

「くそ!これから領内が栄えていく時だというのに!!」

「これが14年前にあったモンスターのスタンピードかよっ!」

「全部片付けてやる!」


 農地に入ろうとするリザードマン達を警備隊20人が必死に食い止めている。


「は、ハインツ隊長!もぅ持ちませ・・・ぐぁっ!」

「ハーケン!みんな、これ以上モンスターどもを進ませるな!」


 年配の兵士が大型のリザードナイトの剣を盾で受けながら部下に檄を飛ばす。しかし無情にも兵士の倒れた箇所からリザードマンが侵入していく。

 ・・・よし、何とか間に合った!


 リザードマンが畑を荒そうとしたその一瞬、その一団に赤い放物線が横に描かれる。


「ラーヴァ・ウィップ!」


 リザードマン達が動きを止めて上半身と下半身が綺麗に切断される。ラーヴァ・フロゥとは違い溶岩をまとわせた穂先を振る事で斬撃を強化、そして急速に冷却された土は槍の軌道の形を取って周囲に燃え移らない。アタシの新技だ。


 リザードマンの死骸の中から現われたアタシを見て兵士達の一人が騒ぐ。


「父さま、マイサ様ですよ!2年前に会ったマイサ・カデン様!」

「何だと?そういえば・・・面影がある!」


 隊長らしき兵士はリザードナイトの剣をいなして返した剣で仕留める。とどめを刺した上でアタシに語り掛けてくる。見覚えのある彼はあの時の・・・。


「き、貴殿は・・・マイサ・カデン殿か?」

「お久しぶりですブラート卿、僭越ながらこの地を守るため馳せ参じました・・・ギルド・グラーナの戦闘員に告ぐ、ネプトゥ領警備隊と共にモンスターの討伐・領土の防衛を行え!!」


「「「おおおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおぅ!!!」」」

「す、すごぃ・・・」


 警備隊を取り囲んでいるギルドの冒険者達。総名は50人余りでどれもこれもひと癖ふた癖ある連中だけど、戦闘においてこれほど頼もしい存在はないわね。


「カデン殿、この最中ギルドからの援軍とは何ともありがたい!このハインツ、どうお礼を申し上げて良いのやら・・・」


 ブラート卿の感謝は受け取るも手をかざして発言を止める。


「ブラート卿、それよりも今はモンスターどもを駆逐する方が先です・・・モンスターの本隊はどちらでしょうか?」

「むぅ、報告によると西の荒地に駐屯しているようですが・・・何分領土を守る事に気を取られて攻めに行くこともできず・・・」


 西の荒地・・・やっぱりあそこから出てきているのね。


「アタシにお任せ下さい・・・アミュス、冒険者達の指揮を任せる!こちらのブラート卿に協力して領土にモンスターを一歩も入れるな!!アタシは連中を片付けてくる!!」


 グラーナの戦闘員の中からショートスピアを構えた女戦士が前で出てくる。アタシの後輩アミュスだ。冒険者の指揮を任せるにはこの娘が適任だ。


「はっ!マイサ先輩もお気をつけて!!」

「カデン殿、すまん・・・どうかご武運を!」

「せっかく並び立てたと思ったのに・・・また先を越された!」


 14年前から再び起こったモンスターのスタンピード、今日こそアタシの手で決着をつけてやる!



◇◇◇



 西の荒れ地にて。累々と倒れ伏しているモンスターの死骸の中で立ち上っているのは巨大なアースドラゴンとアタシだけ。

 炎をまとわせたパルチザンが一直線にドラゴンの胴体を突き抜ける。


「はぁああああっ!ヒィィィィトクレィィモァァアアア!!」

「Go・・・・・guagyAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


 アースドラゴンの断末魔が響く。もうこの場において生命を持つ者はアタシだけとなった。

 5メートルもの巨大な死骸からドラゴンが持っていた巨大な魔石を探し出し・・・パルチザンで砕いた。

 心なしかあたりの禍々しい鬼力が収まってきたように思える。


「終わった・・・ようやく」


 安堵のあまり仰向けに寝そべる。これでこの領地でスタンピードが起こる事は無い。



―――――



 2年前、デルトのお墓を後にして行く当てもなくさまよっていたアタシは領地から離れたロザリスの町へ行き古巣のギルド「グラーナ」に辿り着いた。


 アタシの素性がバレるかと心配してはいたが、クトファの町で作られたギルドカードの上に、ここのギルドマスターも代替わりしていたので特に問題なく在籍する事が出来た。

 また都合が良いのか悪いのかアタシ達の面倒を見てくれた先輩冒険者達も引退したり他の町に行ったりで、この町にはアタシの顔を覚えている人間はいなかった。


 デルトが言った通りアタシの身体は貴族生活でかなり鈍っていたようだ。ブランクを埋めるべくソロで次々とクエストをこなしていく。


 引退した前マスターのシォマーニおじいさんには会わない事にした。アタシの正体を知っている人だしネプトゥ領代官だったデルトの事は承知しているハズ。これまでの経緯を考えると軽々しく会えるものではない。

