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第七話 魔女様と騎士

 村長宅で賑やかな食事を終えた視察団の面々は、その日泊まらせてもらう家に三手に別れて向かっていた。

 ハジーナ村には宿屋がないため、村長宅に騎士二人と学者が一人世話になることになった。そして、大工の棟梁の家にも騎士と学者の二人が泊まることとなった。

 ユーリとオーエンの二人もまた、村にある商店のまとめ役の家に泊めてもらうこととなったのだ。

 

 翌日から、二人の学者の調査に三人の騎士が付いて回ることになったが、ユーリとオーエンの二人は別行動をしていた。

 昨日の熊が村に害をなす存在か確かめるために森に入っていたのだ。

 熊の縄張りは、村に近い場所にあったため、念のために駆除することにした二人は、昨日から話題の中心になっている魔女の少女について話をしながら、熊退治をしていた。

 

「話に聞いた魔女様って子、灰色の髪だってさ。今回も空振りみたいだな」


 オーエンがユーリにそう言うと、表情を変えることなくユーリは、熊に剣を突き立てながら返すのだ。

 

「別に……。あの子を探すために視察団に加わったわけじゃない……」


 ユーリの平坦な声を聴いたオーエンは、くすりと笑っていた。

 そして、ユーリに意地悪そうに言うのだ。

 

「ふーん。俺には、未練たらたらに見えるけど? あの子のこと、何とも思っていないやつが、あんなことしないと思うけどなぁ」


「べ、別に……。いや、お前相手に意地を張っても仕方ないな……。ああ、正直がっかりしてる。ジグリールは、絶対に生きている。だが、どこにもいない。彼女は国外に行ってしまったのかもしれない……」


 平坦な声色は一変して、悲し気な声に変っていた。

 その声は、愛しい相手を失ってしまったような、そんな悲しみを堪えているような、そんな声音だった。

 オーエンは、剣についた熊の血を払いながら、ユーリを励ますように言うのだ。

 

「ああ、ジグリールは、生きてる。それは絶対だ。あの時、どこか痛めた様子だったが、あの子は自分の足で歩いていた。それに、俺たちから逃げ遂せたんだ。そんなあの子がむざむざ死ぬはずがない。もし、国外にいるってんなら、俺が探しに行って、絶対に連れて戻るから、だからお前はあんま無茶して陛下を困らせるんじゃないぞ?」


 最初は励ますように言っていたオーエンだったが、最後はどこかユーリを諭すようなその言い方に、ユーリは鼻を鳴らしていた。

 

「ふん。ジグリールは、俺が見つける。だから、お前は黙って俺に協力すればいいんだよ」


「へーへー」


 そんな軽口を叩いていた二人は、仕留めた二匹の熊をそれぞれ担いで村に戻ったのだった。

 ちなみに、二匹の熊はすでに血抜きがされており、村に食料として二人は提供したのだった。

 

 熊を村長に渡したユーリとオーエンは、昨日は見て回れなかった場所を見るために、村長に書いてもらった村の案内図に従って、ゆっくりとした足取りで周囲を見渡していた。

 案内図の一番端に書かれた、魔女様の魔法薬店の文字に目を引かれたユーリは、オーエンを連れてそこに向かったのだ。

 しかし、留守なのか、店の扉は施錠がされていた。

 店の裏手に周っても見たが、人の気配はなかったことに、ユーリは内心がったりしたのだ。

 ユーリの探し人は、金の髪と碧眼の少女だから、話に聞く魔女様とは別人だとは理解していたが、その目で確かめたかったのだ。

 そんなユーリの心を読んだかのように、オーエンは言ったのだ。

 

「残念。留守みたいだな。まあ、そのうち会えるだろうから、今日のところは戻ろう」


「べ、別に……。はぁ……。そう……だな。会ってみたかったよ。魔女様ってやつに」


「お前なぁ……。そうやって、気持ちを誤魔化したり、隠そうとするから……。って、こっちに向かってくるのって、噂の魔女様か?」


 オーエンが、ユーリに説教じみたことを言っている時だった。

 少し先から、楽しそうな声が聞こえてきたのだ。

 

「お花畑、綺麗だったね」


「うん! ぴんくのおはな、かわいい!」


「そうだね。また、お弁当持ってピクニックに行こうね」


「うん!!」


 遠目に見えるのは、小さな子供を抱きかかえた灰色の髪をした少女だった。


 イヴァンを抱きかかえたジグは、店先に二人の騎士が経っているのに途中で気が付いたようで、立ち止まり怪訝そうな表情をしていた。

 そして、ジグとイヴァンの声でこちらを振り返った二人の騎士の姿を見て、目を大きく見開いた後に後退り、走り出していたのだ。

 

 ユーリはというと、ジグが走り出す前に大声をあげて駆け出していた。 

 

「ジグリール!!」


 ユーリの声にジグは、肩を震わせてからゆっくりとスピードを落としていた。

 そして、立ち止まったジグに追いついたユールは、震える声で確かめるように問いかけたのだ。

 

「ジグリール……。元気だったか?」



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