表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/13

第八話 思わぬ再会を果たす

 ユーリの問いかけに、ジグは泣きそうな表情で答えていた。

 

「お…お久しぶりです。殿下……」


「ジグリール……」


 それきり黙ってしまった二人だったが、ジグの腕の中にいたイヴァンの一言で、その場の空気が一変していた。

 

「まぁま? おじちゃ、だれ?」


 不安そうなイヴァンの言葉に、ジグは慌てて笑顔を作っていた。

 

「イヴ、この方は、ママの……、お……お友達だから」


「おじちゃ、ともだち?」


「そうよ。だから、怖い人じゃないから安心して」


「う~……」


 ジグは、そう言って必死にイヴァンの不安を取り除こうとしていた為、ユーリとオーエンの反応に全く気が付いていなかったのだ。

 

 ユーリは、青い顔をしてジグの腕の中のイヴァンを見つめていたのだ。

 

「ま……、まま…だと?」


 そして、ユーリをおじさんという、イヴァンにオーエンは肩を震わせて爆笑していた。

 

「くっ……、くくく!! ユーリをおじちゃん……、くっ! あははは!!」


 まさに、その場は混沌と化していたと言えよう。

 ジグは、困惑しつつもこのまま知らない顔を通すことも出来ず、ユーリとオーエンを自宅に招くのだ。

 

「殿下、オーエン様……。えっと、とりあえず、お茶でも……」


 そう言われた二人は、ジグの後について家へと入っていったのだ。

 通された室内は、温かな空気で満たされていた。

 ユーリとオーエンにお茶を出したジグだったが、イヴァンのために夕食を作る必要もあり、慌しく二人をリビングに残してキッチンに向かっていた。

 普段は、料理中はイヴァンをリビングに残していたが、今日はそう言う訳にもいかなかったのだ。

 キッチンにある子供用の椅子にイヴァンを座らせたジグは、混乱する頭のまま夕食の支度を進める。

 キノコのたっぷり入ったシチューと黒パン。ポテトサラダ。イヴァンと二人での食事であれば、それで足りるが、ユーリとオーエンの分を出さないわけにもいかないと、ハンバーグとグラタンも追加で作っていた。

 ジグは、出来上がった料理を運ぶ前に、イヴァンと目を合わせるようにしてこう言い聞かせていたのだ。

 

「イヴァン、これから、ママの昔のお友達と一緒にご飯を食べるけど、いい子にできる?」


「うん。イヴ、いいこできるよ」


「うん。それと、二人にもしパパのことを聞かれたら、天の国にいるって教えてあげてね」


「てんのくに? う~ん、わかった!」


「うん。イヴァン、ありがとう」


 最後に、イヴァンを抱きしめたジグは、平常心と呟きながら出来上がった料理を運ぶのだった。

 

 ジグの作った料理を食べるユーリとオーエンは、何を話していいのか分からず、無言で食事を口にしていた。

 その間も、ジグはいつものようにイヴァンの口元を拭いてやりながら、ゆっくりと食事をしていた。

 無言の食事を終えたところで、ユーリが恐る恐るといったように声をかけたのだ。

 

「あの…な。ジグリールのその髪と目は……。それに、その子は……」


 ユーリは、記憶の中のジグリールの金の髪と碧眼を思い出しながら、そう口にしていた。

 ジグは、一瞬眉を顰めた後に眼帯を外していた。

 そこにあったのは、昔と変わらない美しい碧眼だった。

 空の食器を見つめながら、ジグは震える声で言うのだ。

 

「えっと……、魔王討伐後に、ちょっとあって、髪と右目の色が変わっちゃったの……」


 ユーリは、どうして元の色の瞳の方を隠したのか、なんとなく察して黙り込んでしまった。

 

 ―――別人として生きるつもりという訳か……。どうしてだ、ジグリール……。何故、俺の前から居なくなったんだ。

 

 会話が途切れ、しんと静まり返った中で、オーエンはイヴァンのことを聞いていた。

 

「ああ……。そのなんだ……、その子の父親って……、ゆ―――」


「イヴのぱぁぱは、てんのくににいるの!」


「えっ? 天の国? ちょ、待ってくれ、その子の父親は、どうみても―――」


「違います! オーエン様の勘違いです!」


 その先を言わせないとしたジグの一言でオーエンは、黙り込むのだった。

 イヴァンの姿を見て、オーエンは確信していたのだ。

 その姿は、ユーリの小さなころによく似ていたのだ。そして、イヴァンの金色の瞳は、とても珍しい色で、どう見てもユーリの血を引いているとしか思えなかったのだ。

 

 自分の隣で、顔を青くする一つ年下の友人であるユーリ・マルドゥークをオーエンはチラ見する。

 美しい青銀の髪と珍しい金の瞳。今年二十五歳になるユーリは、一見細身に見えて、実はけっこう鍛えていた。甘いマスクと長身で程よく付いた筋肉が、女性から騒がれているそんな男だった。

 そして、テーブルをはさんで向かい合って座るイヴァンは、髪色は金色で違っているが、幼いながらも整った顔立ちと、金の瞳は、ユーリと瓜二つだったのだ。

 どう見ても、血縁関係だと思えるのに、ユーリは心当たりがないようなのだ。

 そのことに首を傾げるオーエンだったが、確かに、二人が子供を授かるような行為をするタイミングなんて、魔王討伐中はなかったし、討伐後はすぐにジグは、姿を消してしまっている。

 

 一人、悩みだしたオーエンは、ジグと最後に顔を合わせたときのことを思い出して小さく、「あっ!」と声を出してしまうのだ。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