 もうアタシは「マィソーマ・ウルカン」ではなく「マイサ・カデン」なのだから。



 そんな中現ギルドマスターから新人冒険者の訓練教官の道を勧められた。考えた末にアタシは引き受けることにした。


 シャンゾル王国にはAランク以上の冒険者から王国の騎士団や憲兵隊への入隊が認められている。現役騎士や憲兵の3割が高ランクの冒険者出身である。かつてはアタシもこの方法で仲間を引き連れて騎士団に入団したものだ。


 アタシが教官となって新人を育てれば人材が騎士団に入る事になり、デルトの残した肥沃の農地を持つネプトゥ領土を守る事に繋がる・・・これが王国に処刑されるハズだったアタシを逃がしてくれた亡きデルトへの恩返しだ。



『俺は君の事が嫌いだ、だが君の目的とするところはそれを果たせなかった俺の友人と同じようだ・・・そんな君にはこれを渡しておく、もう二度と会う事はないだろう』


 突然ギルド・グラーナにやってきたシャンゾル王国の王太子殿下は、アタシを見るなり不快な表情を隠しもせずそう言って一冊の報告書を手渡して去って行った。貴族だった頃にも応対した事がないのにここまで嫌われるものだろうか?


 渡された物はモンスターのスタンピード発生条件について書かれた報告書だった。


 ここ5~6年前からの報告によると、スタンピードの原因の一つにはモンスター集団のボスが体内のものとは別に所持している巨大な魔石にあるとされている。

 この巨大魔石により他の魔石が引き寄せられ、結果的にモンスター達は際限なく生み出されているようだ。


 すなわちこの魔石を破壊すればスタンピードは起きなくなるという事だ。


 ウルカン領には在住ギルドが無かったという事もあるが、こういう事を調べもせずただただ権力闘争に時間と手間を費やしていた自分が恥ずかしい。


 確かにこれはアタシが一番欲しかったものだけど殿下はどうして知っていたのだろう?それに初対面にも関わらず嫌悪感丸出しの態度に『友人』と言っていた・・・。



 ああ、そうか・・・どういう繋がりかは分からないけど殿下の友人とは「彼」の事だったのか。アタシの失策のために「彼」は死に急いだようなものだから嫌われて当然だ。


 それに『二度と会う事はない』という言葉も額面通りではなく、「彼が殺したマィソーマ・ウルカン」が生き返るのを恐れての事・・・つまり彼の遺志を尊重して二度と貴族として舞い戻るなというメッセージだ。


 もとより貴族に復籍するつもりはない。アタシはアタシの決めた「路」を行くまでよ。



―――――



 残念ながらスタンピードの要件は外にもあるので全てのモンスターが消えた事にはならないが、とにかく大量発生の可能性を一つ潰したことになる。

 アタシ達の運命を狂わせたスタンピードを片付ける事が出来た。


「ふぅ、まったく防御は苦手よ・・・装備と服がダメになっちゃったわね」


 戦闘中は昂ぶっているから気にならなかったけど、動きやすいハードレザーの鎧はボロボロになっており身体中に傷を受けまくっている。デルトがいないと自分の身も守れないなんて情けないわね。


 右脇腹から力が抜けていっているようだけど苦しくはない。もう貴族ではなくなったけどやっと貴族らしい事が出来たわね。


「デルト・・・アタシ、()()の領地を・・・守れたかな?」


 見上げる空がやけに青く感じる・・・この色はどこかで見たことがある。



「水属性!お嬢様、見て下さい!僕もやっとスキルが使えるようになりました!」

「わぶっ!それは分かったからこっちに向けないでよ!水がかかったじゃない!」



 そうだ。デルトが初めてスキルを発現させた日の空の色と同じ・・・。


 綺麗な空をいつまでも見ていたいけど眠くて仕方がない。

 アタシはそっと目を閉じた。




<終>

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